負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

箱詰めの負け犬「フォーンブース」

箱入り娘ならぬ箱入り男はクズだった

(評価 78点)

 

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その昔、映画のスクリプトがアップされているサイトを物色しては面白そうなものをダウンロードしては色々と読んでいた。そこには公開前の「キル・ビル」のオリジナルスクリプトもUPされていた。(まるでアメコミのようで読んだ時は仰天したのを覚えている)

 その中で、読み始めるや英語にも関わらず一気呵成に読み終えるほど飛び切り面白い脚本があった。タイトルは「PHONE BOOTH」。

 A4の用紙で80ページ。映像化すれば1時間20分ほどの上映時間になるはずのその内容は、ある男が通りすがりに電話ボックスに入る。しかし、その電話ボックスを狙うスナイパーによって男はそこに釘付けされたまま動けなくなり・・・。そうあのフォーンブースそのものである!

 それを呼んだときはまだ映画化前だったと記憶する(未映画化のスクリプトのサイトは山ほどある)

 だが、その後、コリン・ファレル主演で映画化され評判となっても本作を見る気はしなかった。何故なら脚本が面白過ぎたから。往々にして出来過ぎた脚本の映画は凡庸になってしまうもの、それに舞台がボックスという限定空間、ストーリーも知っているとあらば、あえて見るまでもない、というわけで、実際に見たのはつい4,5年前だった。

 見た時は少々、驚いた。電話ボックスのみでの展開、ビジュアルは当然、マンネリになるはずだ。しかし、電話ボックスをめぐり実に多彩なアングルとショットを駆使し、飽きさせずに展開させる監督の職人芸的な手腕には、はっきりいって驚かされた。

 監督は80年代の活躍が印象的な、先頃惜しくも逝去したジョエル・シュマッカー

 電話ボックスに閉じ込められる破目になった軽薄で利己主義のクズ人間(この携帯時代に、どうして電話ボックスなの?と誰もが思うその答えにもクズ人間という伏線が巧みに生かされている)スチュー(コリン・ファレル)が究極の選択を迫られた挙句、ようやく人間らしいストレートな感情を吐露して泣かせる、というクライマックスまで、シュマッカーは実に巧みに披露してくれる。かくして傑作脚本が映画化された本作をようやく見た負け犬は留飲を下げた次第である。

 ところが、その時初めて気づいたことがあった。まだ手元に残っていたスクリプトの作者の名前が、かねがね気になっていたので試しにとばかり調べてみて驚いた。

 何と作者はあの「悪魔の赤ちゃん」などのB級映画を連発していたラリー・コーエンその人だった。まさかあのコーエンがこんなタイトな脚本も書ける才人だったとは(この方も最近、亡くなりました・・)と、これもオマケに驚いたという話です。

 ところで、今の時代でも都市伝説のように点在するあの公衆電話というやつ。あれは一体、何のためにあるのだろう?

夜などポツんと立ち尽くすあいつの姿を見かけると奇妙な寂寥感に見舞われるのはワタシが負け犬だからですかね・・・