負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬が後戻りしなかったおかげでとんでもない袋小路に陥ってそんな不幸がとてつもなく面白い件「Uターン」

人が不幸のドン底に転がり落ちていくのを見るのほど楽しいものはない。巨匠オリヴァー・ストーンの灼熱ノワールの大傑作。

(評価 80点)

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 袋小路。現実にそんな状況に陥るのは願い下げだけど、映画の中で袋小路にはまり込んだ主人公がもがき苦しみ加速度的に不幸のドン底に転がり落ちていくのを見ることは実に楽しい。映画におけるフィルム・ノワールというジャンルは、まさにそんな悦楽に耽るには、うってつけのカテゴリーといっていい。

 そして、袋小路の悦楽に浸れる究極の映画と言っても良いのが、あの「プラトーン」の巨匠オリヴァー・ストーンが放ったフィルム・ノワールの本作「Uターン」。

 ちょっとヤクザな色男気取りの主人公が、たまたま立ち寄った田舎町で、色と欲の修羅場の蟻地獄に落ち込んでトンデモない目に遭うというノワール映画典型の作りながら、圧倒的なエネルギーとパワーで、この負け犬がン十年と見続けているのに未だにその面白さが微塵も色褪せることのない大傑作だ。

 本作を傑作たらしめているのが、ノワールものに不条理テイストを加えて面白さをパワーアップして倍増させているところ。とにかく本作には、不条理もの特有のイカレたキャラクターたちが次から次へと登場し、こちらは冒頭から、マカロニ・ウェスタン風のラストに至るまで、ただ口をあんぐりと開けて見つめるしかなくなってしまうのだ。

 かつてテニス選手として鳴らし、今はすっかり落ちぶれたボビー(ショーン・ペン)は、一路ベガスを目指しアリゾナの砂漠をドライブしている途中、車のラジエーターホースに穴が開き、「Uターン出来ます」という標識を横目に、スペリアという町に立ち寄る。しかし、出来たはずのUターンをしなかったおかげで、そこからボビーの悲惨なほどの蟻地獄が幕を開ける。そこで見つけたのが車の修理屋のダレル(ビリー・ボブ・ソーントン)の店だった。これ幸いと少々、胡散臭いダレルに修理を依頼してしまう。

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 めまぐるしく登場するイカレキャラのトップに登場するダレルのリアリティたっぷりの薄汚さが実に見物。とにかく本作にはまるでシャッフルされるトランプの札のようにイカレキャラたちが次から次へと登場するが、キー・キャラクターに位置するのが、ジェニファー・ロペスが浅黒い肌で男たちを虜にするグレース。

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 ボビーもこのグレースの色仕掛けにたちまち魅了されるが、実はグレースには、保安官の夫ジェイク(ニック・ノルティ)がいて、たちまち路上に叩き出される。しかし、車でのらりくらりと追いかけてきたジェイクに持ち掛けられたのが、そのグレースを殺してくれという、本気とも嘘ともつかない依頼だった。金に目がくらんだボビーは、グレースを殺しにかかるが、逆にグレースから、大金を隠し持つジェイクを殺し、その金を二人で山分けしようと持ち掛けられ・・・。映画はここから、ノワールものには欠かせない裏切りと欲望のダブルクロスが連鎖するパラノイアックな展開になっていく。

 本作の魅力の一つが何と言っても、その映像。本作の前作にあたる「ナチュラルボーン・キラー」で狂い咲いたかのように開花した、小刻みな膨大な数のカットでサブリミナル的な効果を出す手法が本作でも遺憾なく発揮され、どんどん加速していくパラノイアの度合いの演出具合が見ているうちに快感にすらなっていくのだ。

 主演のボビーのショーン・ペンジェニファー・ロペスは言うに及ばず、ジェイクのニック・ノルティカメオ出演程度ながら、強烈な存在感を発揮するイカレた若造トビーに扮するホアキン・フェニックス。おまけに狂言回し的にチョコチョコ出てくる盲目のインディアンのホームレスにジョン・ヴォイトと、役者たちが皆、いい味を出してこのパラノイアックなノワールを盛り上げる。

 ヤクザたちと揉め事を起こし、そのヤクザたちから金を奪い、自らも大金を持って追われているボビーは、いよいよこの町から脱出しようとするのだが、冒頭の修理屋のダレルが、ボビーの車をネタに金を搾り取ろうとする、とんでもない悪徳業者だったことから町からも脱出出来ない、いよいよ不条理な展開に。

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 果たして、ボビーはグレースの計画通り大金を手に出来るのか、そして町から脱出出来るのだろうか?灼熱の田舎町で一癖も二癖もある連中同士が骨肉の争いを繰り広げるこのノワールに、あのエンニオ・モリコーネの美しいスコアが華を添え、一層マカロニ・ウェスタンテイストになっていく後半を盛り上げてくれる。

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 クライマックスの舞台は崖っぷち。そこで繰り広げられる、壮絶な裏切りの掛け合いの果てに最後に笑うのは誰か?

 サブリミナル的なイメージカットの洪水に、巧みな音楽の使い方、そしてオリヴァー・ストーン映画に溢れていた並々ならぬパワー。そのフィルモグラフィでは忘れられがちな本作だけど見ないのが惜しいほどの面白さに満ちている。

 騙しだまされた後の、ビターきわまりないエンディングで、天を仰いで高らかに笑うボビーの姿を是非、見ていただきたい。そして何よりも、他人が不幸のドン底に転がり落ちていく快感を是非、味わっていただきたいのです~