負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の格別なるキムチの味「グッド・バッド・ウィアード」

このキムチの味は格別なり!これぞキムチ・ウェスタン!アジアが成し遂げたマカロニの頂点のリニューアルは味わって、絶対、損はなし!

(評価 80点)

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いい奴、悪い奴、奇妙な奴、三人の奴らが、宝の地図をめぐって繰り広げる争奪戦は興奮必至のアジアの快挙だ!

 映画野郎には欠かせないジャンル、マカロニ・ウェスタン。その頂点に君臨し、カルトでいえば、今なお教祖的存在といっていい名作「続・夕陽のガンマン」。

その威光にノックアウトされ、人生を通じて、その映画に対する信仰心が未だに冷めやらない映画フリークたちも多い。勿論、この負け犬もその一人だ。

 そして韓国にも、そんな映画野郎がいて・・、その名をキム・ジウン韓国映画界きっての俊英だ。そのキム・ジウンが、アイドルに対するが如く、その「続・夕陽のガンマン」に対するミーハーな思いの丈を、自らが持てる全てのパワーを振り絞って発信して見せたかのようなパワフルな作品こそ本作。

 でも、監督がそうして、過剰な思い入れを投入して作った作品は、往々にして失敗することが多い。それに加えて、そのミーハーな対象が、アジア人には場違いな西部劇とくれば、トンチンカンになっても不思議はない。しかし、本作に限っていえば大丈夫。何と言っても作り手が巧みなテクニックの使い手、キム・ジウン。誰が見ても、何の違和感も遜色もない、それでいてエキサイティングなことこの上無い、誰の舌にも美味なこと間違いないキムチ・ウェスタンを作り上げたから恐れ入る。

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 原典の「続・夕陽のガンマン」、原題が「グッド・バッド・アグリー」な、三人の野郎たちは、いい奴にクリント・イーストウッド、悪い奴にイーライ・ウォラック、そしてアグリーな醜い奴にリー・バン・クリーフだったが、本作の三人組は、いい奴にチョン・ウソン、悪い奴にイ・ビョンホン、そして奇妙な奴にソン・ガンホ

 そんな三人組が、日本軍の軍資金が隠された宝の地図をめぐり、興奮必至の大争奪戦を繰り広げる本作は、まさに何も足さない何も引かない、その地図を追う、追っかけっこ以外に目もくれず余計なものには一切時間を費やさないところが、何ともグッド。全編通してバッドらしきところなど、見事なまでに見当たらないところがウィアードなくらいな出来栄え。

 冒頭、本作の狂言回し的なソン・ガンホ演ずる奇妙な奴のユンが登場する列車強盗シーンが実にパワフル。その時、ユンがたまたま手に入れた地図こそが、日本陸軍秘蔵の地図だったことから、争奪戦の火蓋が切って落とされる。

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 その後は黒ずくめのイ・ビョンホン、ヒーロー役のチョン・ウソンが入り乱れてユンをひたすら追っていく。ターザンばりにロープにぶら下がったチョンがそのまま集団を曲芸撃ちでなぎ倒すなど、韓国映画、そしてキム・ジウンならではのシャープなアクション演出はいたるところに健在。

 そうしたケレン味たっぷりの劇画チックな描写を交え、オープニングから勢いよく疾走する本作は、やがてクライマックスの見渡すばかりの大平原でのチェイス・シーンに突入する。

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 地図を手に、ひたすら突っ走るユンのサイド・カーを、日本軍、馬賊イ・ビョンホン、チョンらが、三つ巴、四つ巴になって追撃するエキサイティングなシーンの容赦のない追っかけに次ぐ追っかけのボルテージはもはやマッド・マックスを凌駕するといってもいい。マッド・マックスは、アクション部分にもCGを使っていたが、本作は、タカが空から地上めがけて舞い降りるファースト・カットを除き、CGはほぼ使われていない。アクション、特にこのクライマックスに関しては、CG無し、全て体当たり、命がけの本物だ。ここには、映画小僧の時、夢にまで見た映画を大人になって再現出来た男の至福の喜びを感じる。まさにこのシーンが永遠に続いて、ずっと見ていたいと思うほど。

 そして、オリジナル通り、ラストに用意された、三人向かい合っての撃ち合い。ここで明かされるお宝の正体と、韓国映画特有のヒネリは見てのお楽しみ。

 撮影中のスタッフの熱気、熱量すら肌で感じられるような本作は、本国韓国で大ヒット。今も「奴奴奴」の愛称で親しまれているらしい。本作を一度見て、好きになった人ならきっと「奴奴奴」のキャッチ・フレーズが心に刻まれること請け合いですよ~