負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬が庭の木でバットを作ったら天才的なスラッガーとなってメジャーで大活躍した件「ナチュラル」

不思議な寓話的ファンタジーと野球映画の夢のカップリング!夜空に舞い散る照明灯の火花に瞼が熱くなるファンタスティックなベースボールムービーの傑作!

(評価 80点)

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かつてメジャーに、庭の木から自ら切り出したバットを引っ下げ、30代半ばでデビューし、天才スラッガーとして活躍した一人の野球選手がいた。そんな胸躍る寓話を、丹念なスタイルで描き、ひとときのファンタジー空間を満喫させてくれる夢の映画。

 野球が似合うハリウッドスターといえば、ケビン・コスナーが筆頭だろうか、などと勝手に思っているのだけど、それに負けず劣らずといえるのが、政治家をやらせてもピッタリなロバート・レッドフォードになるのでしょうか。本作ではそのレッドフォードが、結構、板に着いた颯爽としたメジャーリーガーぶりを見せてくれる。

 思えば野球というスポーツは、その試合の勝敗の行方も含めて大いにラックやアンラックといった運命に左右されるファクターが他のスポーツよりもはるかに大きい気がする。本作は、そこを逆手に取ったように、完全に寓話としてベクトルを振り切っているのが、当時、何とも新鮮だった。

 思えば、本作の当時、レンタルビデオ店が巷に出回り始めた頃のことで、本作は、劇場ではなく、そんな中、レンタルで借りて見た一本だったが、見た途端、たちまち魅せられたのを覚えている。

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 田舎でキャッチボールする父と子。どうやら、その少年には天から授けられたギフトのような才能があって、しかし、ほどなくして父親は心臓麻痺であっけなく他界。ある夜、窓から外を見ていると、轟く雷鳴とともに庭の木をカミナリが直撃し、真っ二つに割れたその木から、少年は自ら切り出し、一本のバットを作り上げる。そこに刻み込んだロゴは、ワンダー・ボーイ。そして、そのバットを引っ下げて少年はスカウトされたメジャーデビューに旅立つ。

 という出だしからして、これはもう完全な寓話。だから、それ故に、運命の因縁めいた作りにストーリーもなっている。若きスラッガーとしてデビュー間際、同じ列車に乗り合わせ、心奪われた美女が、ベースボール・プレイヤーフェチのようなマニアックな魔性の女で、ホテルに到着するや、有無を言わさずいきなり撃たれ、重傷を負った若者は、そのままメジャーへの道を断たれる。

そして16年後、すっかり年を取った一人の男が、万年最下位のチームの新人としてやってくる。その男こそ、16年前にメジャーになり損ね、中年となって新人メジャーリーガーとして契約を果したその男ロイ・ハブス(ロバート・レッドフォード)だった。

 こんなプロローグで始まる本編にハズれなどあるわけない。ここから本作は、寓話としてのツボを見事に押さえたファンタジーの世界に巧みに誘ってくれる。

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 そのサイドキックとなるのが実に寓話らしく魔性の女。一躍、スラッガーとして頭角を現したロイが、深入りしたメモ(キム・ベイシンガー)が、いわゆる悪運の女で、たちまちスランプに陥るが、同じ故郷の恋人アイリス(グレン・クローズ)と再会を果たしたことで、スランプを脱し、運命の最終戦へという流れは、ある意味、絵に画いたようではあるけれど、バリー・レヴィンソンのスタンダードなのに、どこかポップなテイストがある、演出もあいまって実に心地がいい。

 そして、何と言ってもクライマックスのラストイニングでのホームラン。一球一投を丹念にここで描きながら、最後の大詰めで、愛用のバットが折れるというハプニングが発生。しかし、仲の良かったボール・ボーイが、自分のロゴを刻んだバットをロイにしっかりと手渡す。このくだりなど、もう中世の聖剣の冒険談を思わせるテイストでグッとくる。そして、放たれる一閃のホームランだけど、このシーンのビジュアルのサプライズはもう見て頂くしかない。

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 昔、レンタルビデオで見て、胸を熱くしながら何度も見ていた感動が、数十年の歳月を経て鮮やかに蘇った。

 これ一作ですっかり負け犬の脳裏に名前を刻まれた監督のバリー・レヴィンソン。そのデビュー作となった若きミッキー・ロークなどの将来のスターが集結した「ダイナー」が、その後、封切られ、劇場に駆けつけたのも今では懐かしい思い出。

 時は過ぎ、色褪せるものもあるけれど、映画のシーンがもたらしてくれる鮮烈なイメージは決して色褪せないものですよね~