負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬が天才の上げた産声に腰を抜かして驚嘆した件「アンブリン」

巨匠スピルバーグ正真正銘の処女作。才能の煌めき、そして躍動する才気に全編、驚愕する至福の24分!

(評価 72点)

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アンブリンとは?

 アンブリン、このロゴマークなら誰でもご存知でしょう。言わずと知れたスティーヴン・スピルバーグの製作会社アンブリン・エンターティメントのロゴマーク。でも、このロゴマークが冠せられた映画を数知れず見た人でも、意外とこの会社の名前の由来を知らないのではないでしょうか。そのアンブリンこそ、スピルバーグが22才の時に監督した短編作品のタイトル。そして、この作品こそが、後のスピルバーグのサクセス・ストーリーの階段を駆け上る、事実上のきっかけとなった運命の作品でもあったのです。

 

メイキング オブ アンブリン

 カリフォルニアの小さな町、サラトガの高校を落第寸前の成績で卒業したスピルバーグが何とか入学した大学は、映画学科があったUSC。しかし、スピルバーグが専ら通ったのは大学ではなく、映画会社ユニバーサルのスタジオ。社員同然の成りで、そのスタジオに通い詰めていたスピルバーグが出会ったのが、特殊効果の製作を請け負う会社のオーナーだったデビッド・ホフマン。

 スピルバーグが撮りためていた8mmや16mmを見たホフマンは、自分の名前をクレジットに出すことを条件にスピルバーグに35mmの映画を撮らないかと持ち掛ける。35mmの映画を撮りたくてウズウズしていたスピルバーグは、ドキュメンタリーの撮影をしていた盟友アレン・ダビオーと共にこのプロジェクトに着手する。かくしてスピルバーグ初のプロフェッショナルな35mmフィルムによるアンブリン製作のプロジェクトがスタートする。

 

What is アンブリン?

 アンブリンとは、ただダラダラと歩くこと。その名の通り、本作はヒッチハイクで知り合った男の子と女の子が、束の間、一緒に旅をして、心を通わせ、サラリと別れるだけの、セリフがただの一言もない24分間の作品。この簡素きわまりないコンセプトで、才能も何もない人間が撮ったとしたら耐えがたい24分間になるのは間違いがない。ところがスピルバーグたるや、冒頭から巧みなコンティニュイティを発揮し、次々と小気味の良いシーンとカットを繰り出し、あっという間に24分間が過ぎてしまう。それに加えて、見た後はハートフルな優しささえ漂わす見事な手腕に、見た人間は誰もが舌を巻くという、とてつもない才能の片鱗を見せつけてくれるのだ。

 事実、このフィルムを見た当時のユニバーサルの社長シド・シャインバーグは、スピルバーグの才能に惚れ込み、まだ大学すら出ていないこの若造に、スタジオ専属の監督としてのキャリアを提供することとなるのだ。

 

アンブリンの伝説

 このアンブリンは、スピルバーグの事実上の処女作として映画フリークたちの間では、幻のような存在だった。短編でも、有名監督の処女作となれば、それなりにソフト化される昨今であっても、本作だけは決して、ソフト化されることもなく、日本で上映されたのは、スピルバーグやスコセッシといった当時、第九世代と呼ばれた監督たちの短編が特集上映されたぴあのフィルム・フェスティバルでの上映だけだったと記憶する。運よくそこでアンブリンを見て、スピルバーグの天才ぶりを再認識したとのコメントを見るにつけ、羨ましくてたまらず、いつの日か自分も見ることが出来る日が来ることを心待ちにする日々だった。

 ところが有難いことに、今ではyoutubeでそれを見ることが出来る。とはいえ、米国でTV放送されたものを、本国の視聴者の人が家庭用の録画機で録画した、実にお粗末なホーム・ビデオ画質のお世辞にも良好とは言い難いクオリティなのだが、しかし、それでも見た人は誰でも、若きスピルバーグのはちきれんばかりの才能に驚嘆するに違いない。

 映画への夢、夢を実現せんとするバイタリティ溢れる情熱の素晴らしさ。セリフがないからどなたでも楽しめる映画的才能のサンプルケースのようなこの作品。興味がある方は是非、どうぞ!

 


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