負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のロッカーなゾンビがキッチュなライド感満載のホラー映画を作ったらこうなったという件「マーダーライドショー」

悪趣味、下劣、不快に淫靡、醜悪、残虐、グロテスク!ゾンビからあなたに贈る、中産階級の一家がお茶の間で、アミューズメント感覚で楽しめる愉快で楽しくクレージーなホラー映画!(評価 64点)

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 不快な音楽、不穏な映像。のっけからアングラ臭を全身から発散するかのような、そんなタイトルバックで始まる本作は、ホラー映画が三度の飯より好きなロブ・ゾンビが、ゾンビがロブでロブがゾンビだと言わんばかりに、飯テロ級の熱量で放ったデビュー作。 

 ファンハウスに立ち寄ったカップルが、殺人鬼一家の餌食にされる。ホラーなら古典落語と言ってもいい定番のスタイルで語られる本作は、醜悪、低俗、不愉快といった言葉が、逆に誉め言葉に冠されるようなカルトB級ホラーといえる。

 実際、この手の映画が、確かに不快ながら嫌いになれないのは、やっぱり、ジャンルものへの愛着が根底に感じられるから。プレ・タイトルの押し込み強盗のシークェンスで、白塗りのキャプテン・スポールディング(シド・ヘイグ)と会話するのが、何と70年代のバイプレイヤーのアイコン、マイケル・J・ポラード!ポラードがはにかみながら話している!それだけでポンコツなB級映画フリークはひたすらウレしくなるものなのです。

 かくて語られるのは、「悪魔のいけにえ」「死霊のはらわた」ともそっくりそのままの、カップルたちが殺人鬼一家の元に、一晩お世話になる定番ホラー。ロブ・ゾンビはその分かり切った世界を、このジャンルへの思い入れたっぷりに描く。そして、そこにファンハウスの楽しさのスパイスを効かせてくれるから、嫌みなく素直に楽しめる、まさに無印良品タイプのホラー映画と言えるでしょう。

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 無声映画の「カリガリ博士」は言うに及ばず「ドラキュラ」から「フランケンシュタイン」といった怪奇映画のアイコンの遺伝子を受け継ぐような、本作のメイン・キャラ、白塗りのキャプテン・スポールディングの存在感が、まずは強烈。このスポールディングのイントロダクションの後、エロ度満点のクレージー娘やヘビメタ崩れみたいな息子に、行きずりの獲物が餌食にされるのをファンハウスのローラーライドに乗った乗客さながら我々は見せつけられることになる。

 この名前も強烈な監督のロブ・ゾンビ。ゾンビなのに控えめな生命力だけあって、才気が全く無いところが、凡庸な庶民の味方みたいで、ひとますそこが良い。一応はロッカーなので音楽の才能は、ひとまず置いといて、その凡庸さが逆に功を奏したのか、ただいたずらにグロを煽るのではなくて、この手のお約束を、意外と丁寧に描いていることに見ていると気付かされる。

 それどころか、さきのマイケル・J・ポラードのサプライズ出演のみならず、殺人鬼一家のママには、これまた70年代のクィーン的存在ともいえるカレン・ブラックが昭和の母性の存在感を示してくれるから、そのセブンティーズ嗜好に、思わずこちらもシンパシーを覚えてしまうというもの。しかしながら、マザー・ファイアフライに扮したこのカレン・ブラックの超絶ハイテンションのキレキレの演技には脱帽。この時、カレン・ブラックは64才。シックスティーズにして披露してくれる、それなりのお色気とノリノリのぶっ飛び演技には、これまたこちらまで、すっかり嬉しくなってくる。

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 続いて繰り広げられる、マーダーライドショーのタイトル通りの獲物たちを取り囲んでのひたすらキンキーなる宴。しかし、決してそれだけではないのが本作のスゴいところ。捉えた獲物たちを閉じ込めた棺を深い穴に吊り下ろしてから展開されるのは、魔物たちが住む、クライブ・パーカー並みのアンダー・グランドな異世界なのだ。

 全編に散りばめられたお遊びに、キッチュで残虐、グロテスクな描写の数々、目まぐるしく展開されるキンキーなマーダーライドショーは、かくしてクライマックスに至るやダーク・ファンタジーの領域にまでその風呂敷が拡がっていき、ようやく、その迷宮世界をヒロインが逃げ延びたと思わせた矢先、我々の前に突き付けられる、冒頭の狂言回しのキャプテン・スポールディングが再登場してのバッド・エンド!

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 いやはや、無声映画の古典に始まり、ハマー・プロのクラシックな怪奇映画の数々、そして現代のアングラ映画からスプラッターホラーに至るまで、ホラーのサンプリングをアラカルト風に詰め込んで、ジェットコースターライドさながらに見せてくれる本作。とっ散らかっているようでこのヴァラエティには、ちゃんと統一性がとれている。

 ロブ・ゾンビに才能が無いなどというのは、あっさり撤回。エンド・クレジットの音楽センスを含め、ゾンビはゾンビでもこのゾンビは決して、ただ徘徊するだけではない、したたかにコントロールする才能をやっぱり持っているといえば誉めすぎか。

 とにもかくにも、このキッチュでキンキー、ハイテンションで極悪趣味な世界は、きっとまた見たくなるに違いない。アカデミー賞などとは無縁なバカデミー賞クラスの映画を愛し続ける負け犬に、また一つ、マイフェイバリットのジャンク・ムービーが加わったのは喜ばしいことです。

 やっぱりゾンビはあなどれない、皆様もこのめくるめく悪趣味な世界、一度ご覧になってはいかがでしょう?