負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の合言葉はアナーキー!黒メガネの兄弟が地球を救う「ブルースブラザーズ」

黒メガネの兄弟の方向性無視の徹底した破壊と爆発するパワー。それにイカすソウルフルなナンバーが加わればこの兄弟の向かうところ敵など無し!

(評価 88点)

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パワフルで破天荒そのものの唯一無二なミュージカル。二度と実現不可能なバイタリティは生命の躍動そのものなのだ。

 R&Bが大好きなジョン・ランディス、それに車が三度のメシより好きだったダン・エイクロイドが、たまたま書いた脚本に、あの怪人ジョン・ベルーシが加わって誕生したとてつもないミュージカル。おそらくこれはミュージカルやアクションなどという偏狭なジャンルでは決して括ることなど出来ない、まさしく「ブルースブラザーズ」という唯一にして無二なジャンルなのだ。

 黒メガネにソフト帽、今や映画史にくっきりと定着した感のあるこのブルースブラザーズのシルエット。元々、その誕生は本国のバラエティ番組「サタデーナイトライブ」だったのは有名な話。いわばその成り立ち自体一つのジョークでもあった。そしてそのジョークそのものをべらぼうな製作費をつぎ込んで具現化してやろうとしたのが若き異才ジョン・ランディスだ。

 実際、本作でもっとも素晴らしいのは、口をあんぐり開けて見てしまう度を越した破壊シーンの数々に何の意味などないところ。まったく無意味な破壊をここまで贅沢に描いてしまうクレージーさにはどこか感動すら覚えてしまう。

 刑務所から出所する兄貴のジェイク(ジョン・ベルーシ)を車で迎えに来たエルウッド(ダン・エイクロイド)。ブルースブラザーズバンドの「She Caught the Katy」に乗って二人が車で向かうのは、二人が育った懐かしの孤児院。しかし、ホームカミングは甘いものではなく、孤児院は破産寸前で取り壊しも間際、さらに立派なヤクザ者になった二人を見て、激怒した魔女っぽい院長に追い出される始末。汚名を挽回するには、孤児院が支払えない税金を立て替えて、孤児院とそこにいる子供たちを救うことしかない。その後、立ち寄った教会で、ジェイクのもたらされた神の啓示とは、バンドを結成すること。

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 かくして始まるメンバー探し。そして、その過程で繰り出されるのがアレサ・フランクリンをはじめとする超一流アーティストたちのソウル・ナンバーとくれば文句など何も無い。特にメンバーのマットを迎えに行ったカフェで、アレサ・フランクリンの歌う「Think」に乗って、歌い踊るシーンの実に楽しいこと。更には、バンドで使う楽器を捜しに立ち寄ったメンバーたちが、楽器屋の主人に扮した、大御所レイ・チャールズの「Shake a Tail Feather」と共に歌いダンスするシーンが素晴らしい。店の中から流れ出す音楽で、街の人々が繰り出して集団でダンスする、その圧倒的な躍動感。

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 やがて、成り行き任せで、バンド演奏の旅に繰り出した一行が、とあるカントリーバーの契約バンドと偽って、押しかけで演奏してしまうくだりが、これまた楽しい。カントリーしか受け付けない客たちに、アドリブで演奏するのがTVの「ロー・ハイド」のテーマ曲。これがバカ受けし、悪ノリして演奏するが、長居したことが災いし、ニセ・バンドであることがバレてしまい、本物のバンド・メンバーたちに、追われる羽目になる。

 こうしてブルース・ブラザーズたちは行く先々で、山のように敵を作り、クライマックスの大団円に向かっていくのだ。

 圧巻は、ようやく迎えたコンサートでの兄弟二人による「Everybody Needs Somebody to Love」の歌唱シーンでの会場総立ちになってのエキサイティングなシーン。ここで、二人が舞台に初登場した時、会場の観客全員がドン引きして水を打ったように静まり返っている。しかし、二人が歌い出すや、しだいに会場も盛り上がって、遂には全員総立ちになって大合唱に至るこの高揚感の何と素晴らしいこと。

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 そして、エンディングに至る大団円のクライマックスは、二人が乗った車を猛追するパトカー軍団のスクラップが山となって築かれる、とにかくバカバカしい破壊に次ぐ破壊。おまけに戦車まで登場するスラップスティックな描写の中、滑り込みセーフで無事に兄弟は税金を支払ってお縄となる。そして、正真正銘のエンディングはブルース・ブラザーズ・バンドによるプレスリーの「監獄ロック」だから、もうこれを見た後の気分はいつでもゴキゲンそのもの。

 ちなみに、本作の公開当時、本作の一番いいところでもある、方向性無視の無意味さに、やはり辛口の評価が多かった。でも、ただ一人、手放しで本作を絶賛していたのが「月曜ロードショー」の解説でお馴染みの荻昌弘さん。時代を先取りしていたようなこの傑作のパワーの素晴らしさを同氏が興奮しつつ絶賛していたのを今でも覚えている。

 黒メガネの兄弟のこのシルエットは、今後も映画の世界で永遠不滅のアイコンとして輝き続けることでしょう。