本作のキャッチフレーズは淡々(タンタン)。この熱さゼロの淡々とした静かなる復讐談はおそらくクセになる
(評価 70点)
本作、脚本があの「タクシードライバー」のポール・シュレイダーのアクションものの渋めの佳作とあって、その昔、見るのを切望していた。ところがビデオ隆盛期の時代にも本作、待てど暮らせどレンタルリリースされなかったタイトルであった。
ところが念願かない、ようやくレンタルリリースされることになり、リリース早々、ビデオレンタル屋に駆けつけレンタルして見たのを覚えている。
まず面食らったのが、何処のメーカーからリリースされたか忘れたが、画質がすさまじくヒドかったこと、それもあってという訳でもないが、映画自体の印象はといえば正直薄く、期待したほどの盛り上がりもなく、全体的に覚めたトーンの映画だな、ということだった。
ただ、冒頭、ベトナム帰りのレーン(ウィリアム・ディベイン)とジョニー(トミー・リー・ジョーンズ)たちを乗せた飛行機を捉えた映像にかぶさる哀切に満ちた主題歌とラスト、売春宿を二人で襲撃し、復讐の相手もろとも敵を殲滅し、傷ついたジョニーを抱えながらレーンたちが歩き出すショットだけは何故か脳裏に鮮烈に焼き付いた。
かくしてビデオというメディアが消え去り、DVD全盛の時代になってもこの映画、いわくつきのごとく、やっぱり本国アメリカですら、いつなってもDVDが出なかった。
その間、あのタランティーノが本作をベスト・フェイバリットとしてそのタイトルを自分の会社名に冠したりして、その知名度だけは年を経るごとにUPしていた。
そして、ようやくリリースされたDVDで、何十年ぶりかでまた再見することになった。
特に、印象は変わらなかった。俗に言うベトナム後遺症ものにジャンル分けされる本作。やっぱり熱さというものが全くない。ベトナム帰還兵のレーンに町から勲章代わりの多額の硬貨が贈られる。レーンの妻と子供が、その硬貨目当てに押し入った悪党どもに殺される。本来なら妻子を殺されればウォー!とうなって劇画チックに拳を握り締め雄叫びの一つでもあげそうなところだが、当のレーンにそんな気配は微塵もない。ただ淡々としている。
悪党どもにディスポーザーに突っ込まれ、失った右腕に海賊ばりの義手を装着したレーンが、そのかぎ爪の先端を研磨機で尖らせる時に発する火花がレーンのグラサンに冷たく映り込むショットが秀逸だ。
昔、見た時は、静か過ぎるそのトーンが物足りなくも感じたが、改めて見ると本作の良さがまさにそこなのだと思えるようになった。ストーリー自体、掃いて捨てるほどにある復讐アクションの定型的なフォーマットを踏まえながら、別にベトナム後遺症を声高に叫ぶでもなく、ただ硝煙の臭いにしか感応しなくなった主人公をただ静かに見つめるところが今度は何だかクセになり、以来、繰り返し見るようになってしまった。
特筆すべきは、レーンの伏兵のような若きトミー・リー・ジョーンズの薄ら笑い。売春宿でショットガンをぶっ放す時も撃たれた時も、ジョーンズは常にうすら笑いを浮かべている。その薄ら笑いで、ベトナム体験がロボトミー手術のようにレーンたちの脳みそから生気を奪ったことを端的に表現しているような気がして、忘れられないのですよね~
日常で、こんな薄ら笑いを浮かべてたら確実にアブナイ奴だと思われるのは必至でしょうけど