負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬たちはどこまでもギラギラする!香港映画界きっての狂い咲きのニューウェーヴ「ミッドナイトエンジェル/暴力の掟」

この熱さに血液までもが沸騰する!香港映画が新時代を切り開いたビッグバン!異様なまでの狂い咲きの感覚に五感まで刺激されるワイルドな傑作

(評価 80点)



 

第一類型危険

 火遊びするな!その昔、愛読していた「スターログ」に、当時、SFカルト系映画専門の国際映画祭として一部の映画マニアでは有名だったアボリアッツ国際映画祭のエントリー作品の紹介記事が定期的に載っていた。その時、小さいながらも紹介され激賛されていた時の本作のタイトルが「火遊びするな!」だった。

 しかし、香港映画の本作の原題は、「第一類型危険」。B級映画フリークならこのタイトルにゾワゾワとそそられるものを感じはしないだろうか?そして、そのアンテナに呼応するかのように本作は、すべての限界をブチ破るかのような荒々しいパワーとワイルドな興奮に満ちている傑作といっていい。

 監督は香港映画界きっての俊英ツイ・ハーク。本作製作当時29才だったツイ・ハークが香港映画の新たな地平を切り開くべく野心の全てを本作に注ぎ込んだ。そのせいか、本作は、それまでのイモっぽい香港映画のスタイルとはまるで違うカミソリのような切れ味のニューウェーヴとしか形容しようのないテイストになっている。

 もともと、韓国にせよ香港にせよ、その映画のお手本は日本映画だった。この作品にもあの70年代の日本映画特有のゴキブリのように油ぎった猥雑なパワーに満ちている。



野良猫ロック

 本作の登場人物は一人の少女と3人組のワルにもなりきれないヘタレそのままのひ弱な若者。その3人組が、遊び半分に親の車を勝手に乗り回している最中、起こした人身事故。それを見かけた少女が若者たちを恐喝したことから、とてつもなくワイルドな歯車の暴走が始まる。

 この少女が実にエキセントリック。冒頭、飼っているハツカネズミの頸部に縫い針を突きさしてネズミが悶え苦しむところを冷静に見つめているような異常な少女なのだ。その少女がどこまでも3人組を追い詰め、凶行に走らせていく。まさにこの少女、70年代の日本のプログラムピクチャーに必ず出てきたようなズベ公そのままといっていい。

 そんな少女に脅され、3人組バスジャックをしたことからプロットがシームレスに急展開していくところが見もの。その犯行後、逃げる途中出くわしたのがベトナム帰りの傭兵たちからなる犯罪シンジケートの一味で、その一味が持っていた資金源の証券を少女が奪ったことから、全くのシロウトの若者たちは、シンジケートに追われることになる。

 とにかく本作、その畳みかけるようなスピーディな展開と、アクションの切れ味、キャラクターたちのクレイジー度など、どこをとっても一味違うパワーに満ちている。

 そして、そのパワーがクライマックスに至って爆発する。少女の兄の刑事、そして組織に雇われた殺し屋たち、さらにどこまでも逃げる若者たち、パラレルに描かれていたキャラクターたちが、山の中の墓地に集結し、最後に展開される悲壮なまでの殺し合い。

 まったくのシロウトの若者とプロの殺し屋の壮絶な銃撃戦の果て、たった一人生き残った若者が常軌を逸し狂いだし、笑いながら去っていく終幕の無常観までもが70年代の日本映画の泥臭いテイストそのままだ。



若者と爆弾と

 本作と初めて接したのはレンタル店の隅に置かれていたビデオだった。その時の衝撃そのままに、ヒドイ画質のDVDも買い求め秘蔵していた。しかし、YoutubeにもUPされていた本作を見て驚いた。なにより驚いたのが、その完全版ではプロットそのものに違いがあったことだ。

 それまでのヴァージョンでは、3人組が少女に恐喝されるきっかけが、若者たちが起こした交通事故だった。しかし、オリジナルの全長版とおぼしきそのヴァージョンでは、その恐喝のきっかけが、若者たちが映画館で爆発させた爆弾だった。その騒動の一部始終を目撃していた少女が若者たちを脅すというプロットになっている。

 本作をきっかけに香港映画そのものが洗練する道筋を歩み始めたのはまず確かと言っていい。そこにはプロットの構成も含め、何度も編集を模索した試みがあったのだ。

 ギラギラした熱気、猥雑なパワーに満ちたカルトそのものの本作、負け犬同様にファンの人も多いはず。DVDをお持ちの方は是非、両者を見比べてみては如何でしょう~