負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬も気分はすっかりアミューズメント!「ジュラシックパーク」

ギミックが絶え間なく連続するライド感覚が秀逸!この夏、アミューズメントパークに行けなくても本作があれば大丈夫!

(評価 80点) 

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今更言うまでもないアミューズメント映画の代表格。ギミックにこだわるスピルバーグのビジュアル志向が幸福なレベルにまで昇華された大人も子供も楽しめるエンタメ映画の良作。

 「ウェストワールド」で小説から映画の世界に乗り込んで成功したマイケル・クライトン。そのマイケル・クライトンから直々に指名されたスピルバーグが乗りに乗ってメイキングした傑作映画。

 スピルバーグ映画の楽しみの一つに、必ずといっていいほど、新作と抱き合わせで出版される映画のメイキング本を読む楽しみがあった。中でも楽しかったのが、必ず載っている、映画のプリプロダクションにおける、設定画やストーリーボード。映画のイメージを形成し、ビジュアルの青写真ともなるそうした素材の数々が載っているページをめくっていくのは実に楽しいものだった。しかし、もっとも楽しいのが、そのまま映画が紙の上で再現されたかのような絵コンテだ。

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 ヒッチコックの映画メイクの継承者でもあったスピルバーグが、絵コンテを多用する監督ということは、広く知られていた。そこで、例に漏れず、そうしたメイキング本にも各シーンの絵コンテがふんだんに収録される。その絵コンテからうかがいしれるのは、スピルバーグのビジュアルにおけるギミックへの飽くなきこだわりだ。

 スピルバーグが恐竜を!本作の製作が発表された時、誰もが心を踊らせた。だが、スピルバーグが恐竜を全て、スケールモデルのアニマトロクスで製作するとのウワサがちらほらとしだした時、一抹の不安をよぎらせた人も少なくはなかったはず。負け犬の世代の人なら、あのジョン・ギラーミンの超大作映画「キングコング」に煮え湯を飲まされた人も少なくなかったはず。実物大のキングコングを目の当たりに出来る!その映画の大宣伝に踊らされた人たちが見たものは、ただ突っ立てるだけで、上腕部をかすかに動かずに過ぎない巨大な飾り物同然の代物だった。

 ひょっとして本作も「キングコング」の二の舞を・・という不安がよぎりつつ、アニマトロクスによる製作に着手しだした頃、スピルバーグは、ILMが作ったCGによる恐竜のデモ映像を見て感激する。本作、製作当時の1990年代初頭は、CG製作のハードウェアにしても今と比べれば原始的なもの。それでも、本編中盤、グラント(サム・ニール)やサトラー(ローラ・ダーン)、マルコム(ジェフ・ゴールドブラム)たちに襲い掛かるティラノサウルスのリアリティは、今見ても、決して遜色はない。それどころか逆に、黎明期の低スペックのハードウェアで、膨大な時間をかけて、まるで過去のストップモーション・アニメのような手作り感覚で作っているようなテイストが今見ると楽しくて仕方ないほど。

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 そして、今見ても感心するのが、スピルバーグならではの、ビジュアルにおける、ギミックへのこだわり。ここでいうギミックとは、恐竜の仕掛け云々のことではなく、見せ場を連続活劇的にシームレスに展開するビジュアル的な仕掛けのこと。

 本編、最大の見せ場ともいえる、雨が降りつける夜、グラントと子供たちが乗ったツアー用のジープを、T-REXが襲撃してくるシーン。ここでは、そのジープが小道具として最大限に活用される。ジープの真上からその鼻面を突っ込んでくるT-REX。ジープから脱出したら、今度はそのジープに弾き飛ばされ、ダムのような壁面から落下しそうになり、何とか壁際のロープに捕まったら、そのジープが、自分たちに向かって落下してくる。更に、今度は落下し、大木に引っかかり大破を逃れ、ジープに閉じ込められたままのティムの救出劇へと。かくの如く、スリルが数珠つなぎに展開していくシーン構成は、もうみごとの一言。スピルバーグは、こうした仕掛けを着想するのが、本当に天才的に上手いのだ。

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 それに、事前にみっちりと絵コンテで構成を組み立てておかないと、こうしたシーンはビジュアライズが出来ない。メイキング本にもこのシーンの絵コンテに少なからずページが割かれていたのを覚えている。

 スピルバーグは、本作の撮影を終え、ポストプロダクションのプロセスに入ると、早々と、名実ともにキャリアの頂点となった畢生の傑作「シンドラーのリスト」の撮影のために東欧に飛んでいる。「シンドラーのリスト」以降、更には「プライベートライアン」以降、自らも明言しているように絵コンテに固執する事を止め、明らかに一皮むけて作風は拡がった。

 しかし、元々、スピルバーグの「JAWS」を映画館で見て、その瞬間、映画というものに身も心も奪われて、やさぐれ映画人生を歩むようになってしまった負け犬としては、こうした遊び心溢れる無邪気な映画を見ることができる機会が、少なからず減ってしまったのはちと寂しいところではある。

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 映画のクライマックスで、グラントたちが、ラプターの集団に襲われ絶体絶命のピンチに乱入し、一躍、ヒーローとなったティラノサウルス。そこに絶妙のタイミングで、ダイナソーと書かれたペナントが降り注ぐ、拍手喝采もののエクスタシーに満ちた瞬間を、また味わいたいと思っているスピルバーグの信奉者も多いはず。

 小学生の頃、デビュー作の「激突」をTVで見た時が始まりだから、スピルバーグとの付き合いも思えば長い。他のベテラン監督が、CGによる映画メイキングに及び腰になる中で、一人旺盛に最新の技術を使った映画作りを続けている姿勢には、中高年としても頭が下がる。

 スピルバーグには、もう一度、本作のような子供心に満ちた、エポックメイキングな作品を是非とも作って頂きたいものですよね~