負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のプーチンさんは変態の小児性愛者がお好き「ロシア52人虐殺犯/チカチーロ」

国家権力の手によって野に放たれたのは史上最悪のモンスター!その権力の厚い壁とシリアルキラーに立ち向かったのはたった一人の捜査官だった。チカチーロ事件の顛末をペレストロイカの歴史と共に描く迫真のネオ・ドキュメント

(評価 78点)

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史上最悪のモンスター

 いびつに歪んだ精神で性的惨殺事件を繰り返す稀代のシリアルキラーサイコパスたち。ただでさえモンスターと言っていい、そんな犯罪者を、もしも強大な国家権力がバックボーンとなって野放しにしたら、考え得る限りの最悪の事態が勃発する。

 昨今、何かと話題のロシア帝国。1982年から始まり、実に8年間にわたり52人もの少年少女たちを惨殺した実在の史上最悪のシリアルキラー、チカチーロ。その所業を描く本作の最大の特徴は、そのロシアという統治国家の権力の手によってシリアルキラーが野放しにされ、52人もの少年少女が惨殺されてしまった、実際に現出したワースト・ケースのシナリオを、そのまま丹念に描いて見せたところにある。

 また本作を見ると、そのチカチーロ逮捕という功績を成し遂げたのは、現在のロシアの前身のソビエト連邦の国家統制の下、立ちはだかる様々な壁と戦い続けた、たった一人の捜査官の不屈の信念だったというのが実に良く分かる。

 そしてまた、その信念こそが、長年にわたる独裁政治という国家体制を、ベリリンの壁の如く崩壊させたペレストロイカを呼び寄せたのだという興味深いレアな事実を窺い知ることが出来る作品でもある。

 

孤立無援の捜査官

 森の中で惨殺された一人の少女の遺体が、科学捜査専門のブラコフ中佐(スティーヴン・レイ)のもとに運び込まれたのは1982年のことだった。直ちに現場検証を命じたブラコフのもとに、同様の手口による何体もの惨殺体が運び込まれ、検死のラボがたちまち一杯になって・・こんなプロローグで始まるネオ・ドキュメントの本作。実はTVムービーなのだが、そのクォリティーの高さから、日本では劇場公開もされた。スピルバーグの「激突」もそうだけど、TVムービーのポテンシャルを超越して劇場公開されるものには傑作が多いが、本作もまたその例外ではない良作と言える。

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 開口一番ブラコフは、すぐに同一犯の連続殺人と見抜き、所属するロストフ民警本部の少将フェチソフ(ドナルド・サザーランド)に、プロファイリングに基づく様々な設備と米国のFBIとの情報網の展開とを申し出る。しかし、ソビエトの統治国家でのシリアルキラーの存在が、プロパガンダに及ぼす影響を配慮した上層部にことごとく拒絶されてしまう。

 もしも国家という強大な権力が、ペドフィリア小児性愛者のシリアルキラーの存在そのものを否定したら、そのモンスターは野放し同然になるだろう。本作は、そうして異常犯罪者が透明人間同然と化した犯罪天国のような環境で、その犯罪を謳歌し、少年少女を惨殺した挙句、性欲のはけ口にするチカチーロの所業が何度も描かれる。だが、TVムービーというフォーマットもあってグロい描写はあくまでもマイルド。だから、その手の映画が苦手な人も安心して見ることが出来る。

 そもそも、本作が主眼とするのは、あくまでも個人と国家という図式で、実直そのもののブラコフが、決してあきらめず何年にもわたって、シリアルキラーの存在を主張し続け、10年近くが経ち、ペレストロイカの機運とともに、ようやく上層部の執拗な圧力から解放される瞬間には、熱いものがこみ上げる。

 ネオ・ドキュメントとはいえ、1984年にたまたま居合わせた駅で、不審な行動をしていたチカチーロに目ざとく目を付け、最初の逮捕をするのがブラコフ本人という、作劇上の改変も少々為されてはいる。しかし、基本リアル・イベントに則って描かれる本作のメソッドは実直そのもの。その丹念な作劇ぶりに好感は持てるが、少々、実直すぎて映画ならではの広がりに欠けるのもまた事実。

 だが、それを補って余りあるのが、名優たちの共演だ。

 

名優たちの存在感

 たった一人で孤立無援の戦いを続ける主人公、その主人公の行動に突き動かされ、協力者たちが集う瞬間には「アンタッチャブル」のエリオット・ネスの味方が集う熱いくだりも然り、エンタメならではの興奮があるが、本作も例外ではない。

 何年も一人で本件の捜査をするブラコフに、あくまでもシステム体制のスタンスを崩さなかったフェチソフが、ようやく人間的に謝罪を吐露し、協力を自ら申し出るシーンは実に感動的。そしてそのフェチソフを名優ドナルド・サザーランドが演じている。

 更に名優がまた一人。頑として本格的なプロファイラーの導入を拒否していた体制側がようやくブラコフの主張に耳を傾け、アドバイザーとして参加することを許されたブハノフスキー博士。この博士に扮するのがこれまた映画史上に輝く名優マックス・フォン・シドー。このマックス・フォン・シドーが「エクソシスト」のメリン神父の頃からまったく変わらぬ若々しい(笑)老けぶりを見せてくれるのが何とも嬉しい。

 何はともあれこのTVフォーマットを超越した名優二人が、ブラコフの捜査に協力するくだりは本作最大の見所。

 

シチズンX」チカチーロ

 完全に一般市民に溶け込み、捜査線上、透明人間のようになって泳ぎ回ったチカチーロ。捜査記録上、その透明性から「シチズンX」とコードネームが付けられたチカチーロが生を受けたのは1936年。

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 幼少期から性的コンプレックスのルサンチマンの中にあったチカチーロは、成年になって教職についてからも、寄宿舎に忍び込んでは少年にフェラチオし、自らオナニーするなどの破廉恥行為を常習化させ、連続殺人を本格化したのも、その教師をクビになってからだった。チカチーロが少年少女を網にかけるために利用したのが駅だった。ロシア全土に拡がる鉄道網を利用することで行動範囲が特定されなかったことも操作が難航した要因だった。一見、何処から見ても実直な中年男、このチカチーロを本作ではジェフリー・デマンが好演している。映画でもわずかに描かれるが、勃起不全だったチカチーロは、性器が変形する程のオナニーの常習者だった。

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 そんな変態の小児性愛者が野放しになったことで行われた犯罪劇。プーチン大統領による核戦争の危機が、地球規模のマックスな惨事とすれば、このチカチーロがもたらした惨状もまた、独裁国家によってもたらされたもう一つの惨事と言える。なんにせよ平和な世界であってほしいと切に願うものです。

 さて、1984年に最初に逮捕されたそんなチカチーロが一旦、釈放されたのは、その当時の血液型の鑑定がシロだったから。そのいい加減な鑑定のおかげで、容疑者リストから完全に抹消されたチカチーロは、その後、6年間にもわたり少年少女を好き放題に虐殺する。

 この時の血液鑑定は未だにロシアの犯罪捜査史上、最大の謎とされている。一説には血液型を特定出来ない特異体質だったとも。だとしたら、チカチーロは、まさにシチズンXならぬXファイルにでも出てきそうな超自然のシリアルキラーということにもなるが、本当でしょうかね~

 

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