負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のエリートたちへのいやがらせ「キラー・エリート」

これは、負け犬監督が、映画会社への当てつけに嫌がらせ目的で作った映画とでも言えばいいのだろうか?

(評価 40点)

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シリアスな出だしから、ド派手な破壊工作。そして、裏切りのエスピオナージ。しかし、戦う相手は何故かニンジャ?サム・ペキンパーの薄ら笑いが聞こえるような奇怪な作品。

 2020年は記念すべき年だった。NASAではなく民間の航空会社スペースXの宇宙ロケットが国際宇宙ステーションとのドッキングを果し、オフィシャルではなく,プライベートの分野の人間たちが宇宙に乗り出した宇宙元年とでも言うべき年だったのだ。その宇宙船の名はクルー・ドラゴン。

 宇宙開拓のパイオニアに民間があるなら、諜報機関にもCIAだけでなく民間の機関があっても何も不思議はない。というわけで本作は、その民間の諜報機関の存在を意味深に匂わすインタビューのキャプションが表示されるシリアスなタッチで幕を開ける。そして、物々しく表示される監督のクレジット名は、あのバイオレンスの巨匠サム・ペキンパー

 ヒット作も少なく、トラブルメーカーとされながらも、そのネームバリューがプロデユーサーに重宝される監督というものはいるもので、サム・ペキンパーは、そんな監督の一人だったといえる。とにかくペキンパーは何かと話題になった作品の監督候補に名を連ねることが多かったのだ。一番、有名なのは、最終的にリチャード・ドナーが監督したあの「スーパーマン」。実はあの監督候補にもペキンパーの名が挙がっていた。

 本作が製作された1975年といえば、大成功した「ゲッタウェイ」以降、ペキンパーが停滞期にあった頃、諜報機関が暗躍するアクションものということで、そのネームバリュー目当てにペキンパーに白羽の矢が立ったのは何となく推察出来る。

 しかし、本作を見る限り、とてもペキンパーがこの企画に乗り気になって作っているとは到底思えない代物なのだ。

 出だしは、コムテグなる、どうやら民間の対テロ組織のような面々によるド派手なビル爆破の破壊工作で始まって、映画のテイストはいたってポジティブなのだ。ところが、その後の肝心の主役のマイク(ジェームズ・カーン)とハンセン(ロバート・デュバル)の会話の調子からして何かがオカしい。直後、女たちがオッパイ丸出しのハーレムのようなクラブで二人がくつろぐ描写の後、次のミッションへと向かうが、その車の中で延々と下ネタで盛り上がるマイクとハンセンの会話が続く。だが、その時のバカ笑いがあまりにも過剰で、二人とも何かへの当てつけのように異様なほどに笑うのだ。

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 目的地に着くとハンセンの裏切りで重傷を負ったマイクがリハビリし、ハンセンへの復讐も兼ねた次なるミッションとなるが、そこで出てくるのが、いかにも場違いなカラテ。これを見ると誰でもピンとくるだろう。75年といえば、前年の「燃えよドラゴン」の影響で世界中に、我こそが次代のブルース・リーとばかりに雨後のタケノコが如く似非ドラゴンたちが、ウジャウジャと溢れ出していた年でもある。この点、プロデューサーが製作サイドに入れ知恵を働かせたと感じるのはこの負け犬だけではないはずだ。ところが、シリアスな導入部とは、まるで場違いなこのトーンの変化はただの序章に過ぎず、クライマックスで襲ってくる敵は何と忍者なのだ。パロディにも何にもなっていない、この取り合わせに、誰もが抱くのが、明らかなやる気のなさとやっつけ感だ。クライマックスの舞台の艦船の甲板上で、夜店の露店の射的のように、ただ撃たれるだけのために襲ってくる忍者たち。もんどり打って忍者が海へと落ちて行く、その瞬間だけペキンパーのトレードマークのスローモーションが顔見世程度に使われる。

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 何だか、プロデューサーに色目を使って、お義理でスローモーション使っておこう、みたいなこのいい加減さ!だが、監督は仮にもあの巨匠ペキンパー。ペキンパーほどの監督が、こんなやっつけ仕事やってもいいのだろうか?とすれば思い起こすのは、冒頭のあのマイクとハンセンのバカ笑い。デビュー当時から映画会社と対立し続けて来た破滅的な性格のペキンパーが、いよいよすべてに幻滅し、ハリウッドも、それを牛耳るエグゼクティブのエリートたちをもバカにして笑い飛ばす、これはいわば当てつけ映画とも言えないだろうか。

 一途に作った結果。ポンコツになってしまった映画には愛着が湧くけれど、初めからやる気がなくて、意図して作ったポンコツ映画に愛着なんて湧きようがないですもんね~