子供の頃、あの有名なチョッパーで疾駆するこの映画のポスターがあちこちに貼られていた。そのカッコ良さや自由な空気こそまさにアメリカそのものだった。
(評価 78点)
映画とは、映画会社のエライ重役連中が会議で企画を立案し、予算が組まれ、俳優やスタッフたちが集まってスタジオで撮影され出来上がり公開される。ガキの頃の負け犬はボンヤリとそう思っていたし、テレビで放映される映画もハリウッドスターたちがスタジオで繰り広げるそうした劇映画が大半だった。だから、ヒッピーみたいな連中が野外でそこらをウロウロするだけをテキトーに撮っただけみたいな映画が存在すること自体、想像もつかなかった。
確か、これをTVで見たのはそんな小学生の頃。記憶する限りただ一度しか放映されたことのない日曜洋画劇場だった。
まあ~ある意味、衝撃だった。まったくストーリーはないし、何せ小学生ごときのその頃ではまだ、ロックの名曲の数々の良さなど分るわけもないし、何だかやたらとヌードが出て来るし、男まで気軽に素っ裸になるし、遂にはあのトリップ・シーン。あまりのわけのわからなさに奇妙な恐怖感すらありましたね。それでも最後、キャプテン・アメリカが唐突に吹っ飛ばされるシーンには子供ながらいいしれぬ物悲しさを感じたのも確か。
いずれにせよ、世の中にはこんな映画もあるのだという一つのトラウマチックな記憶として脳裏に深く刻み込まれたことは間違いない。
いまではDVDで事あるごとに見て、映像や音楽は勿論、ニューシネマの空気感に触れることが出来る、たまらなく心地のよい、一つのかけがえのない作品となったわけだが、そもそも本作の企画が、デニス・ホッパーがインスピレーションで閃き、仲間たちに身振り手振りで聞かせた本作のそのストーリーに魅了されたことだったことを、特典のメイキングで最近知った。
それは、いわば痩せ馬にまたがったカウボーイならぬチョッパーに乗ったキャプテン・アメリカ(ピーター・フォンダ)がドン・キ・ホーテの如くアメリカ大陸をさすらい失われたアメリカン・スピリッツを求める寓話とでもいえようか。一見、中身のないものでも、時代を経てもそのインパクトが色褪せないものというのは常に厳格な骨格というものがあるのだ。本作であまりにも異質なカーニバルの映像が、テスト的に撮影したフィルムフッテージをそのまま用いたことも、結構、貫禄の入ったオバチャンになったカレン・ブラックなどが明かしている(カレン・ブラックは本当にニューシネマのクイーンだった)。そして、撮影では皆、本当にドラッグをやってハイになったことも。
そこには商売っ気やビジネスなぞ欠片もなかったに違いない、ただ自分の撮りたいものを撮りたいように作るだけという何物にもとらわれない自由なスピリッツがあった。このちっぽけな作品が運命のイタズラか、世界中で大ヒットしたことで、映画はスタジオというお仕着せの空間を飛び出して、まるでボーントゥビーワイルドに乗ってチョッパーで疾駆するワイアットとビリーのように自由に羽ばたき始めるのだ。
それにしても本作で酔いどれ弁護士を演じた若きジャック・ニコルソンがミッミーとかって言って奇声を発して怪演するシーンは何度見ても笑えるなあ~