負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬は鈍する「アメリカン・グラフィティ」

「こいつは凄い!」たったの1分にも満たないその作品を見て誰もが腰を抜かさんばかりに驚嘆した

(評価 72点)

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 いったいジョージ・ルーカスに羨望の念を覚えない人間など、この世の中にいるのだろうか?別に皿洗いなどして下積み暮らしに何年も甘んじて耐え忍んだわけでもない。郊外育ちでUSCの映画科に入ったのをきっかけにたまたま映画製作に手を染め、たった三作目のスター・ウォ-ズで不動の地位を早々と築き上げ、未だにそのフランチャイズで悠々自適に暮らしている男。

 若くして早々と負け犬人生のキャリアを歩みかけていた自分には、眩しすぎるくらいの存在で、ルーカスのバイオグラフィが書かれた本を買い込んでは、何とか爪の垢にでもあやかろうとためつすがめつ読んでいたものだった。

 冒頭の逸話はその手の本のどこにでも出てくる。

ある日、USCの映画クラスのワークショップで一年生たちが初めての課題の作品を提出することになった。その時のことだった。一人のやせっぽちの生徒が提出した「look at life」とのタイトルの1分(正確には50秒)の作品を見てクラスメイトのみならずUSCの教授たち全員がそのセンスに驚愕した。その時から。ルーカスのフィルムメーカーとしての人生が華々しく幕を開けることになる。

こうして自分の中でただの伝説と化していた問題の「look at life」。有難いことに今ではYouTubeで検索すれば、いくらでもバラバラと出てくる(スゴイ時代になったものだ)。初めて発見し、その実物を見た時はこの負け犬も確かにガクゼンとした。たった1分の中にセンスと才能がギュッとばかりに凝縮されていたからだ。

この作品の制作時のエピソードの一節もバイオグラフィには書かれていた。

「みんな時間がない、フィルムもない、金もないなどと不満ばかり言っていた、ボクはそんなことには構わず、手近な写真をかき集めて自由に編集してみたんだ」との言葉通り、スチール写真だけで構成されたこの短編には生きる活力や希望、それに恐れまでもが自在に活写されている。

かくしてルーカスのアメリカン・グラフィティ。この作品を初めて見たのはゴールデン洋画劇場だった。初鑑賞時の感想は、ただ随分、取っ散らかった映画だな・・という程度の印象でしかなかった。その後、やっぱり気になってビデオで繰り返して見返すうち、本作で一番有名な、ノスタルジーとはほど遠い冷徹な報告調で、主要キャラクターたちのその後の人生の顛末の字幕が流れた後、一気に転調するかのようにビーチボーイズのオール・サマー・ロングがかぶさる切ないエンディングが、この上もなく好きになった。

実を言えばルーカスのフィルモグラフィで一番好きなのは興行的に大失敗したデビュー作の「THX-1138」なのだ。あのカミソリのように研ぎ澄まされた感覚には初見時から心酔し今に至っても何度見ても飽きない。

“貧すれば鈍する”という言葉がある。でもフランチャイズの帝王として駄作としか思えないありきたりなものを作るだけになってしまったルーカスを見ていると逆に、“富なれば鈍する”としか思えないのは、この負け犬だけなのだろうか?(実際、若い頃の痩せこけたルーカスとはとても同一人物とは思えないほど福々しく太ってしまった)

でも、仕方がない。どんなクリエーターであれ、鋭利なカミソリのような感覚は、才能ある人間の人生のほんの限られた時期にだけ与えられる神様からのプレゼントなのだから。

たった一夜だけの終わらないバカ騒ぎ。オール・サマー・ロングはその感覚との永遠の別離を歌うラプソディだったのかもしれない。