負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬が最後の最後に逃げ込んだのが女性のアソコだったことを知って驚愕したという件「アフターアワーズ」

小さな不条理が雪だるま式に連鎖し最悪のシチュエーションと化す、トワイライゾーン好きには堪らない不条理映画の大傑作!

(評価 88点) 

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平凡なサラリーマン、ポールが体験する悪夢の一夜。巨匠スコセッシが作り出した不条理世界の結末は、腰を抜かさんばかりの仰天ものだった!

 負け犬の大好物のアイテムというものがある。あのクラシックなTVシリーズ「トワイライトゾーン」に、カフカの「変身」・・。つまり現実と、少し現実とはベクトルがはずれた世界が、危うくクロスオーバーするような不条理世界だ。本作は、「レイジング・ブル」以降、作品をコンスタントに発表しながらも、会心の傑作を生みだせず、長いスランプにあった巨匠マーティン・スコセッシが、インディペンデンスなスモール・スケールのこの映画で、見事な復活を果たした不条理映画の大傑作だ。

 ずっとスコセッシの追いかけを続けていた負け犬が、とある小劇場で本作を見て「スコセッシ イズ バック!」と思わず心の中で快哉を上げて以来、長らくマイフェイバリット中のフェイバリットの一本だった本作だが、今回のお話は、結構、最近になって、そのエンディングにまつわる新たな仰天の事実が発覚し驚愕したという件なのだ。

 とにかくスコセッシならではの、素早いカッティングに、垂直俯瞰、そしてスローモーションといった映像テクニックの引き出しが小気味よく存分に活用される魅力的な本作。

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 ある大企業に勤めるポール(グリフィン・ダン)は今日もオフイスで新人君にパソコンのイロハをレクチャーしながら、飽き足らない毎日に憂鬱な気分。5時の鐘とともに退社し、自宅に帰ってもTVのリモコンをもてあそぶだけ、しかし、夜、フラリとでかけたカフェで、ヘンリー・ミラーの「北海帰線」を読んでいたらマーシーロザンナ・アークェット)という若い女に声をかけられ、そのともだちのアーティスト、キキが作る石膏のオブジェを見せてもらうことに・・・しかし、このなにげない会話が、ポールが体験する悪夢の一夜の幕開けだった。

 本作の発端は、まだ学生だったジョセフ・ミニオンという脚本家がワークショップで書き上げた「LIES」(嘘)という脚本のポップな不条理世界にスコッセッシがすっかり魅了されたことが発端だった。次から次へと陽炎のように入れ替わり立ち替わり現れる人物たちの嘘ともジョークともつかないような言動が、シャッフルし、まったく無関係だと思われた人物たちが巧みにリンクするこの脚本。しかし、撮影が始まっても、スコセッシ自身にも、唯一そのエンディングのオチだけが納得できなかった。

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 深夜、ソーホーにあるキキのアトリエにタクシーで向かうポール。しかし、やたらとすっ飛ばすタクシーの運ちゃんのおかげで、なけなしの20ドル紙幣を風でとばされ、一文無しでたどりついたアトリエには、ムンク「叫び」の絵に出てくるような奇怪なオブジェがあった。

 そこから、まるで尻取りのように巧みにシチュエーションが連鎖して巧妙に作り上げられていく、たった一夜の不条理世界の見事さには、誰もが舌を巻くに違いない。

 グロテスクな火傷の傷跡に、オズの魔法使い。深夜のダイナーに、奇怪な石膏のオブジェ。この魅惑的な不条理世界を構築するのがそうしたアイテムなのだ。やがて、そうしたアイテムが渦を巻いて平凡なサラリーマンのポールを極限なまでに追い込み、ポールはまさにあのカフカの小説世界の主人公のように夜の街を逃げ惑うことになる。

 強盗と間違われ、住民たちで結成された自警団に追い詰められていくポール。そして、そのポールが最後に辿り着いた先とは・・・。長年、愛し続けた本作だが、最近になってスコセッシのフィルモグラフィの書籍を読んでいたら、本作に、完成作とはまったく異なる、とんでもないもう一つのエンディングがあったことが分かり仰天した。

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 いよいよ追い詰められたポールは、一度、立ち寄り、イタズラにモヒカン刈りにされかけたナイトクラブに再び舞い戻ってくる。そこで出会ったのが中年女のジューン(ヴエルナ・ブルーム)。

 さて、このとんでもないエンディング。これを採録風に記すとこうなる・・・

 クラブにまで押しかけて来た自警団たちが、雪崩のようにポールとジューンのいる地下にも迫って来る。ポールが自警団にリンチされる運命がいよいよ間近に迫った時、ジューンがポールに向かってこう言う。

 「女には隠れ場所があるものよ。あなたその腕時計は防水?そうじゃないなら、はずした方がいいわよ」

 するとジューンは寝そべって、おもむろに股を開き、ポールに向かって言う。

「さあ、いらっしゃい!」

 そして、ポールはジューンのまたぐらのアソコ、つまり女性の秘所に向かってその身を沈めていく。やがて、その穴に入り込んだポールは意識を失う。暗転後、生まれたままの素っ裸のポールが夜明けの大通りに寝そべっている。目を覚ますポール。そして、叫び声をあげながら走っていくポールの姿でエンドマーク、と、実に製作段階では、まさにこういう具合のエンディングで半ば決まっていたらしい。

 ところが、このエンディングを知った製作会社のゲフィン・カンパニーの重役が、これだけはやめてくれ、とスコセッシに懇願する。

 かくして袋小路に追い込まれたスコセッシは、再び悩みに悩むことになる。いよいよ悩んだ挙句、スコセッシは、あのテリー・ギリアムスピルバーグにも本作のラッシュを見せては意見を聞いた。そして、到達した結論が、今、現存する実にシンプルな結末だった。

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 結局、辿り着いた結末というのが、この不条理な世界観をシンボリックにこれ以上は表現し得ないような円環手法の結末だったというのは、本作を見た人なら誰もが納得するはず。

 しかし、それにしても主人公が、女性器に逃げ込むという、この信じがたいような結末だが、本作のDVDの特典では、その絵コンテを見ることが出来る、それを見てまさしくその結末の構想が事実だったことを知り、またまた仰天してしまった。あの大巨匠のスコセッシが完全復活を遂げた記念すべき本作、これからも見続けるはずだけど、いささかなまめかしいモゾモゾとした気分になってしまうのは、この負け犬だけでしょうか?