負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の鉄人仮面のプロトタイプはポンコツ大魔神だった件「アイアンマン」

DIY感覚なハンドメイドのヒーローのオリジンは、良く出来たスクリプトで何回見ても楽しめる

(評価 80点)

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ローマは一日にして成らず。無知なゆえローマ帝国がどれだけの年月をかけて出来たかは知らないけれど、今や映画業界に燦然と聳え立つマーベル帝国は、この「アイアンマン」というスタートアップを起源とする、わずか10数年で完成を見たといっていいのだろう。

男性のみならず女性も日曜大工が趣味なんて人がいる昨今、ハンドメイドなクラフトワークとして作ったヒーローには大人が夢中になる魅力があるものだ、ということを見るたびに再認識させられてしまう本作。

 良く出来ているのは天才工学者トニー・スタークがほぼ日曜大工感覚で作ったアイアンマンだけではない。何よりも本作が成功したのは、実に良く練られたスクリプト、つまりは脚本といって過言ではない。そもそも、マーベルのヒーローたちの中でも随一のマッチョマンなルックスのアイアンマンの存在は知っていてもその成り立ちやオリジンは全く知らなかった。だから、というだけではない、とにかく本作は語り口が実に秀逸なのだ。

 冒頭、どうやら大金持ちのスターク(ロバート・ダウニー・Jr)がいきなりアフガンでテロリストに襲撃され捕虜になる。そこから一気に時間が36時間さかのぼって、スタークが軍需産業の御曹司、かつ天才工学者、そして何よりもバカ殿に近いボンボンであることが、じつにテンポ良く、それらしいシーンをシャッフルして描かれる。見ている観客は誰でも思う。こんな軽佻浮薄な人物がヒーローやっちゃっていいの?そして、このベクトルから、御曹司のトニー・スタークがいきなり死と瀬戸際のデッドエンドな捕虜生活に放り込まれ、そこで自らの会社が製造した数々のミサイルが戦場で使われているのを目の当たりにしたことからふと自分の生き方に疑問を持ってしまうというフェーズのベクトルへのシフトが実に上手い。だから、一緒に囚われの身となっているアフガンの科学者インセンに奮起を促され、スタークがありあわせの工具を手に取り、鉄人を作り始めた時、誰もが高揚するのだ。

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出来上がった鉄人のプロトタイプのルックスはポンコツだけど、そこでインセンの死に際を看取り、スタークが真の鉄人たるべく発動した時には誰もが喝采をあげたくなる。グォーと火炎放射を放ってテロリストを蹴散らす鉄人にはこの負け犬も思わず涙ぐんだほど(小さい頃に白黒テレビにかじりついて見ていた鉄人28号を思い出しちゃいましたヨ)。

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ここまで感情移入させられちゃったら、あとはもう手玉に取られてしまったのと同じ。すっかり心変わりした挙句、軍需産業から撤収する決断を下したトニーに激怒し仇敵となったスターク・インダストリーのCEOボビー(ジェフ・ブリッジズ)が、こともあろうにスタークが作ったプロトタイプをグレードアップしたアイアンマンを作り、トニーと一騎打ちとなる王道のクライマックスまで一気見必至。

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そして「I AM IRONMAN」のスタークの名セリフをラストにエンド・クレジットが流れ出した時、ただひたすら面白エーを連発している自分に気づくことになる。

クレジットされているスクリプトに手を染めた脚本家は4人だが、このシンプルかつエモーショナル、ツボを押さえたストーリーを練り込んだスタッフは何人いたことやら。

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それにしても何とも可愛かったのが、トニーに献身的に尽くす秘書のペッパー役のグゥイネス・パルトロー。美人ではないけれど、とにかくけなげでチャーミング。70年代に名バイプレイヤーとして活躍したテリー・ガーを思わず思い出してしまった。こんな可愛いセクレタリーに献身的に尽くされてみたいですよね