負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>負け犬の幻惑の猿まわし「12モンキーズ」PART1

テリー・ギリアムも惚れ込んだ絶品のオリジナルスクリプトによる、近未来SF。そのカレイドスコープのように入り組んだ精緻な構成は今なお圧巻。ハリウッドでもっともセンセーショナルとも言われたデヴィッド・ピープルズによるオリジナル脚本の抜粋をご紹介

(評価 84点)

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FADE IN:

INT.  CONCOURSE/AIRPORT TERMINAL - BAY

CLOSE ON A FACE.  A nine year old boy, YOUNG COLE, his eyes wide with wonder. Watching something intently.  We HEAR the sounds of the P.A. SYSTEM droning Flight Information mingled with the sounds of urgent SHOUTS, running FEET, EXCLAMATIONS.

(フェードイン 空港ターミナル、コンコース。 クローズアップ。9才の少年時代のコールだ。その目は驚いたように見開かれ、何かを無心に見つめている。フライトを伝えるアナウンスに交じり聞こえるのは、必死に叫ぶ声や床を人々が駈ける音。ものものしい空気。)

 近未来SFの傑作として名高い「12モンキーズ」の1994年1月27日付のプレプロダクションにおけるスクリプトはこんな光景から幕を開ける。

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 クリス・マルケルによる前衛的なSFショート・フィルム「ラ・ジュテ」にインスパイアされてデヴィッド・ピープルズが書き下ろした、謎が謎を呼ぶようなその脚本は、たちまちハリウッドでも注目の的となる。そして、そのスクリプトにすっかり魅了されたのがあのテリ-・ギリアムだった。

 人類が死滅の危機に瀕する近未来、唯一生き残り、地下で暮らす人々が、人類滅亡のきっかけとなった過去の出来事を阻止するため、一人の男を過去に送り込む。その男には、幼年時代、空港で銃に撃たれ、倒れていく男を見た記憶があって・・という物語の骨子は「ラ・ジュテ」そのものだ。

 本作は、そのベースに、人類滅亡の災厄に関わるテロ組織12モンキーズという設定を絡ませ、記憶と時間に翻弄される囚人コールの人生をシャッフルして描いて行く。その囚人コールにブルース・ウィリス、そして後に12モンキーズのリーダーとなる精神病院の患者役にブラッド・ピット。当時でも有り得ないような夢の顔合わせ目当てに劇場に駆けつけた負け犬がまず驚かされたのが、ハリウッド映画というより東欧SFを思わせるような未来世界のゴシック風のルックスだった。

 本作のメイキングでも明かされている、その未来の地下世界のロケーションに使われたのが、フィラデルフィアにあった廃屋と化した巨大な発電所跡。そのパワー・プラントの現存するインテリアを、ほぼそのまま流用するようにしつらえられたセット・デザインが本作では抜群の効果を発揮している。

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 コールが冒頭の夢から覚め、目覚めるシーンは、スクリプトにはこう書かれてある。

COLE, late thirties, dark hair, comes awake in a bunk cage, one of many stacked four high along both sides of a long dim corridor.  He blinks in the near dark, shaken, disoriented.

(三十代後半で黒味がかった髪をしているコールが、檻の中で目覚める。それは長くうす暗い廊下の両側に沿って四段重ねに積み上げられている多くの檻の中の一つだ。真っ暗に近い闇の中、せわしなく瞬きし身震いする、その姿は右も左も分からない様子)

囚人らしきコールがこの後、課せられる任務が荒涼たる地上でのサンプル回収なのだ。初見の時に最も印象的だったのが、スクリプトでは”space suit”と表現されている、そのシーンでコールが装着させられる防護服。これもまたそのルックスは、有り合わせのプロップを寄せ集めたガレージ・キットそのもので、そのチープな感じが、この寓話SFともいうべき本作には逆に実にハマっていた。

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かくして地上に出たコールが目の当たりにする世界とは何か?いよいよテリー・ギリアムがその本領を発揮し出すこのシークェンスから、誰もが夢中になる展開がこの後に待ち受けている。

ブレードランナー」「許されざる物」など名立たる作品を手がけ、ハリウッド随一ともいわれる名手の、本作の撮影用スクリプトと共に今後もご紹介します。