負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のうれし恥ずかし初体験「仁義なき戦い」

義理任侠に背をむけ、ステレオタイプのヤクザ映画を根底から破壊したレジェンドとこの年になって初めて御対面!

(評価 74点)

f:id:dogbarking:20210702054349j:plain 

着流しを着て殴りこむ、古き良きヤクザはもうここにはいない。ただひたすら金の匂いを本能で嗅ぎつけ、謀略に明け暮れる極道をはじめて描いた日本映画史に残る伝説的名作。

 日本映画界を代表する名監督、深作欣二の代表作にして、任侠ものにネオ実録路線という、斬新な新風を吹き込んだパイオニア的作品。

 実はこの負け犬は、この作品を、本当に今の今まで見ていなかった・・。何故だろう?深作欣二の映画は見ていないわけではない。でも、その圧倒的な作品数からすると、その作品群の多くがB級プログラム・ピクチャー的な作品というのもあって、確かに見ている本数は少ない。

 でも、如何せん、あの「仁義なき戦い」である。見ていても不思議はない。というわけで、極私的映画史の七不思議はさておき、その伝説の作品と、ようやく対面を果たしたという次第。

f:id:dogbarking:20210702054428j:plain

 開巻は戦後の闇市闇市を牛耳る山守組と、復員兵のゴロツキだった広能(菅原文太)が接点を持ち、盃を交わし山守組の組員となった広能が幹部に成り上がっていく過程で、山守組の組長と敵対組織との謀略争いに巻き込まれていく事の次第を描く本作。確かにレジェンドと化した作品だけあって、冒頭から、ひた走るパワーと、謀略に次ぐ謀略、裏切りに次ぐ裏切りのスピーディーなテンポには目を見張るものがある。

 ただし、それが演出的な技巧による上手さに裏打ちされているとは言い難かったのが、少し残念。本作撮影当時の深作監督は43才。元々、深作監督は、量産されていたプログラム・プクチャーを主な活躍の舞台としていただけあって、その作風は良く言えば粗い、悪く言えば雑。つまるところ、若さの勢いもあってか、本作の全体的な印象は、荒々しいパワーよりも、粗雑さが勝ってしまっていた印象があったのだ。でも、思えば、1973年当時の日本映画は、このスタイルこそが魅力的でもあったわけなのだが、レジェンドとなった作品だけに、もう少し洗練された凄みを期待してしまったのは、欲張りだったのだろうか。

 とにかく冒頭から役者のアクションに合わせてキャメラが揺れまくる。そして、始終、役者たちが喚きまくっている。確かに、当時の日本映画はみんなそうだった。そして、子供の頃の負け犬は、どうしてもこのオーバーアクトな日本映画独特の作風が好きになれなかった。やはり、好んで見るのは、アメリカ映画、それも一つのアクションでも、きっちりとコンテを組んでビジュアルできっちりと見せるアメリカ映画に偏重する傾向があった。

 結局、本作を見ないまま半生を過ごしてしまったのも、そんな原体験があったのかもしれない。

 だが、しかし、本作がとりもなおさずエポックメイキングな作品であることは確か。昔、古本屋で当時のバックナンバーを漁っては読んでいた「キネマ旬報」には、本作公開時、世間を騒然とさせた記事やルポルタージュがいくつも載っていた。

f:id:dogbarking:20210702054504j:plain

 本作が製作されたそもそもの背景にあったのは、当時、大ヒットしていた「ゴッドファーザー」に東映があやかろうとしたのは、有名な話だが、今回、たまたま本作の参考に参照したWikiでもっとも印象的だったのは、本作の原作としても有名な「仁義なき戦い」が、実在の極道、美能幸三が獄中で書き上げた原稿用紙700枚にもおよぶ手記に基づくものであったこと。そしてこの獄中で700枚もの原稿を仕上げてのけるという、とてつもない執念が、不思議な因縁であるかのように飯干晃一の、ルポルタージュ本へと姿を変え、次々と人々を魅了し、最後に一本の映画として結実したことだった。

 興味深いのは、この執念の手記が、飯干晃一の手によって出版される運びとなった時、美能幸三が、この「仁義なき戦い」というタイトルに断固として首を縦に振らなかったこと。美能に言わせれば、自らの戦いは、あくまでも仁義なき世界で、ただ一人仁義を求めての闘いだった。

 本編を見ればそれは良く分かる。美能こと本作の広能(菅原文太)は、縁あって組員となった山森組に忠義を尽くそうとする。しかし、経済ヤクザになり下がった組長の山守(金子信雄)は、私利私欲のために、平身低頭、泣きおどしを駆使して、舎弟を利用しては使い捨て同然の仕打ちをする。

f:id:dogbarking:20210702054608j:plain

 そして、ラストが伝説ともなった名シーン。殺された坂井(松方弘樹)の葬式に現れた広能が、山守の目の前でピストルを乱射し、組長の山守に決然と逆縁を突きつける。

 本作が、これほどのセンセーションとなるからには、如何に本作以前のヤクザ映画が任侠色に塗り固められていたかが良く分かる。しかし、本作はその既成概念を打ち破り、とばした小指を舎弟たちが必死で探し回る爆笑のギャグすら交え、親が子を殺し、そして、子が親に反逆する、ヤクザものというジャンル映画に、重厚なギリシャ悲劇のような要素すら持ち込んだ。おそらく、そこが、息長いシリーズとして愛されるようになった要因なのだろう。

 実際、組長に逆縁を突きつけ、背を向けて去る広能の姿には、シビれるものがあったのも事実。何かと文句めいたことを垂れはしたが、やっと、本作と初めて対面を果たしたこの負け犬も、その後のシリーズにやみつきになる予感に震撼している今日この頃なのです。