負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の爽快なる口当たり「バッド・テイスト」

サクセスへの道は、やっぱり小さなことをコツコツと。DIYスピリッツ満載のドロドロスプラッターは、口当たりもグロッとさわやかな手作り感覚爆発の情熱作

(評価 70点) 

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ここは田舎のゾンビランド。ゾンビたちをただひたすらに踏み潰す。相手は屍同然のエイリアン、脳みそも、飛び出る目玉も内臓も、細かい事は気にするな!若きエネルギー爆発のグシャドロ爽快スプラッター

 1980~90年代にかけてのビデオ全盛期のレンタル・ビデオ屋は、それこそB級C級映画フリークどもの天国のような場所だった。TSUTAYAのような大手チェーンなど存在もしなかったそのフィールドは、それぞれが個人経営の、吹けば飛ぶような小さな店が群雄割拠する世界で、並ぶ品揃えのタイトル一つとっても、事業主である店長の趣味が露骨に反映されていた。

 たとえば、まだ日本ではビデオ・リリースすらされていなかったあのクロサワの「隠し砦の三悪人」の米国版のビデオや、日本では発売禁止だった三島由紀夫の半自伝映画の「MISHIMA」などが、商品として堂々と並べられていたりした、とんでもない時代だったのだ(勿論、違法なのでしょうが)。そして、そんな店の奥に、大量に、時には無造作に平積みにされ、決まったように置かれていた作品群こそ、スプラッター系のB級、いやC級のホラーまがいの作品だった。ところが、店の奥に埋もれているそんなクズ同然の作品にも思わぬ拾い物というのがあって、ガレージキットならぬ、そんな一品との出会いを求め、若くして既にアウトローな人生を歩んでいたこの負け犬は、そんな町のレンタル・ビデオ屋に日夜、入り浸ってはプレミアムな作品群の発掘に余念がなかったのだ。

 この「バッド・テイスト」を見たのも、そんな時代。とはいえ本作については、予備知識らしきものは一応、既にあった。当時の映画雑誌のページの片隅に、本作が、まったくのド素人が四年の歳月をかけ、完全な手作りで作ったスプラッター・ホラーと紹介されていたのだ。その上、その映画は、厚かましくもカンヌにまで持ち込まれ、世界配給まで成し遂げる快挙を果たしてしまったとも。

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 こんなイントロダクションに、この負け犬が、興味をそそられないわけがない。かくして、マタタビに飛びつくネコの如く、レンタル・ビデオのクズの山に分け入り、早々、目ざとく見つけ、鑑賞したスプラッターは、晴れやかに血と内臓が飛び散る、手作り弁当の味がする佳作だった。

 そして、その時、この負け犬の脳裏にしっかりと刻印された名前こそ、本作を四年もの歳月をかけてコツコツとほぼ手作り同然に作り上げたピーター・ジャクソンだった。しかし、この後、ジャクソンは、「ブレインデッド」などの同系列のスプラッター系の作品を放ち、ハリウッドデビューを果たすも、比較的、目立たないステータスに落ち着いたかのように、とんと名前を聞くことがなくなった。その名前との再会を果たしたのは、それから十数年も経ってから、それも意外きわまりない再会だった。

 時に世間では、映画化された、あのファンタジーの金字塔的作品として有名な「指輪物語」の第一部が大ヒットし、話題をさらっていた。そもそもファンタジーには、さしたる食指をそそられることのない負け犬の目に、その時、たまたま留まったのが、「指輪物語」の監督のピーター・ジャクソンという名前だった。

 はっきり言ってその時は、そのピーター・ジャクソンが、あの「バッド・テイスト」のジャクソンと同一人物だとは、夢にも思わなかった。あのチープなスプラッターニュージーランドの田舎で細々と作っていた男が、いくらあれから十数年を経たにせよ、さしたる目立った活躍も聞かないまま、いきなりファンタジーの三部作の超大作の監督を務めるなど、夢にも思わなかったのだ。

 ところが、それが、同一人物であることが判明し、しばらくして見たその「指輪物語」の堂々たる出来映えにも感嘆し、つくづく、十数年前のニュージーランドの一人の映画オタクが辿った道のりと隔世の感に思いを馳せているうち、ふと、急にくだんの「バッド・テイスト」がまた見たくなり、アナログのビデオ・テープならぬYOUTUBEで今回、再会を果たしてしまったという次第。

 レスキュー要請を受けたエージェント風の男がどうやらエイリアン・ハンターのボーイズたちを派遣する何故かスパイ風のイントロで始まる本作。そこから閑静な海辺の村に舞台が一転するが、映画自体のルックスは、はっきり言って自主映画丸出しの画調だ。

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 しかし、それを見て凹んでも、直後から始まるゾンビたちとのチェイスと虐殺シーンには、たちまち目を見張るはず。数十年前にもなる初見の時にも驚かされたが、とにかく、コンテや編集、シーンの構成の技術が実にきめ細かく、並外れているのだ。スピーディなキャメラのトラッキングや、クレーンを使ったとおぼしきダイナミックな動き。そして、カット割りに至るまで実に巧み。

 本作の内容はといえば、ストーリーなど無きに等しく、前半部分は、ただ次々、襲ってくるゾンビをハンター・ボーイズ(役者たちが自主映画丸出しで実にショボイのがいい)たちが、返り討ちにしていくシーンが続くだけだ(その時、いちいち、ご丁寧に必ず、脳みそグシャドロのサービスがあるのがご愛敬)。

 とりわけ、今もその髭面は同じ、若きジャクソン本人がゾンビに扮した、崖っぷちでの攻防のシーンの細かなカットの構成が実に秀逸。こうした技術的なテクニックの確かさが、凡百の自主映画的ゾンビ映画とは、一線を画していることが、本作は、出だしからして良く分かる。そして集結したハンター・ボーイズたちが、エイリアン・ゾンビどもが巣食う、一軒家に乗り込んでからは、グロいシーンのオンパレード。床一面の血糊に内臓。実にあっけらからんとしたそれは、何だか晴れやかなほど。

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 やがて打倒されたゾンビたちが、本来のエイリアンの姿へと変身し、後半はクリーチャーたちとのバトルになっていく。最後には、エイリアンたちのアジトの一軒家が、スペースシップさながら飛び立つ、半分、大掛かりなスペクタクル・シーンまであるから、そのサービス精神もあっぱれなもの。

 勿論、ここには内容などと言う高尚なものは微塵もない。ただあるのは下劣で過激なほどにグロテスクな、B級なジャンク映画への愛情だけだ。YOUTUBEに、別途、UPされていた本作のメイキング映像には、クリーチャーのマスクは勿論、クレーン撮影に用いた器具までDIYで自作した様子が映っている。嬉々として、そうしたプロップをイントロダクションするジャクソンの生き生きとした瞳の輝きが素晴らしい。

 人間、夢を成し遂げるキーは、やはり情熱なのだ。この一見みすぼらしいデビュー作とは、予算も見た目も何もかもがまるで違う「指輪物語」にしても、その作品が、フランチャイズに至るまで大成功した原動力となったのは、若きジャクソンの瞳の輝きと情熱だった。まさにバッドなジャンク映画の、この「バッド・テイスト」だけど、そんなメッセージだけは力強く発信してくれているのです。