負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第四話「女人講の闇を裂く」 初回放送日1972年1月22日

紋次郎の楊枝飛ばしは、アナログな70年代の情熱の賜物だった

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<眠ることを許されない年に一度の女人講。20年前そこで起きた惨劇の話を、たまたま難儀を救った旅館の女主人、筆から聞かされる紋次郎。だが、村を仕切る太和屋は、その惨劇を利用しある計画を進行させていた・・>

 

紋次郎シリーズの魅力の一つは、何といってもあの抜群にイカすタイトルバックでしょう。まぎれもなく崑監督が乗りに乗って監修したはずの、スプリットスクリーン、スチップモーション、ジャンプカット等々を駆使したタイトルバックは今見ても斬新そのもの、古びたところなど微塵もない。

 そしてそのタイトルバックの前に展開される、誰もが思わず身を乗り出すイントロが毎回見事だった。土曜の10時30分というタイムデメリットで、いつも親から早く寝ろと強制リタイヤさせられ、寝床で後の展開を空想するしかなかった身としては実に罪作りな番組だったといえる。

 20年前の惨劇の秘密を紋次郎が解き明かす本作では、そのイントロで、渡し船の船着き場のいさかい中、紋次郎が楊枝を飛ばすお馴染みのシーンがいきなり出てくる。当時、CGなどあるわけもなく、楊枝が空中を一直線に飛んで、鉄製の槍のように何かに突き刺さるというシュールとしかいいようのないトンデモシーンの造形には並々ならぬ苦労があったはず。市川崑監督は、カット割りで表現した、と数々の談話ではあっさり語っているが、ここでは何とアニメーションが使われている。

 宙を飛ぶ楊枝を、斜線を描いた絵の連続のカットで表現するという素朴なトリックだ。これを見た時は思わず顔がほころんだ。そういえばシリーズ全体にこうしたアナログ感覚の熱情が満ちていたよなあ~とつい嬉しくなってしまった

 今見ると、どの楊枝飛ばしにも様々な、仕掛けがほどこされているのが良く分かる。カット毎に分析し、ようやくその仕掛けに気付き驚いたものも。そして、今だに何度見てもどう撮ったかが分からないものもあるから、大したもの。

 時代を経ても決して色褪せることのない紋次郎の魅力を支えたのは、こうしたアナログな情熱もあったことを分かっていただければ幸いです