負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

野良犬とワイルド7の激突!「ダーティハリー2」

野良犬から生まれた孤高の一匹狼が、超法規的処刑人と化した白バイ軍団と激突する。まさにアクション映画ファン垂涎のドリーム・マッチのはずがトホホな結果に。それでも今だからこそ放つ本作の魅力を再発見

(評価 72点)

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ダーティハリーはあのクロサワの「野良犬」から生まれた。それは、クロサワ崇拝者のジョン・ミリアスのこだわりの脚本の賜物でもあった。それでも、一作目においては、当時のアメリカの社会を騒然とさせていた実在の殺人鬼ゾディアックを投影したスコルピオとの対決に主軸が置かれたため、その引用はあくまでディテールにとどまっている。

 たとえば一作目でもっとも有名な、いきなり発生した銀行強盗にハリーが遭遇するシーン。その時ハリーは立ち寄ったスタンドでハンバーガーにパクついているが、実はあのハンバーガーは、黒澤明出世作となった「酔いどれ天使」で、酔いどれ医師の志村喬三船敏郎のヤクザとしみじみ会話するシーンで舐めていたアイスキャンデーを意識したと、ジョン・ミリアスは「キネマ旬報」に掲載されたインタビューの中で語っている。アイスキャンデーのことを英語でポプシクルというのを、その記事で初めて知った。

 他にもスコルピオが潜伏しているスタジアムで、拷問まがいの尋問を加えるビジュアルのインパクトも強烈なシーン。あのスタジアムは「野良犬」で野球観戦に興じている銃の売人を確保するシーンから引用されている。

 そして同じ記事の中で言及していたのが他でもない本作の「ダーティハリー2」だ。

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こざかしい犯罪捜査など抜きにして、とにかく力と力のみに焦点を絞った2作目は、その点、はるかにワイルドさ、男臭さもUPし、世界観そのものがクロサワ的といえる。開巻、裁判所から出てきたマフィアのボスが、いきなり殺される。それを皮切りに、次々とマフィアの関係者やヤクの密売人が殺される。

「野良犬」からの明らかな引用であるとミリアスも明言しているのは、中盤の警察内部での射撃コンテストのシーンだ。その必殺処刑人たちが、同じ署の若い白バイ警官たちだとニラんだハリーは、その警官の一人から357マグナムを借り、わざと的をハズす。そしてコンテストが終わった後、その弾丸を採取して鑑識に回し決定的な証拠を掴む。

このシーンは言うまでもなく「野良犬」で、冒頭ピストルを奪われた三船が、後日、発生した犯罪で使われたピストルの弾丸と、自分のピストルの弾丸の線条痕を照合するのに、射撃練習で自分が撃った弾丸をほじくり返すシーンのそのままの引用だ。

かくしてミリアスをはじめとしてマイケル・チミノといった野郎映画の面々がアイデアを出し合った脚本を基に作られた本作は、当然、傑作になり得ても良かった。

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しかしながら、本作をTVで初見の時負け犬は、まだ子供だったが、その目から見ても、緊密そのものの一作目と比べ、何てアバウトな映画だ、とあきれるぐらいの凡作にしか思えなかった。

だが、後年、何度か見返し、今に至っても、見る度にそのポンコツ具合が妙に愛らしくも思え、何故か一作目以上に偏愛する映画にもなっている。

そもそも「ダーティハリー2」が傑作になり得なかったのは何故だろう。

TV畑のテッド・ポストを監督に採用したのがマズかった、とは良く言われる。でも、最近、YouTubeで昔のTVシリーズの「COMBAT!」のテッド・ポストが手掛けたエピソードを何本も見たが、なかなかどうしてその演出には才気走ったものが感じられた。また、マカロニテイストに、死刑制度の是非を問うリベラルなテーマを盛り込んだ西部劇の意欲作「奴らを高く吊るせ」でも、既にイーストウッドはポストと組んでその力量のほども十分に見込んでいた。

やはり一番の原因は、その脚本のような気がする。おそらくイーストウッドの意向も多分に反映されたはずのその脚本には、ミリアスやチミノの感性がぶつかり合って尖った部分を意図的に丸めようという無理が伺えてしようがないのだ。

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一作目では、決して描かなかったハリーのプライベートな部分をあえて描く。また、映画のテンポを台無しにするような東洋系の女性とのラブシーンといった明らかに不要なサービスシーンも存在する。一番、拍子抜けするのがクライマックスの空母での攻防シーン。二作目にして伝家の宝刀マグナム44を封印するという大胆な試みは買うにせよ(原題がそのものずばりのMAGNUM FORCEにもかかわらずだ!)、丸腰のハリーが最後に白バイのハーレーを奪い、走り出したところで誰もがその胸を高鳴らせたはず。ところが、敵のリーダー、デイヴイス(デヴィッド・ソウル)と一騎打ちになるのかと思いきや、そのままデイヴイスが「あれ~」とばかりに海に落っこちるだけというギャグにもならない末路で決着がつく(このシーン何度見てもそのキレのない編集には唖然としてしまう)。

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エンディングはハリーが、自分に仕掛けられた爆弾を、重要な事件の証人でもある上司のブリッグス(ハル・ホルブルックス)に逆利用して爆殺するというコメディのようなオチ。

とはいえ、そういうアバウトさも含め、いかにもな、70年代アクション・テイスト満載の本作、やっぱり魅力的な作品ではあるんですよね~

なまじよく出来た作品より、こうした傑作になれなかったポンコツに愛着が湧くのは負け犬だけではないはずですが・・