猟奇殺人実録映像の謎を追う女子学生が踏み込んだのは、人間の残虐趣味の本能を垣間見る暗黒の世界だった。
（評価 ７８点）
米国でリメイクもされた「オープン・ユア・アイズ」で世界を、そしてそのリメイクで主演を務めたトム・クルーズをも完膚なきまでに魅了させたスペインの俊英アレハンドロ・アメナーバルが何と２３才の時に製作した驚異のデビュー作。
冒頭のタイトル後に続くイントロダクションがまず秀逸。女子学生アンヘラ（アナ・トレント）の乗る列車が急停止する。駅員によれば飛び込み自殺だという。列車を降りることを余儀なくされ、誘導されながら駅のホームを歩くアンヘラ。そこでアンヘラは絶対に見てはいけないと言い渡す駅員の忠告も上の空で、まるで吸い寄せられるように線路を覗き込もうとする。アンヘラの主観ショットで死体が見えそうになった瞬間、駅員に制止され列に戻っていくアンヘラ。
人間は、残虐きわまりない光景を目の前にしても、その手で顔を覆いつつ、その指先の間から残虐無比なその光景を垣間見ようとする本能が有るのではないか。そんな投げかけをテーマとする、殺人を実録したスナッフ・ビデオをめぐるサスペンス・ホラーたる本作。そのキー・イメージとして、実に的確でキャッチーなこのイントロが最後まで生きてくる。
幼少の頃から天才肌だったアレハンドロ・アメナーバルは、デビュー前に何本も自主製作の短編映画を撮っている。本作はどうやら、現在、ＹｏｕｔｕｂｅにＵＰもされている断片映像から推察するに、その短編のうちの一本「Himenóptero」を長編化したものらしい。
大学で、残虐映像についてのジャーナリステッィックな論文を書こうとしていたアンヘラが、担当の教授に、資料になるようなビデオの採取を依頼するところから物語が始まる。依頼された教授は、大学の書庫からとある一本のビデオ・テープを持ち出し、試写するがその途中、急死。たまたま、その死体を試写室で発見したアンヘラは、好奇心を抑えきれずそのビデオをこっそり持ち帰ってしまう。
そして、そのビデオを自宅のモニターで見てみると、そこに映っていたのは若い女をいたぶって殺す実録映像だった。
本作、公開当時、本国スペインでの興行記録を塗り替えただけのことだけあって、その導入部からクライマックスにいたるまで、ジェットコースター・ライドのようなサスペンス・ホラーの醍醐味が存分に味わえる秀作といっていい。
何と言ってもキー・モチーフになるスナッフ・ビデオという小道具が、「ホステル」などでもそうだったが、アメリカではなく欧州の国を舞台にすることで、そのおどろおどろしさが存分に増すことを見ていると実感する。更には、その媒体がクラシックなビデオカセットで、映像がアナログ剥き出しのビデオ映像なのがいい。
それに加えて、殺人実録映像を発端として、猟奇殺人の世界に巻き込まれたアンヘラが、猟奇ビデオコレクターのチェマというオタクとの凸凹コンビで事件に立ち向かっていくというエンタメの定石というツボを踏まえ、ラストまで二転三転する構成が実に見事。
チェマがマニアックな博識を駆使して、実録映像を撮影したキャメラの機種を特定したことから、アンヘラは同じ大学に通うボスコと出会う。
女性たちを魅了する眉目秀麗な美青年のこのボスコに誘われてアンヘラは更に事件の真相に分け入ることになるのだが・・。本作、事の真相そのものはシンプルではあるものの、とにかく、アメナーバルの出世作「オープン・ユア・アイズ」でも圧巻だった厚みのあるカレイドスコープのような世界観の片鱗は、デビュー作たる本作でも健在、アメリカのサスペンス・ホラーとはまた違った重厚なサスペンスの妙味を堪能できる良作。そして、アレハンドロ・アメナーバルという才能に触れるにはもってこいの作品と言える。
ＴＳＵＴＡＹＡの店内を徘徊中に、ふとアメナーバルの名前が目に留まり借りて見た本作。こういう出会いがあるから、映画をめぐる浅ましい徘徊はやめられない、といったところでしょうか（笑）
何にせよ、おそらく２０年ぐらい前に見たきりで、それでも未だに鮮烈な印象が残る「オープン・ユア・アイズ」もまた見たくなってきた。久しぶりのアメナーバルの世界、存分に楽しませていただきました、皆様も是非、どうでしょう？
