負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の終わらない発情期「エマニエル夫人」

多感なエロ少年たちの合言葉はエマニエル!まだ見ぬエロい世界への思いの丈を極限なまでに募らせた禁断の青い扉が今開く!

(評価 74点)

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 あれは忘れもしない1974年も暮れの師走時にさしかかった頃、まだ小学生だった負け犬がとある金曜日の夕刊を開いたときにその衝撃の事件は勃発した。

 そこには、夕刊の1ページ全面に、胸のオッパイも露わにした超絶的にキレイな外人のオネーチャンの写真が!そして、けだるそうに籐椅子に腰かけ、こちらを見つめるそのオネーチャンに被ってデカデカとした文字が。その文字こそ「エマニエル夫人」。

 当時、金曜日の夕刊といえば、翌日からロードショー公開される映画の広告が決まって載っていた。まだ子供だった負け犬は、学校帰りに夕刊を開いて、そうした広告の、近づけばドットすら露わになるような粗いモノクロの写真の断片をみながら、その映画について想像するのが殊の外好きだった。

 だから、夕刊の、それも全面広告に、有り得もしないはずのその広告を見た時の衝撃は計りも知れないものだったのだ。だが、驚きはそれだけでは終わらない、年が明けた1975年、押すな押すなの大盛況で劇場に長蛇の列が続くニュース映像をはじめとし、ありとあらゆるメディアにエマニエル夫人の文字が至る所に出現し始める。それはもう、今で言うところのバズるとでも言えばいいか、しかし、バズるのがネットに限定される現象なのに対し、その当時はどこか世情そのものがこの「エマニエル夫人」の出現という事象に対し騒然としていた気がする。

 その騒然たる空気感を先導していたのは他でもない女性たち。どんな女性でも例外はない、当時はウチのおふくろですら、どこかその映画に対する好奇心で浮足立っていたような気がする。

 だが、日本の映画興行の常識をブチ破るような興行記録を打ち立てたその「エマニエル夫人」。世界初の女性向けポルノと銘打たれたその作品に対する好奇心を誰よりも煽られたのは、当時のガキんちょ連中だったのは言うまでもない。当時、小遣いをはたいて買い始めた「ロードショー」などの雑誌に掲載された妖艶さの中にあどけなさを備えたシルヴィア・クリステルの写真を舐めるように見ながら、まだ、いたいけな股間を抱えつつ、負け犬も本作について想像をめぐらす毎日だった。

 「燃えよドラゴン」、「タワーリング・インフェルノ」や「エクソシスト」、そして「JAWS」の大ヒット、更には角川映画の「犬神家の一族」に至る、今日の映画とメディアがタイアップするパブリシティの先駆けともなった黄金の時代への思い出と共に、かくしてシルヴィア・クリステル姉さんは、我がエロスの女神として永遠に封印されることになった。

 そして、何とそれからン十年の時を経てこの年になって遂にというか、やっとと言うか、その禁断の扉を開け放って本作の御開帳を果たした次第。負け犬の記憶の中でソフトフォーカスに包まれたクリステル姉さんの無修正の股間とは果たして如何なるものだったのか。

 まずはエマニエルの目覚めから。あの有名なけだるいテーマ・ソングに乗って、独特のソフトフォーカスもあいまって、ムードはもうアンニュイそのもの。空港でのフライトについて友人と電話で会話を交わすエマニエル。ここで初めて聞くことになるシルヴィア・クリステルの生の声が意外と幼いことに何故かドキドキする。

 早速、夫のいるタイのバンコクへ向かうエマニエル。スラム街を車で通り抜ける際のカルチャーショックにエマニエルは思わず顔をそむけてしまう。

 とにかく、本作、やはり出色なのが、現地ロケが最大限に生かされたこのバンコクの風景。アジア独特のエキゾチックな空気感と、いかにもファッショナブルなエロティシズムが実にピッタリと作品のテイストにマッチしている。

 豪華な駐在先の自宅に着くや、早速、オールヌードで夫のジャンとセックス。それを覗き見た使用人が興奮して自分の彼女を追いまわして服を剥ぎ取り強引にセックス。否が応でもエロい雰囲気がここらあたりから高まり出す。

 同じく現地駐在の外交官夫人と会話を交わすうち、一人の熟女と意気投合するエマニエル。如何にもレズッ気たっぷりのこの発展家の熟女の友人がエマニエルの性の遍歴のいわばオープンゲートになっていく。

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 そして、若い女の子と知り合い、その子がオナニーする姿を見るうち、バンコクに来るまでの機上で男たちとセックスをした記憶が蘇り、思わず股間に手を伸ばすエマニエル。確か昔、映画雑誌で文字だけで読んで興奮した飛行機内でのセックス・シーン。過激ではないけれど、飛行機のシートとトイレで繰り広げられるこのシーン、エロいことこの上ない。

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 やがて、昔、映画雑誌に載っていた、テニスウェアを着たままのレズシーンの写真そのままに、スカッシュに興じた後、その熟女の姉さんと汗をかいた体のまま、二人が体をまさぐりあうシーンには思わず興奮させられました。

 更にピーと名乗る女性とジャングルで行動を共にするうち、ピーから開放的な性の世界の啓示を受け、より大胆なレズビアン・プレイに及ぶエマニエル。本作は、監督のジュスト・ジャカンが有名なファッション写真家だけだったこともあって、とにかく出てくる女優さんたちの裸身がどれもこれも実に美しい。そして、その美しい女性たちに誘われてのフォトジェニックなレズプレイが多くを占めるのが特徴で、公開当時、女性向けポルノと冠されたのが良く分かる。

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 そして何よりもコケティッシュなエマニエルが、ポルノのお約束とはいえ、実にあっけらからんと何でも受け入れ、アジアの開放的な環境の中、ポンポン脱ぎまくってくれるのが嬉しい。

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 そして、エマニエルの性の遍歴は、竿師?じゃなかった性の導師を名乗る初老の白髪の紳士マリオ(アラン・キューニー)とコンタクトすることで、めくるめく新たなフェーズに突入する。

 夫婦関係は不要だ、男女はモラル抜きで交わるべきだ、とやたら真顔でそんな変なことばかり言うマリオに誘われまず踏み込んだのは、退廃的なアヘン窟、そこでエマニエルはアヘンでハイになった現地の男たちにいきなりレイプまがいに輪姦される。それを黙って見ているマリオ。更には、賭博場へと向かい、エマニエルの眼前で試合をさせ、勝利したキック・ボクサーの選手に、戦利品としてエマニエルの体を差し出すマリオ。ボクサーの男に従順に尻を差し出し、男たちに囲まれ、背後から組み付かれるエマニエル。このシチュエーションのエロいこと。遂には、マリオと現地の男との3Pに及び、いよいよ目覚めるエマニエル。

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 最後は、全ての男たちにカラダを捧げるべく、鏡の前に座り、ルージュを引き、それまでとは打って変わった妖艶そのもののバービー人形ならぬ、完全無欠なセックス・ドールとエマニエルが化した姿でエンド。

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 いやあ~新春にふさわしく筆始めならぬ、積年のエロスの筆おろしとして堪能させてもらいました。とにかく、シルヴィア・クリステルがやはり美しい。それに、改めて見ると本作、作品的にはただのポルノと言ってしまえばおしまいだけど、本作を買い付けて大ヒット作に化けさせた日本ヘラルドの巧みな宣伝戦略の功績が偉大だったのは間違いないとしても、やはりブロック・バスターに化けるだけの、カリスマ的な魅力が作品に備わっていることが良く分かる。

 1975年の公開当時から、エロスのカリスマ、シルヴィア・クリステルと共にその魅力は微塵も色褪せていない。更には、繁華街のガード下に張られていた総天然色の本作のポスターを見てたぎらせていた、あの頃の青々しい発情期がどことなく蘇ってくる気すらする。

 かくして目出度く復活を果たした負け犬の発情期。負け犬の発情期はこれからも終わらない(笑)