ナチ再興を目論む秘密組織オデッサを追え!「ジャッカルの日」に次ぐフォーサイスの政治スリラー
(評価 70点)
ケネディ大統領が暗殺されたその日、ドイツのうらぶれた街の片隅で一人の老人が死んだ。その老人から託されたのはナチの虐殺の所業を克明に記した一冊のノート。かくして、一人のジャーナリストの緊迫の追跡劇が幕を開ける!
世界的大ベストセラーを出してしまった作家の宿命は、言うまでもなく第二作の壁。しかし、今は崩壊したが、かつては見上げるほどに堅牢なベルリンの壁のごとき二作目のその壁を、いともたやすく超えてしまった作家がいる。「ジャッカルの日」で一躍、国際的ベストセラー作家となったフレデリック・フォーサイスだ。
フランスのド・ゴール暗殺のミッションを託された一人のスナイパーと、それを追うフランス警察とのキャット&マウスを緊迫の筆致で書き上げたフォーサイスが次に取り上げたトピックは、ナチの残党。
もう、このトピックをチョイスした時点で勝負あった、という感じで、フォーサイスは、情報小説とも呼ばれる自らのスタイルを生かし、第一作に優るとも劣らぬ二作目を書き上げ、見事にベストセラー作家としての地位を確固たるものにする。
とはいえ、この二作目を読んだのは、その映像化となる本作のTV放送を見た後のことだった。とかくフォーサイスの小説というのは、その映像を見た後で、各シーンの造型が、活字でどこまで書き込まれているか、それを読みたくなる誘惑にかられて、手に入れたくなる、不思議な代物なのだ。
ドイツのフリー・ジャーナリスト、ペーター(ジョン・ヴォイト)が偶然、手にしたのは、強制収容所でリガの殺戮者と異名を取る所長ロシュマンの悪行を克明に記した一冊のノートだった。そのノートをきっかけにナチの残党たちをアシストする組織オデッサの存在を知ったペーターは、知り合ったユダヤ人過激派グループに誘われ、オデッサへの潜入を試みる。
映画そのものは、ベテラン監督ロナルド・ニームの堅実な手腕もあって、典型的な政治スリラーとしての展開が楽しめる。そもそも我々は、原作者のフォーサイスがジャーナリストだったことを知っている。ペーターが死の危険を冒してまでナチを追うのも、ジャーナリスト魂の成せる業だと、すっかり思い込んでしまうのもミソ。終盤に明かされるペーターの真の動機には、TVで見た時も驚かされた記憶がある。
だから、今回、久しぶりに見たのも、TVで見た後、原作を入手し、それを読んだ後ということになる。原作は、フォーサイスらしく、愛車ジャガーを駆ってオデッサの実体を追う、ペーターの足取りが克明に記され、その緻密ぶりは、活字マニアにとってはたまらないところ。本編には関係ないが、ドイツのアウトバーンの詳細を克明に記すディティールへのこだわりなど、情報小説の先駆者としての面目躍如たるものがあるといっていい。
それもあってか、久しぶりに見た今回、小説のリアリティと比べれば、ややお約束通りのスパイ映画めいた印象が強かったのが残念なところ、それに加えてオープニングとエンディングのタイトルバックに流れる少々、ズッコケモード全開の音楽のセンス、いくら舞台がドイツとはいえ、もうちょっと何とかならなかったのでしょうかね~
とはいえフォーサイス映画の入門編としては、フレッド・ジンネマンの名作「ジャッカルの日」と双璧を成す出来映えには違いないところなのです。