負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のマッチョな男はお約束の銃弾のシャワーを浴びて強くなる件「ガントレット」

これぞ映画のお約束のオンパレード!マッチョマン、イーストウッドのキャリア史上、

エンタメ指数マックスな娯楽アクション

(評価 76点)

所詮、映画はお約束の世界。されば、そのお約束をこれでもかとばかりにつるべ打ちに見せてやる。本作は、そんなイーストウッドの荒い鼻息が、こちらの鼻先まで吹きかかってくるような気概のこもったアクション作品。

 

 時は1977年。その年のお正月映画の目玉作品のポスターにこんな惹句が躍る一つの作品があった「火を吹く45000発の銃弾に一人で挑む凄い奴」。その凄い奴こそ他でもない史上最大のマッチョマン、イーストウッドその人だった。

 「恐怖のメロディ」から監督業に手を染めて早や5作を数え、第6作目でイーストウッドが本気でエンタメにベクトルを振り切って勝負を賭けた作品が「ガントレット」だった。当時、愛読していた「ロードショー」などの映画雑誌にはその45000発~の惹句が華々しく躍る特集記事が載っていたのは今でも覚えている。

 イーストウッドが本作に挑んだ鼻息の荒さは、本国版のポスターのアーティストにあのファンタジー・アートのレジェンド、フランク・フラゼッタを起用したことからもひしひしと伝わってくる。フラゼッタの荒々しくも雄々しいタッチで描かれたイーストウッドはマッチョそのもの。かくしてマッチョの代名詞イーストウッドが本気印で挑んだ作品とはいかなる代物だったのか。

 そんな本作は言ってみれば映画におけるお約束のオンパレードである。それはポスターの惹句にもひしひしと現れている。初公開当時は中学生程度の青二才。ちょうど映画におけるリアリティというものにも目覚める年頃だ。だから、デカデカと貼られた本作のポスターにもどこか鼻であしらった感もあり、その後、TV放映された本作も見た記憶はあるが、謳い文句通りのやたらと無駄に何万発も撃ちまくる銃弾の雨あられにどこかで苦笑した程度だった。

 しかし、それから実にン十年後にふと見たくなり手にした本作。こちらが年を取って丸くなったのが幸いしたのか、実にそのお約束のオンパレードも楽しい快作だったという次第。

 本作のストーリーは単純そのもの。アリゾナ州のフェニックス市警のはみだし刑事ショックリーが出勤するや命じられたのが、ラスベガス出張と一人の証人の護送。その証人は一人の娼婦。護送を拒絶する娼婦は命を狙われているとショックリーに言い張り、道程で二人もろとも殺されると訴える。しかし、娼婦の戯言と相手にしないショックリーはその娼婦マリーと共に空港に向かうが・・・とくればもうその後の展開は誰もが想像は付く。

 実は事件の黒幕が、イーストウッド演ずるショックリーに護送を命じたコミッショナーで、最後は大岡越前ばりに勧善懲悪で幕切れするというのも誰だって手に取るように分かる。

 だが、本作はそれを裏手にとって、アクション映画におけるお約束をカタログのようにパノラマチっくに見せていく。そして次々と繰られていくそのカタログのページを半端ない銃弾の数で彩っていくのが見ていて実に楽しいのだ。

 まずは空港に向かう途上で用意された車が爆発し、命を狙われていることを悟った二人がマリーのヤサに逃げ込む。そこに救助を要請したはずの警官隊が包囲し、まずは盛大な銃弾の嵐を浴びせかける。そんなに撃つ必要あるの?と誰もが思う。それでも有無を言わさず浴びせられる銃弾の猛威に一件の家が倒壊するシーンには唖然とするばかり。この度を越したアングリさ加減が本作の持ち味。

 家のベースメントの抜け穴から脱出した二人はパトカーをハイジャックし、一路、州境を目指す。そして、一夜を明かした洞窟でコミッショナーの陰謀を知った二人は、やって来たバイカーたちから奪ったチョッパーに乗って爆走。

 本作の大見せ場の一つ、この砂漠地帯でのチョッパーと、それを追撃するヘリとのチェイスは今見ても実にアメリカンなアクションシーンで楽しいことこの上ない。このシーンなんか、明らかにイーストウッドがその当時、実生活の愛人でもあったマリーを演ずるソンドラ・ロックを後ろにチョコンと乗っけて走りたい、そのワンマンなワガママだけでこさえたシーンで必然はない。しかし、それでも良い。アクション映画のお約束としては何もかもが必然なのだから。

 そして、誰もがのけぞる最大のお約束がクライマックスに待っている。市警の庁舎に正面から乗り込むべく、ショックリーは観光バスを乗っ取り、鉄板で運転席を武装してフェニックス市内を疾走。それに向かって警官隊が映画のポスターの惹句通りの銃弾の雨あられを浴びせかけるシーン。

 謳い文句に偽りなしのこのシーンには70年代のアメリカのアクション映画のボルテージが画面のフレーム一杯にフルスロットルで溢れかえっている。

 かくして、見終えた本作、数万発の銃弾も、銃弾で倒壊する一軒家も、爆走するチョッパーも、銃弾の穴だらけのグレイハウンドバスも、必然性などどこにもない。しかし、アクション映画のお約束としてはまぎれもない必然で、そんなお約束のオンパレードがひと夏の暑気払いにはピッタリな一作だった。おそらく、これを機に、今後も夏になれば見たくなる一作かも。

 だが、それにしても、クライマックスの、バスに銃弾を浴びせかけるいわくつきのシーン。これを見たらまず誰もが思う。「タイヤを狙えばいいじゃねえか」。しかし、マッチョマンのはずのイーストウッドの観客にそっと忖度するこんな囁きも耳元で聞こえてくる・・「シー!それは言わないお約束でしょ!」