誰もが待ち望んだあの男が帰って来た
<渡世人ばかりが狙われる山間の三国街道の道中に、闇夜の中、紋次郎も襲われる。相手に手傷を負わせからくも逃れるが、紋次郎は出会った馬子の政吉の言動から、政吉が事件に関わっていると直感するが、その頃、殺された仲間の復讐に執念を燃やす新六たちも政吉のあとを追っていた>
市川崑自らが監督を手がけた第十八話「流れ舟は帰らず」をもって一旦、終了した紋次郎の第一シリーズ。その放送日が1972年5月27日。
本作は、その半年にわたるブランクを経ての待望の再開となる第一作。そのゲストにふさわしく、女でありながらも馬子という意外な役どころで、当時のセクシー女優、新藤恵美がフレッシュな魅力を披露してくれている。
思えば70年代、エログロ・ナンセンスそのものの時代だった。テレビにもマンガにもいわゆる倫理的なコードなどほぼ無きに等しい時代だったような気がする。
例えば、当時の売れっ子マンガ家ジョージ秋山の少年誌における諸作品を見れば、それは明らかだろう。だが、しかし、それだからこそ、明るい、友情、といったカラーだけを良し、とする現代の風潮からは想像もつかないパワーを秘めた諸作品が爆発するかのように開花し、自由な表現を謳歌していたような時代にも思える。
しかし、2時間もののテレビドラマにも露骨なポルノまがいのエロが散乱するなか、常に気品をたたえたエロスを新藤恵美は発散させていたように思う。80年代にはにっかつロマン・ポルノ(懐かしい響きだなあ~)にも果敢に進出し、そんあ気品あるエロスをアピールしてくれていたようです。
ともあれ本作は、そんな新藤恵美と中村敦夫がタッグを組んで、紋次郎シリーズならではの美しい山間のロケーション、そして山並みにひびきわたるたおやかな馬子唄がミステリー風味あふれるストーリーと共に楽しめる、第二シリーズの口火を切るにふさわしい佳作となった。