負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬にもリーダーを選ぶ権利を「ポセイドン・アドベンチャー」

人間がパニックに見舞われ、咄嗟の場合、どうするべきか?その時、リーダーを選ぶとすれば誰がいいのか?ケース・パターンの一つのショー・ケースでもありヒューマン・パニック映画としても感動必至の大傑作

(評価 88点)

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あの日あの時見た映画、ふと日常の生活の中で思い出し、何十年ぶりに見てみたら、実はそれが思いもよらないレベルの傑作であることを再発見するのは実に楽しいものです。

 2001年9月11日、午前8時46分40秒、アルカイダによってハイジャックされたアメリカン航空11便がワールドトレードセンタービルに激突。その後も同様にハイジャックされた旅客気が同ビルに次々と突っ込み、崩落したビルに呑まれ2977人もの尊い命が失われた。

 9・11として歴史に刻まれるその事件で、生存者と死亡者、その生死を分かつものが一体何だったのかについて、今でも記憶に残っているコメントがある。動物には身のすくむようなパニックに見舞われた時、その場にとどまるという本能があるらしい。しかし、9・11で生き残った人たちは、その本能を振り切り、咄嗟にその場から逃げるという行動を躊躇することなく選んだ人たちだったという。

 ふと昔に見たことを思い出し(最初に見たのは、毎度ながらの「月曜ロードショー」だったと思う)、そういえばと何十年ぶりかで何気なく本作を見て、パニックどころかトンデモナイ感動で感涙にむせび泣きながら、真っ先に頭に浮かんだのが9・11のこの逸話だった。

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 それからは、欠かせない必須の作品となって事あるごとに見ている本作。見るたびに驚くのが上映時間が2時間に満たないこと。これだけのスケール、登場人物を描きながらも、決して詰め込み過ぎにもならず、舌足らずにもならず、それでいて見終える頃には、登場人物たちと一緒になって数々のトラップを切り抜けてきたようなヴァーチャルな一体感を覚えてしまっているのは、ある意味、奇跡の所業ではないだろうか、と思ってしまう。だからこそ、いよいよ船底にたどり着く最後の大詰め、目的の場所に行くために潜水して泳ぐ途中、トラブルに陥った牧師のスコット(ジーン・ハックマン)をローゼン夫人(シエリー・ウィンタース)が水に飛び込み、身を挺して助けた後、息を引き取った時、とめどもなく素直に泣けるのだ。

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 それはともかく、今見てもあっけにとられるのが、冒頭、嵐の中進むポセイドン号と主要人物がグランド・ホテル形式で描かれるシーンを経ての、ポセイドン号転覆と、ホールの壁を突き破って海水が爆入してくるパニックシーン。CGなどない時代、目の当たりにさせられる実物のみを使ったまさに実景には、何度見ても口をアングリするしかない。しかし、本作の最大のポイントは、ホールが海水で壊滅する直前の、船底を目指してホールを脱出するしか助かる道はないと主張するスコット(ジーン・ハックマン)と、ホールに留まり助けを待つべきと主張する他のものたちが白熱のディスカッションを繰り広げるシーンだろう。

 まさにここが、あの9・11の大惨事の時同様、キャラクターたちの生死を分かつ運命の岐路となる。結果は、スコットの決断の方に“吉”とは出るが、ホールの壁に立てかけたクリスマスツリーに亡者のように群がる人々の姿は実に憐れでもある。

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 ここから我々は、船底を目指すスコット一行が、立ち塞がる数々のトラップを如何にくぐりぬけ、目的地に近づけるかを、ただひたすら身を乗り出して見守ることになる。常に強硬なスコットといがみ合うロゴ(アーネスト・ボーグナイン)が、欠かせない片腕となっていく展開は、まさに王道。ロゴには、元娼婦という素性ながらも、いかつくて女が寄り付きもしない強面の自分と結婚してくれた最愛の妻リンダ(ステラ・スティーブンス)がいる。他にも、年老いて身寄りもない中年男、兄弟を失ったステージ歌手といった、スコットについていくそんな面々のキャラクターたちの絶妙な組み立てが、最後の感動の見事な伏線になっている。

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 船底に着きさえすれば助かる、そう主張するスコットは、正しいのか。途中、同じように船底を目指す一向に出くわす。しかし、自分たちとは目指す方向が違う。ここで、一行は、証拠を捜すと言って一人で出かけたスコットに従うべきかどうするか心中、揺れ動く。しかし、結果的にはスコットをリーダーとして選んだ自分たちの決断を信じる。やがて一行の前に、最後の関門ともいうべき船底に通じるドアが立ち塞がる。そのドアに吹き付ける高熱の蒸気を止めるためスコットは蒸気を吐き出しているパイプのバルブに捨身で飛びつく。そして、力尽き、海中へと没する。まるで一行のリーダーとしてその役割を果たし切ったかのようなその姿には感動を禁じ得ない。最後に、船底が焼き切られ、日の光が差し込んできたその時の安堵感は、すっかりキャラクターたちに感情移入しきった心からの真に迫った感情だ。

 スコットがいくどもくじけそうになる一行にかけ続けた言葉は「MOVE!」だった。人間は動かなければ、行動しなければ生き残れないのだ。

 ちなみに「月曜ロードショー」で放送された際、解説の荻昌弘さんが、現実には、客船というのはバラストの作用で天地がひっくり返るような転覆をすることは絶対に有り得ない、と冷静に言っていたことを今でも覚えている。しかし、今思えば、そうした有り得ないシチューエーションだからこそ、その窮地を、何の能力も技術も持たない市井の民間人がくぐり抜けて行く姿が本作をただのパニック・ディザスター映画から感動大作のレベルにまで超越させたのだ、ということが良く分かる。

 いずれにせよリーダーに誰を、どんなリーダーを選ぶかも生死を分かつ岐路になる。決してリーダーにはなれない負け犬のようなヘタレな人間にも、どのリーダーを選ぶかぐらいの権利は欲しいものですね~