負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第三十五話「雪に花散る奥州路」 初回放送日1973年3月10日

意外や意外な、菅笠スタイルの紋次郎?

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<山中でイノシシに襲われ、重症を負った紋次郎を助けたのは、越堀の貸元、仁五郎とその娘のお絹だった。敵対する竹蔵一家との勢力争いに陥落寸前の越堀一家は紋次郎に、傷の養生も兼ねて逗留を勧めるが、紋次郎はこれを辞退する。直後、紋次郎が深手を負っていることを知った竹蔵一家がその後を追う。その頃、お絹と恋仲にあった三下の勘助が旅から戻り、紋次郎の窮状を知り、ある提案を持ちかけるのだが・・>

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 紋次郎のスタイルといえば誰もが知っている。マカロニ・ウェスタンソンブレロを思わせるバカデカイ三度笠に、ゴワゴワの道中合羽。シリーズを通して頑なにそのスタイルに、こだわり続けた紋次郎のはずなのに、何と本作では、ちょっと間抜けな菅笠風の三度笠と身ぎれいな道中合羽という有り得ないスタイルで旅をし、戦う紋次郎を見ることができる、実に超レアな、エピソード。

 それというのも、深手を負って、ドスが満足に使えない紋次郎を見かねて、三下の渡世人の勘助が、自分が紋次郎に成り替わって、群がる竹蔵一家の手が及ばない、安全地帯まで旅をする、入れ替わりを持ちかけたことが発端だ。

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 数々の時代劇のヒーローたち。そのヒーローたちは、その存在ゆえに、一つの伝説と化して、噂となって広まっていく。当然、噂の中には、風聞として伝わるうち、実体とかけ離れ、偶像と化すものもいるだろう。大泥棒の石川五右衛門、伝説の侠客、清水の次郎長然り、そして幻の剣豪、宮本武蔵。その実、誰もその実体など今となっては知る由もない。

 皆が英雄視するアイドルは日本語でいえば、偶像だ。そこに目を付けたのが本作だ。ヒーローと脇役の”とりかえばや物語”は、ヒーロー物のシリーズの定番で、その定番が本作の持ち味である。あの座頭市シリーズでもお約束のように、ニセ座頭市はたびたび出て来た。

 まったく別のスタイルで旅をする紋次郎。当の三下の勘助は、すっかり紋次郎風をふかし、道中、いらぬ人助けまでしてしまう、という展開も定番通り。そしてそれが仇となって、追いすがる竹蔵一家と切り合う羽目になってしまうのだ。

 結局、竹蔵一家と内通し、紋次郎を無き者にしようとしていた黒幕はお絹だった、という結末に落ち着くが、最後、すっかり元のスタイルに戻った紋次郎が去る姿に絶妙なタイミングで雪が降りしきるラストがこの上もなく美しい。

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 今なら雪などCGでいくらでも降らせることが出来る。しかし、当時は、当然、そんなおものなどあるわけもなく、この数秒のシーンのためだけに、撮影スタッフたちは、身を切るような寒さの中、どれほど雪待ちをしたのだろうか?などと思うと一層、感慨深いラストである。