負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬さんは一休さんのように賢くて才気煥発だったという件「殺人者はライフルを持っている」

使い捨てのC級ホラー・フィルムとネオ実録タッチの犯罪ストーリーが見事に融合する奇跡の結晶を目撃せよ!

(評価 80点)

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スクリーンに映る虚像と、目の前の実像の幻影に屈服する猟奇犯罪者。若き情熱と切れ味鋭い才能のみが成し得る奇跡がここにある。

 B級映画フリークにとって、予算も撮影期間も、極々、限られた条件ながら、それを卓越した才気で見事に逆手に取ったような作品に出合える喜びにまさるものはない。本作は、そんな至上の喜びを体験できるレアな作品といえる。

 1960年代の後半、映画ジャーナリストとして活躍していた若き俊英ピーター・ボグダノヴィッチは、その日訪れた映画館で、ある人物と運命的な出会いを果たす。その人物こそB級映画の帝王として有名無名のジャンク・ムービーを乱発していた、業界では知らぬものはないロジャー・コーマンだった。チャンスとばかりにボグダノヴィッチは、自らの脚本のマテリアルをコーマンに見せる。それがきっかけでボグダノヴィッチは当時、コーマンが製作していた「ワイルド・エンジェル」の現場で働くようになる。やがて、そこでの働きぶりが認められたボグダノヴィッチに夢のような瞬間が訪れる。「映画を監督する気はないか?」コーマンのそんな申し出に小躍りして快諾するボグダノヴィッチ。しかし、コーマンが映画製作にあたってボグダノヴィッチに提示した条件は、とんでもないものだった!

 コーマンが主役の条件に提示したのが、唯一、マネーメイキングのポテンシャルを持つスターといえるものの既に80才を超えていたボリス・カーロフ。だが、そのカーロフを撮影にブッキング出来るのは、わずか2日間。

 そしてボグダノヴィッチを仰天させたのが、過去にボリス・カーロフ主演で撮った失敗作同然の「古城の亡霊」(THE TERROR)という作品のフッテージを20分間、本編中で使用せよというのだ。

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 更には、製作費はたったの10万ドル、そして撮影期間がたったの一週間。これにはさすがのボグダノヴィッチもあきれ果てるしかない、これは、ある意味、まるで一休さんに投げかけられたトンチの難題のようなものといっていい。しかし、映画監督のチャンスなど今後いつ訪れるか分からない。かくして、若きボグダノヴィッチはとことん悩むことになる。

 悩んだ挙句、ようやくこのC級ホラーのフッテージを試写室で、皆で見ているというシチュエーションを思いつき、それを見た役者の「こんなヒドイ映画みたことない」という第一声から幕を開けるオープニングを提案するが、ただの悪フザケと一蹴され、またしてもボグダノヴィッチは悩み続ける。

そんなある日、一人の友人が、「エスクワイア」誌に掲載されていたチャールズ・ホイットマンルポルタージュを映画にする気はないかと提案してきた。その瞬間、ボグダノヴィッチの頭にまったく結びつくはずもない二つの素材を融合させるアイデアが、天啓のように閃いた。

 チャールズ・ホイットマンとは1966年に起きた動機皆無型の狙撃乱射事件として今なお犯罪史に刻まれるテキサスタワー乱射事件の犯人。しかして、C級ホラーとこの実在の事件に結び付く余地などあるのだろうか?

 映画は、大写しされる本作の原題「TARGETS」とともに、「古城の亡霊」のフッテージでそのまま幕を開ける。如何にもC級ホラーといったクライマックスが展開され、エンド・マークが出るとそこは試写室。そこには、一緒に試写を見ていた主役のバイロン・オーロックが座っている。開口一番、オーロックが口にしたのは、もう引退するよの一言だった。一転、シーンは銃砲店に切り替わる、そこには義父の小切手でいつものようにライフルを買い求めるボビーがいた。

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 ここから映画は、引退を決意したかつての怪奇スターと、退役軍人の平凡な若者ボビーの平穏な日常生活という、まったく異なるストーリーがパラレルに展開することになる。実在のホイットマンをモデルとする、一見、好青年のボビーの波長は、すぐに狂い始める。妻や義理の両親とも仲は良さそうだが常に無表情。そして車のトランクには買いあさった銃器が山と積まれている。やがて、ボビーは妻と義母をこともなげに射殺。そして車で市内に出ると、まず石油タンクの上に陣取って、ハイウェイを行きかう車を射的がわりに狙い始めるのだった。

 本作の脚本はボグダノヴィッチとポリー・プラット。とにかく本作の脚本が、そのユニークな独創性を遺憾なく発揮するのがそのクライマックスなのだ。

 ハイウェイでの銃撃から、警察の追跡を逃れ、ボビーが逃げ込む場所が、オーロックが冒頭で試写を見ていた「古城の亡霊」が上映されるドライブインシアター。その上映には、引退のメモリアルとしてオーロック本人が訪れる予定になっていたのだ。

 かくして、まったく結びつくはずもない二つの素材が、ピッタリ融合するという奇跡が実現することになる。

 夕闇が迫る頃、映画の上映が始まるや、ドライブインシアターの巨大スクリーンの裏に隠れたボビーが、無差別に映画を見る人々を狙い始める。最初は映画に没頭していた観客もスナイパーの存在に気付き、シアターは一転パニックに。しかし、弾丸が尽きかけ、逃げようとしたボビーの眼前に立っていたのは、ゲストとしてやって来たオーロックその人だった。

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 まだ映像が映ったままのスクリーンを見上げると、巨大なオーロックがひしゃげた姿で投影されている。しかし、目の前には、自分に向って決然と歩いてくる本物のオーロックがいる。混乱したボビーは、オーロックが振り下ろすステッキに打たれ遂に屈服する。

 映画をこよなく愛するボグダノヴィッチの知的な才能の勝利でもあり、映画のパワーが犯罪者に打ち勝ったような不思議なカタルシスを覚える瞬間でもある。

 最後、ドライブインシアターにただ一台だけポツンと残ったボビーの車を捉えるエンディングショットが実に秀逸な一作。B級サスペンスの醍醐味に知的な面白さが横溢した絶品の傑作を是非どうぞ!