君は子供の映画を撮るといいよ、そうトリュフォーに云われて撮ったのが「ET」だったのさ(スピルバーグ(談))
(評価 78点)
この映画のことは子供の頃から知っていた。タイトルの由来が、キャメラに青いフィルターを付けて昼間に撮影し、夜のシーンに見せかける撮影技法であることも。
でも、なぜか見る気がしないまま大人になった。何せ、派手なアクションや爆破シーンに胸を躍らせた時期だった、地味なフランス映画の存在など知ったそばから消し飛んでいた。
そして、今に至り何気に思い出し、手に取って見たのがこの映画。
見始めた瞬間から、この映画のサブタイトル、「映画に愛を込めて」の言葉通りの、映画への溢れんばかりのトリュフォーの愛情がストレートに感じられ、幸福感に満たされた。
そもそもトリュフォーの名前は、作品そのものよりも高校生の頃に読みかじっていたキネマ旬報の誌面上で見ることの方が多かった。カイエ・デュ・シネマのジャーナリストだったトリュフォー。ヌーベルバーグの旗手たる存在として、トリュフォーの名が、キネマ旬報に載らないことが珍しい位に、どこかで目にするほどの存在だった。
レンタル・ビデオ時代「大人は判ってくれない」や「ピアニストを撃て」を見て、やはりそれなりに面白かったのだが、早逝しつつも多作だった同監督のその他の作品にはなかなか手が出なかった。
そして、今になってようやく見たこの作品。良くDVDには特典としてその映画のメイキングが付いていて、時には本編よりも面白いものがあるけれど、言ってみればこの「アメリカの夜」は世界一面白いメイキング映画といえる。
この作品、とりたててドラマティックな展開など何もない。ただ撮影現場にありがちな出来事がフラットに描かれていくだけなのだ。でも、それなのに何故、こんなにも面白いのだろう。映画を牽引するのは、やはりトリュフォー自身。監督が劇中で監督を演じてこれだけ絶大な効果が出せたのは後にも先にもこれ一本しかないはず。
難聴という設定で補聴器を付けたまま、我儘な出演者たちに振り回されながらもけなげに切り盛りしていくユーモラスなテイストが絶妙、しかし、同時に監督トリュフォーの人間性に誰もが心奪われる。
映画は人間が作るもの。改めてそのことを思い知らされる本作は素晴らしい人間賛歌だ。そんなトリュフォーの人間性に一人の天才監督が魅了される。そして生まれた「未知との遭遇」の中のトリュフォーは、そこでも映画ならぬ異星人に惜しみない愛情を注いでいた。そしてその撮影現場でたちどころにトリュフォーはスピルバーグの真価を見抜く。
冒頭のサジェスチョンはまさにその時の言葉だった。
映画と映画がリンクし、また新たな傑作が生みだされる、奇跡の映画美談なのでしょう。
ガキの頃に、映画、それも派手なアメリカ映画に明け暮れた。年になってふと何かいい映画ないかな・・?なんていう人には是非ともお勧めの一作です。
アメリカの夜は青い、でも見た後はハートがほんのり赤く火照って来る、そんな素敵な作品です。