負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬もいつの日かきっと「ティファニーで朝食を」

やさぐれたハリガネ女と囲われものの駆け出し作家!負け犬同士のカップルのビタースウィートなラブストーリー

(評価 74点)

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雨の中のキッス!永遠の名曲ムーン・リバーが奏でるアウトローたちのラブ・ロマンス。

 映画は、ファースト・シーンが命とは言うけれど、本作のファースト・シーンほど、キャラクターを雄弁に物語っているファースト・シーンは、そうはない。

 夜が明けたばかりのニューヨークの5番街。人っ子一人いないその通りで止まる一台のイェローキャブ。降り立ったのは一人の女。黒いシックなドレスで身を包んでいるせいで、スレンダーなその肢体がいっそう細身に見える女が見上げるのは、ティファニー宝石店。サングラスをかけたままの女は、そのままティファニーのショーウインドーに近付くと、持っていた紙袋からクロワッサンを取り出して一口齧る。さらに、そのまま輝くばかりのジュエリーが並ぶ、ウィンドーを見ながら、またクロワッサンに手を伸ばす。どうやらこれがこの女のいつも通りのひとりぼっちの朝食らしい。

 この女の名はホリー・ゴライトリー。そして、このホリーがこの世でもっとも好きなものこそ、世界一高価な宝石が並ぶティファニーのジュエリーたちなのだ。

あの「ローマの休日」で、ナイーブ且つ純真無垢な王女のアンを演じていたオードリー・ヘプバーンが、服役中のマフィアと内通するリスキーな情報屋の女ホリーを演ずる本作。あまりのイメージのギャップに、ミスキャストと訝る人もいるかもしれない。現に、スケジュールの都合でキャンセルになりはしたが、当初、ホリーの役はあのマリリン・モンローがキャスティングされるはずだった。マリリンのような肉感的な女性なら、マフィアや金持男たちを何人も手玉に取る謎の女にピッタリかもしれない。

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 しかし、それとはまったく逆の、まるでモンキー・パンチが描くマンガのキャラクターといっていいほど、スレンダーにカリカチュアされたオードリーが演じたおかげで、男に束縛されることを嫌い、他人を寄せ付けない分厚い鎧をまとったようなホリーのキャラクター像が見事に際立った。更には、黒いドレスを着て、グラサンをかけ、デカい真珠の首飾りを身に着け、手には素っ頓狂なバカ長いキセルのようなタバコを持つこのキャラクターのイメージが映画史に残るイメージ・アイコンにまでなったわけだから、本作はまさにキャスティングの勝利ともいえる作品だろう。

 自由奔放に日々を暮らすホリー。そんなホリーのアパートにやって来るのが、自称作家のポール・バージャック(ジョージ・ペパード)。作家とは言いつつ、出版したのは、たったの一冊。ホリーが住むような高級アパートに住めるのも、金持ち女の若いツバメ同然に、生活費を工面してもらっているおかげなのだ。

 ちなみに原作は、あの実録犯罪もののノンフィクションの最高峰「冷血」であまりにも有名なトルーマン・カポーティが初期に書いた都会派小説。小説は未読だが、このポールのキャラクターに、若き日のカポーティがそのまま投影されているのは誰にでも分る。

 ポールは、捉えどころはない、天真爛漫なホリーにたちまち魅了される。まともなカタギ暮しの軌道から外れてしまったもの同士。どこか気が合う二人は、そのうちデートするようになる。

 しかし、男たちを手玉に取り、都会のキャリア・ガールを気取っていたホリーにしても、ド田舎での暮らしに嫌気が差し、獣医の夫を見捨てて、都会に出て来たカントリー・ガールに過ぎなかったことをポールは知ることになる。

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 それでも、ホリーのことをあきらめきれず、二人で出かければ、何処に行ったってやっぱり楽しい。ホリーのお気に入りのスポット、ティファニーに二人で出かけ、スナック菓子のおまけの指輪をイタズラっぽく店員に見せてみる。果ては子供じみた万引きごっこまでしてはしゃぐ二人の姿は、どことなくいたいけだ。

 だが、いっそう思いを募らせるポールになびくこともなく、ホリーは金持ちのブラジル人の玉の輿に乗るのだと大喜び。しかし、ホリーの金づるでもあった収監中のマフィアのドラッグ・スキャンダルに巻き込まれ、ホリーは全てを失う。

 ラスト、それでもまだ他人を拒否し、夢を追い求めるホリーに、ポールは、誰かと束縛し合うことこそ本当の人生の幸福なんだ、と言い放って、二人だけのジュエリーだったオモチャの指輪を投げつけて立去る。その時、自分の身の丈を思い知ったホリーはタクシーを飛び出し、雨の中、ポールを、そしてその直前に、気まぐれに野に放ってしまった飼い猫のキャットを追う。

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 降りしきる雨のせいで、ホリーが、それまで頑なにまとっていた鎧が一枚一枚流れ落ちるようで、このシーンには素直に泣ける。ようやくずぶ濡れのキャットを見つけ、最後は名曲ムーン・リバーと共に雨の中のキッスで終わる。

 今ではどこか、夢見るキャリア・ガールたちの代名詞のようなイメージにもなっている本作におけるホリーのキャラクター像、ティファニーで朝食もいいけど、一番いいのは、お家で誰かと朝食を共にすることなのはいつの時代でも変わりはないのでしょうね~