負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の宇宙空間の頭脳戦「眼下の敵」

駆逐艦と潜水艦の一騎打ち、海上と水面下の両雄の頭脳戦は、宇宙での戦いの序章だった!(評価 74点)

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戦場での戦いは兵士たちの戦いでもあるのと同時に、それを指揮する指揮官同士の叡智を尽くした頭脳戦でもある。アスリートたちが戦士であるのと同様、戦争はいわば、そのアスリートの戦士たちを率いるチームリーダーが激闘するスポーツのバトルにも似ている。

 大阪生まれではないものの、この負け犬は、性根がすっかり浪速カラーに染まった関西人。その関西のTVのキー局の深夜帯で、あきれるくらいに繰り返し再放送され続けた番組があった。終わってもまたリフレインされて再放送が始まる、そのプログラムへの偏執的なこだわりようは、一部の関西人の間では、きっとTV局に、そのプログラムのマニアがいるに違いないと噂されるほどだった。

 その番組の名は「宇宙大作戦」。そう今では「スタートレック」として完全にフランチャイズと化して世界中にネットワークが出来上がっている、伝説のSF長寿シリーズのオリジンである。かくいうこの負け犬も恥ずかしながら、ファンのカテゴリーでいえば「スターウォーズ」よりは「スタートレック」。というより、あくまでもこの「宇宙大作戦」派で、このオリジンのシリーズに関しては、世にいう熱狂的なファンに属するトレッキーと言ってもいいほどの完全なミーハーだった(今でも負け犬のデスクの上には、F―Toyの初代エンタープライズのミニサイズのフィギュアがちゃんと飾ってある)。

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 数ある名作エピソードを多数擁する本シリーズだが、中でも屈指といわれる一品がある。敵対するロミュラン帝国のバトル・クルーザー、バード・オブ・プレイとカーク船長率いるエンタープライズが一騎打ちを繰り広げるエピソードだ。このエピソードでエンタープライズが対するクルーザーには、光のプリズムを利用した遮断装置、つまり透明化できる装置が備わっている。そのためエンタープライズは見えざる敵と戦うことになる。

 海上にいる船にとって、見えざる敵といえば、水面下を航行する潜水艦だ。お察しの通り、その宇宙大作戦のエピソードのいわば原形素材、モールドともなったのがこの映画「眼下の敵」だとトレッキーの間では長らく伝えられてきた。それもあって、長年興味があった本作を今回、ようやく見たのです。

 大西洋を航行中のバックレイ級護衛駆逐艦が遭遇したのは、ドイツ軍のIX型のUボート。かくしてバックレイを率いる艦長マレル(ロバート・ミッチャム)とシュトルベルク(クルト・ユルゲンス)が艦長の潜水艦との一対一の対決の火蓋が切って落とされる。

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 スタートレックエンタープライズ然り、本作の駆逐艦と潜水艦の決闘然り、指揮官がクルーを率いて動かず大型のこうしたビークル同士が戦うのに、そもそも人間がこんなにもワクワクさせられるのは何故なのか。おそらくお互いのビークルの中で、繰り広げられる人間同士の葛藤やドラマが同時進行する醍醐味があるからに違いないと思うのだが、どうなのでしょう。

 本作でも、艦長のマレルは新任して間がなく、最初はクルーたちから見くびられているという伏線が張られている。しかし、Uボートと遭遇するや、いち早く敵の次の一手を読んで、絶妙のタイミングで舵を切らせ、魚雷を回避することでクルーの信望を一気に得る。敵側のシュトルベルクも、ただのナチとは描かれない。ドイツ軍でありながらヒトラーを毛嫌いし、怯えてパニックに陥ったクルーには、厳格でありながらも優しく接してみせる。そんな二人が、将棋の一手を読み合うように、頭脳プレイを続けるうち、姿の見えないもの同士で友情が芽生えて行く王道の展開が心地いい。

 バックレイの絶え間ない機雷攻撃の前に、圧倒的な不利に甘んじていたシュトルベルクの最後の一手の魚雷の波状攻撃をくらい、バックレイも大破。浮上したUボートとバックレイの苛烈なラストバトルに、さすがのシュトルベルクも遂に降伏する。

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 現実の戦争は悲惨そのものだが、スペクタクルとゲーム性にベクトルを振った名作「大脱走」のように、本作における戦争は、あえてスポーツ的な側面にスポットを絞っている。それこそが、最後、ようやく本人と対面することになったマレルが、シュトルベルクにタバコを差し出し、煙をくゆらせるエンディングでカタルシスすら感じられる本作は、いわば「大脱走」のようなエンタメ系戦争映画の佳作といわれるゆえんなのだ。

 かえすがえすは、やっぱり「宇宙大作戦」。この「眼下の敵」で受け継がれた遺伝子は、二十数年後に劇場映画化された「スタートレックⅡカーンの逆襲」で、宇宙連邦の巡洋艦デファイアントを乗っ取ったカーンとカークのエンタープライズが相まみえる、宇宙連邦の巡洋艦同士が、チェスのゲームのような駆け引きを繰り広げる子供心をくすぐる興奮のシーンに再び結実することになるのだ(本作のUボートが最後に自爆攻撃を仕掛けるくだりが、この「カーンの逆襲」で自爆するデファイアントにそっくり引き継がれている)。

 しかし、いくつになってもあの「宇宙大作戦」はいいものです。「宇宙、そこは人類最後のフロンティア・・」のあの「宇宙大作戦」のナレーションを聞くとすっかり年を取ってしまった今でも体がジーンとしてくる負け犬なのですよね~