負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第十六話「月夜に吼えた遠州路」 初回放送日1972年5月13日

敵は仮面ライダーのキバ男爵!

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天竜一家の親分殺しの濡れ衣を着せられているとも知らず、その親分の仇を探す三代目の源八を助ける紋次郎。折しも天竜一家の代貸の伊兵衛と仁太、清吉との間では四代目をめぐる確執が渦を巻いていた。そして紋次郎は、自分の命を狙う源八もろとも骨肉の争いの渦中へと巻き込まれていく>

 

 日活、東映大映、日本映画の屋台骨を支えた多彩な顔ぶれが、スタッフ、キャストを問わず本シリーズを盛り上げてくれた。本作では、天竜一家の代貸の木原の仁太役に悪役俳優として名を馳せ、あの仮面ライダーのキバ男爵も演じてくれたた郷英治が扮し、ラストのクライマックスの大立回りでは堂々、紋次郎との一騎打ちも披露してくれている。

 本作も原作は紋次郎とは異なる小仏の新三郎を主人公とする別原作をアレンジ、原作とはまったく異なる話に作り替えられた。

 冒頭、自らを大井の利助と名乗る源八を助けた後で、天竜一家の親分殺しの顛末を紋次郎が聞かされる海べりの風景は遠州灘という設定だが、撮影は琵琶湖湖畔で行われた。地蔵峠比叡山にせよ本シリーズは大映京都とのゆかりもあって関西各所でロケが行われている。

 また本作では、いつものナレーションによって直系の「手作り」や「譲り」「世話内」といった一家における子分の身分の違いについてこと細かく説明が成され当時の跡目相続の争いの内幕にリアルな肉付けが施されているのは注目に値する。

 しかし、本作における見所は何といってもクライマックスの川べりにおける戦闘シーン。設定では天竜一家40人余り、そこで紋次郎は川の深みに入って肩まで水に浸かって相手と闘う。相手も身動き取れないが、突きや強靭な腕力を駆使して戦う戦法だ。だが、ご存知の通り紋次郎の道中合羽は三度笠同様一回りサイズが大きい。撮影語録によれば、水を吸った道中合羽の重量は尋常なものではなく、実際の撮影は地獄の責め苦だったとも。

 そしてゲリラ戦法その二は、使えるものは何でも使う、三代目源八の女房お春の帯を拝借しての帯投げ。空中をヒュルりと飛んだ帯を清吉の首に巻き付かせ見事に仕留めてみせるのだ。

 ところで本作、実はタイトルに月夜と銘打ちながら、月夜そのものが出てこないというレアな作品でもある。

 何にせよ本作は、大映時代に活躍した監督の太田昭和による闘争シーンをたっぷりと見せてくれる佳作には違いない。