負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬と甘いマスクとVシネマ「甘い人生」

韓国の俊英キム・ジウンの成功作。成功へのビジネス戦略は、人気スターのプロモーションなのか?

(評価 55点)

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クワイエット・ファミリー」と「反則王」という愛すべき映画を放ったキム・ジウンのメジャー戦略はプロモーション・ビデオの作成だった。

 大好きな作品「反則王」のキム・ジウンのヒット作とあって興味津々だった作品。ところが本作、これはもう出店で売ってるたい焼きのように、頭の先から尻尾の先までアンコならぬ、韓国の超人気スター、イ・ビョンホンが詰まってます!みたいなスターのプロモーション・ビデオ同然の映画といっていい。

 ひところ流行ったショーユ顔のイ・ビョンホン。そのイ・ビョンホンが一流ホテルのマネージャーでありながら、裏社会のヒットマン的な顔役でもあるキムを演ずる本作。ストーリー的にはノワールといいながら、骨格は完全なVシネマといっていい。つまりは、単純明快で分かりやすい。

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 冒頭、ホテル内で起きたもめ事を、手早く得意の荒業で片づける。しかし、その時の相手との因縁が本編通じてのキー・プロットとなるが、そこに絡むのがイ・ビョンホンを引き立てるための恋愛要素。キムのボスでもあり、育ての親的な組織のトップの社長のカンから打ち明けられたのが愛人の存在。自分が留守の間、その愛人を監視し、もしも、若い恋人でもいるようなら始末をつけろと、キムは命じられる。

 そこからは、もうお約束通りの展開。その愛人は、大ボスの妾なのに、何故か知的なチェロ奏者で、キムことイ・ビョンホンは、一目でその愛人に道ならぬ恋心を抱いてしまい、愛人の恋人を抹殺するに忍びず、逃がしてしまう。

 その事が、大ボスの逆鱗に触れ、そして、その大ボスと冒頭で揉めた一味とが結託していたことから、キムは拷問され、処刑されかける。しかし、間一髪でその窮地から脱したキムは復讐すべく立ち上がり、殴り込みよろしく、武器を携えホテルに乗り込んでいく。

 イ・ビョンホンも勿論、日本のVシネマやヤクザ映画は見ているはずだ。それに、元々、映像派だけあって、たとえばデ・パルマの「スカーフェイス」なども見ていないはずはない。本作には、イ・ビョンホンが、そんな映画たちから受けたインパクトを、自分なりのスタイルで表現してやろうという意欲は存分に感じられる。

 ところが、肝心な物語が、あまりにも単調で、ご都合主義なのは否めない。イ・ビョンホン演ずる主役のキムは、最初から天下無双のスゴ腕なのに、捕まるときは、チンピラにのこのこと、住んでいるマンションに侵入されて、あっさりと捕まる。そして、いよいよ処刑されかける寸前、逃げ出す時は、瀕死の重傷のはずなのに、いきなり天下無双に豹変して、何十人もの相手と乱闘してぶちのめし、あっさりと逃げ出す。

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 そして、唖然とするのが、クライマックスの大銃撃戦。イ・ビョンホンは頭を撃ち抜かれて倒れたはずなのに、何故かいきなり立ち上がって、何十人もの相手と銃撃戦を繰り広げ始める。

 ボコボコに拷問されたはずなのに、かすり傷が数か所あるだけの、そのイ・ビョンホンのキレイな顔のアップが何度も出てくる後半は、負け犬の本作を見る気もどんどん失せた。

 ネタバレというほどでもないが、最後にキムは死ぬ。しかし、エンドクレジットで再びそのキムが登場する。そして、ホテルのウィンドーに映る自分の姿を見ながらカッコ良くシャドー・ボクシングをするイ・ビョンホンの姿をファン・サービスとばかりに延々見せられる。当時、イ・ビョンホンのファンだった人たちは、大いに感涙にむせんだに違いない。しかし、そこまでやられると、さすがにイ・ビョンホンのプロモーション・ビデオを見せられている感が半端ない。

 本作は、ヒットし、その後のキム・ジウンのステップアップに貢献したことは確か。その後の「悪魔を見た」という超バイオレンスの秀作を作るための踏み台程度の作品と言えば怒られるのでしょうかね~