負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第二十五話「海鳴りに運命を聞いた」 初回放送日1972年12月30日

股旅稼業のリファレンスマニュアルとでもいうべきファクターが斬新だった

 

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<網元たちがイワシ漁の莫大な利権を巡り、血で血を洗う争いを繰り広げる房州の海。紋次郎は浜で息を引き取った娘から、かつて自分たちを棄てて消えた娘の父親に宛てた一個の鈴を託される。折しも、昔の情婦を探し歩く丸谷の銀蔵は、かつての情婦の女が大網元の剛左衛門の娘になりすましていることを知り、その銀蔵の謀略によって紋次郎は、敵対する網元同士の抗争に巻き込まれることに・・>

 紋次郎シリーズの魅力の一つに、ナレーターの芥川隆行による、渡世人が立ち寄る土地土地の地理、風土、風習の詳細を語る、まるで股旅稼業のリファレンスマニュアルともいっていい実用的なナレーションがある。

 本エピソードでは、当時の九十九里浜でのイワシ漁の実態についてこう語られている。

九十九里浜イワシ漁は東海地方の出漁民によって開拓され、地元民はもっぱら農業に精を出していた。しかし、イワシ漁の莫大な利益に気付き始め、江戸中期に大地引網漁法が完成したことから、地元民、つまり地網が、出漁民すなはち旅網を放逐してしまった。以後、イワシ漁の収益は土地の人々に掌握されたが、やがて九十九里浜イワシの漁獲争いをめぐって、暴力と陰謀に明け暮れる欲望の浜と化したことは当時の記録にも明らかである」とこんな具合である。さらに漁法や漁を取り仕切る網元についてもエコノミカルな側面から

「地引網は投げ網などに比べると。はるかに大きな網で、大網となると長さが550メートル、幅が9メートルに及ぶものさえあった。この時代で地引網一式と漁師の前貸金とで1500両は、かかったとされており、それだけで有力な網元の財力がいかに豊かだったかを物語っている」

こうしたリアリズム重視のテイストは、勿論、わずか1日で履きつぶす草鞋一足の値段をも克明に記した原作小説の流れを受け継ぐものだが、そのナレーションによって、今までにない画期的な股旅ものの新鮮なテイストを生むことに役立ったことが今さらながら良くわかる。

 だが、本作の見所は、何といっても「オ~イ、吉川くん!」で有名なあの「おれは男だ!」のマドンナ早瀬久美だろう。午後4時再放送世代としては、吉川くんが出て来た瞬間、少なからず、はるかなる昔の青春時代を思い出し胸騒ぎを覚えるはず。そんな青春のアイドル早瀬久美が本作では、居酒屋の酌女という身分を偽り、大網元の娘になりすまし成り上がろうとする悪女を演じている。清純派の卒業宣言とでもいうべきその悪女ぶりは、当時を懐かしく思う世代にとっては新鮮なことでしょう