負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の人生でたった一度のバカ騒ぎ二度とは帰らぬ青春のプルーフ「ファンダンゴ」

輝かしき青春のエンブレム!バカ騒ぎの後の余韻の切なさ、たった一度しかない青春に別れを告げて若者は旅に出る!

(評価 88点)

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ワイルドで行こう!とは言いつつ、人生はワイルドだけではそうそう乗り切れない。進学の恐怖、就職の恐怖、そしてベトナム徴兵の恐怖、目の前の荒波にかざすのは、一本のビールのボトル。

 進学、就職、目の前で黒々と波立つ、そんな荒波を前に、勢い良く乗り出すか、それとも踏みとどまるか、どちらにするか決めかねている。そんな不安な青春期に観る映画。そうした一つの青春のエンブレムとでも言っていい映画が一本や二本は、誰にでもあるのではなかろうか。負け犬にとってのそんな映画が本作。そして今も尚、この作品は負け犬の映画人生でかけがえのない地位を占めている。

 ヒッピーやドラッグ、それにフラワーチルドレンの余韻がまだかすかに残る1980年。あの名門、南カリフォルニア大の映画学科の一人の学生が、ワークショップで製作した24分の短編映画。たまたまそれを見たスピルバーグは、自らのアンブリン・エンターティメントの第一回作品として、その短編の長編化を持ちかけた。かくして完成し、本作「ファンダンゴ」で見事、商業映画監督デビューを飾ったその監督こそ、ケビン・レイノルズだった。

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 ジャンルとしては青春映画にジャンル分けされる本作だが、本作が公開された1985年に、もう一本の青春映画が公開されたのをご存知だろうか?映画史上、エポック・メイキングな存在となる、あのジャームッシュの「ストレンジャーザンパラダイス」だ。当時、キネマ旬報では、両極端にある青春映画として、同時特集の記事が掲載された。

 「ストレンジャーザンパラダイス」が静の映画とすれば、「ファンダンゴ」は、まさしくその正反対の動。それもアメリカ映画特有の小気味よいカットのコンテも巧みな、優れたテクニックを誇る映画だった。

 負け犬も本作を最初に観た時は、正直、驚いた。スピルバーグの再来か、はたまたそれをも凌ぐ天才が現れた。大袈裟でなく本当にそう思った。しかし、それはこの負け犬だけではない、国内外の映画関係者たちもそうだった。その証拠に、元々、日本では公開予定のなかった本作が日本で公開されたのも、あの「竜二」の監督の川島透が、カンヌ映画祭で本作を見てぞっこんに惚れ込み、フジテレビのエグゼクティブに買い付けを打診したのが発端だった。

 本作の演出の何がそんなに凄いのか?それは、絵にたとえれば、とにかく上手いのだ。

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 大学卒業間際のパーティで、学業不振を理由にベトナムに徴兵されることを明かしたガードナー(ケビン・コスナー)は、大学の四年間、結成していたグルーバーズの一員で親友のワグナー(サム・ロバーズ)も同様に徴兵されることを知るや、メンバーでも落ちこぼれのフィル(ジャド・ネルソン)をけしかけ、大学生活最後のライドをしようと焚きつける。その目的地は、グルーバーズの誓いの証(プルーフ)、DOM(ドム)に会うこと。

 直後、エルトン・ジョンの威勢のいいスタンダード・ナンバーに乗って繰り広げられる、疾走するキャデラックのイントロで、早くも本作の監督ケビン・レイノルズがただ者ではないことを実感する人も多いのではないか。

 曲のリズムに乗って、次々と繰り出される小気味の良いカットの連続。その切れ味は、まさに若い頃のスピルバーグの映像のタッチにそっくりだ。そのすぐ後、ガス欠で、テキサスの路上で途方にくれていると、長距離列車がやって来る。咄嗟に、その列車に引っかけたワイヤーで車と列車をつなぎ、水上スキーよろしく移動してしまおうという、ドタバタのシーンのコンテ構成の惚れ惚れするほど巧い事。

 ケビン・レイノルズが優れているのは、ただのカット割りだけではない。ドライブインで知り合ったコギャルたちに誘われ、花火で撃ち合って無邪気に遊ぶシーン。ここでは、花火をシンボリックにベトナムの戦火に見立てる心憎い演出をして、唸らせてくれる。

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 元々の本作のオリジナルの「プルーフ」というタイトルの短編映画は、スカイダイビング学校でのドタバタを描いたものだった。そのスカイダイビングのエピソードに肉付けし、ブロウアップしたレイノルズ自身の手による脚本も見事の一言。

 グルーバーズが会いに行くDOM(ドム)の意外な正体が明かされる後半、そして、冒頭の伏線を巧みに回収し、クライマックスのウェディング・シーンへとつないでいく脚本作りの巧みさにも舌を巻く。

 思えば、終生、愛することになるミュージシャン、パット・メセニーの存在を初めて教えてくれたのも本作だった。それまで三流役者に甘んじ、本作で初めて主役を張ったケビン・コスナーが、そのパット・メセニーが奏でるBGMに乗って、ウェディングのセレモニーで花嫁とダンスを踊るシーンの、たとえようもない美しさ。

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 式が終わり、グルーバーズの五人のメンバーは散り散りに別れていく。その時の切なさは、誰の人生にも訪れる青春時代の終焉へのラプソディなのだ。

 ところで、本作のメイキングのきっかけとなった「プルーフ」という短編映画。何十年もただの伝説でしかなかったこの作品が、現在、何とYOUTUBEで見ることができる!これを見た人は誰もがきっと驚くだろう。本編中、最大の見せ場のスカイダイビングのくだりが、そっくりそのまま後に製作された映画と瓜二つなのだ。そのコンテ構成から、細かなカット割りに至るまで、まるでクローンと言ってもいい程、そっくりなのだ。おまけにダイビング学校のイカレたインストラクター、トルーマンを演ずる役者は、映画版とまったく同じ役者が演じている。

 逆に言えば、これをアマチュアとして作ったケビン・レイノルズが、細かな一つひとつのカットに至るまで、この短編映画に如何に愛着を持っていたかが良く分かる。しかし、そのパーツをそっくり劇場映画の90分の尺にはめ込んで、見事に一本の映画に仕立てたレイノルズの才能にも敬服する。

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 映画の最後、小高い丘の上でしゃがむガードナーが、一つ一つ消えて行く村の灯りを見ながら立ち上がり、手にしたビールのボトルを掲げるところで映画は終わる。エンディング・クレジットで流れるのは、ブラインド・フェイスの名曲「Can’t Find My Way Home」。

 本作で、ハンサムぶりを世に知らしめたケビン・コスナーもすっかり年を取った。しかし、負け犬にとってのケビン・コスナーは、たとえ何十年経とうが、本作のエンディングで闇の中、徴兵を逃れカナダ国境に逃亡するか、それともいさぎよくベトナムに行くか、まだ決めかねているガードナーで、そのビールのボトルをかざすシルエットに被って流れる「Can’t Find My Way Home」をみじろぎもせずに聞き続けているこの負け犬なのだ。

 青春に乾杯!