負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬も悪魔も好きなゆでたまご「エンゼル・ハート」

メディアミックスならぬ、ノワールな探偵ものとオカルトが見事に融合したジャンルミックス的なアラン・パーカーの代表作

(評価 79点)

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アラン・パーカーの卓抜な映像センスここにきわまる。ノワールならではのムーディな映像とオカルチックなシーンがシャッフルする本作は、まさにパーカーのビジュアルセンスの独壇場。

 この負け犬がもう三十年来、欠かさず続けている習慣がある。それは毎朝、一個ゆでたまごを食べること。別に、好きだからというわけではないけれど、食の習慣として何となく機械的に日常化しているものは誰にでもあるのではないでしょうか。ただ、ゆでたまごが好きで好きでしょうがないという生き物もこの世にはいる。それは悪魔だ。たまごは昔から、人間のソウル、魂のシンボルと言われている。人間の魂を誰よりも好むもの、それは悪魔を置いて他にはいない。

 え、悪魔?これって探偵ものだよね?なんの予備知識も先入観も持たずに本作を見始めたら、誰でもそう思うに違いない。ブルックリンに事務所を構える私立探偵のハリー・エンゼルは、ある日ルイ・サイファー(ロバート・デ・ニーロ)と名乗る富豪からジョニーというステージ歌手を捜してくれと頼まれる。時代はノワールそのものの50年代、その探偵に扮するのが、当時、絶頂期のミッキー・ロークとくれば、雰囲気も申し分ない。そしてハリーが関係者を尋ねるたびに、その証人が次々に殺されていき・・とくれば何処から見てもフィルム・ノワールそのものだ。

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 映画にはたまに、マルチ・ジャンルという作品が現れる。もっとも分かりやすい例でいえば、出だしからどこから見ても、子悪党の逃避行を描くアクションものでしかなかった映画が、中盤からいきなり何の前触れもなくヴァンパイア・ホラーに豹変する、タランティーノの秀逸な脚本が光る「フロム・ダスク・ティル・ドーン」が有名だろう。あちらは水と油のようにそれぞれのパーツがはっきりと別れていたけれど、この「エンゼル・ハート」は、まさにジャンルミックスノワールとオカルトが見事に何の違和感もなく融合している。そして、それを一つの作品に昇華せしめているものこそ、本作の監督アラン・パーカーの映像に他ならない。

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 本作で誰かが殺されるたびに描かれる、それを暗示するようなオカルチックなフェノミナ。エレベータのドアのシルエット、回り続ける換気扇のファン、飛び散る血、そうした瞬間的な短いカットを駆使して描かれるこのビジュアルは、まさにアラン・パーカーの真骨頂。何度もリフレインされるこのシークェンスによって、オカルト・ノワールとでも呼ぶべき本作がいっそう魅力的なものになっている。エンゼルが事件を辿るうち、占い師のマーガレット(シャーロット・ランプリング)に行き着く。そのマーガレットが殺されるシークェンスの、表でタップダンスを踊る少年とのカットバックが実に見事。マーガレットが殺され、タップする足のクローズアップで、オカルチックなフェノミナが止む、そのリズミカルなシーンは何度見ても素晴らしい。

 また抜群の効果を上げているのが、舞台に設定された数々の風景。黒人たちの葬列、そして、やがて出てくる黒魔術の儀式や、沼地でのチェイス。白眉は、エンゼルがマーガレットを捜し、さびれた遊園地を訪れるシーン。人気のないコニーアイランドの遊園地でポツンと佇むミッキー・ロ-クを捉えたロング・ショット。そうしたアクセント的なシーンが本作はいつまでも印象に残るのだ。

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 何の変哲もない小物のクローズアップや、ミッキー・ロークの何気ない仕草を切り取る短いカットも含め、アラン・パーカーのビジュアルは、ちょうど同時代のエイドリアン・ラインの映像と実に良く似ているが、パーカーの作品の方が、よりストーリー性に満ち、シリアスなテイストがあるのが特長と言える。

 とはいえ、ミッキー・ロークの探偵の名がエンゼル。そしてルイ・サイファーと再び出会った時にサイファーが意味深に食べているのがゆでたまごとくれば、本作のストーリーのネタは誰でも予想がつく。ラストは正体が明らかになったサイファーに業のような因果を突きつけられて、地獄を暗示する下降するエレベータに乗るエンゼルのシルエットでエンディングとなるが、その直前に描かれる、まさに因果応報のスタイリッシュなセックス・シーンは、いつまでも余韻として残るほどのインパクトがある。

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 ちなみに公開された当時、誰よりも本作を絶賛していたのは、あの「必殺仕掛人」などで知られる時代小説の大家、池波正太郎。数々の映画評でも楽しませてくれた同氏が「キネマ旬報」誌上で、手放しで本作を褒めていたのを今でも覚えている。

 ところで、負け犬が毎日食べている、悪魔も好きなゆでたまご。その卵の成分に、認知症を予防する成分があるらしい。そんなことを聞くと何故かホッとするというのは、やっぱり、この負け犬がよっぽど年を取った証拠なんでしょうかね~