負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第二話「地蔵峠の雨に消える」 初回放送日1972年1月8日

土砂降りの中、己の義理がけのために死闘する姿が70年代そのものだった

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<道中、紋次郎は、腹痛で苦しむ十太と名乗る渡世人を助け、宿まで運ぶ。しかし、十太の容態が急変、末期にしたためた手紙を十太の妻のお千代と地蔵峠にいる兄貴分、利三郎に届けてくれと頼まれる。十太を看取った紋次郎はその約束を果すため地蔵峠へと向かうのだが、実はその手紙には・・・>

 

全シリーズを通じての最高傑作ではなかろうか。冒頭のシーンからして出色。若気の至りからか、一宿一飯の恩義を負わないはずの紋次郎が、そのつまらない義理がけのために同業の男を殺めるシーン。それに続いて傷つき横たわる紋次郎が吹き放った楊枝が壁にとまった蛾を射抜き、あのタイトルバックとなるオープニングは何度見ても素晴らしい。

この二作目、実は本来なら初回放送の第一話のはずだった。内容が陰惨に過ぎるということで、一話目の「川留め~」と差し替えられたというが、まあお正月ということもあったのでしょうか、それに明るさ第一主義のフジテレビという事情もあったのかも。今、思えば、紋次郎のエッセンスが凝縮されたこのエピソードの方こそが初回にふさわしかったような気もする。現に崑監督他も当初はこの作品を第一回と想定していた。

本編中、もっとも印象的なのは、紋次郎がお千代に、明日も昨日もない風来坊の自分に十太が目的というものを与えてくれた、と独白するシーン。このしみじみとした紋次郎の語りでまず心を奪われた人も多いはず。

そして、紋次郎に一夜の宿を提供し、いかにも好人物そうだった善助の正体が、利三郎を手引きする黒幕であることが明かされる。その善助が紋次郎に向かい

「わざわざ殺されに来た愚か者だったのよ!」と吐き捨てるように言う。それに応え

「愚か者はあっしだけじゃなかったようですぜ」と切ってみせる紋次郎の静かな啖呵がシビれる。

 そして、この後、いよいよあの伝説の地蔵峠でのクライマックス・シーンとなるのだ。

今でもハッキリ言える。おそらくこのシーンを見ることがなければ、自分がここまで本作にのめりこむことはなかったに違いない。それほどまでに今でも語り継がれる名シーン。

自分がハートを撃ち抜かれてしまったのは、まぎれもなくその映像。土砂降りの中、紋次郎が7,8人を相手に立ち回るそのシーン、ここでは何とそれが望遠レンズによるワンカットで描かれる。今見てもそのセンスと超絶的なまでの美しさにはただただ圧倒される。

 ちなみにこのシーンのロケ地は比叡山だった。バスで何時間もかかるその現場に消防車を待機させ水をまいての撮影だった。ところが肝心の天気が晴れ晴れとした晴天続き、スタッフは毎日、曇天待ちをさせられたという。中村敦夫もさすがにヒマを持て余し、竿を手作りし、現地の子供たちと釣りにこうじてはヒマをつぶしていたらしい。また、この回を初回放送だと思い込んでいた美術担当の西岡義信氏も経費の大半をこの作品につぎ込んでしまったとのこと、なるほどとうなずけるほど全てにおいて完成度の高い一作となっている。

ラスト、雨で煙る地蔵峠をゆっくり下って行く紋次郎のロングショット。紋次郎はこれから何処へいくだろうか・・と子供ながらもそこはかとない憂愁に見るたび何度も誘われた。確実なのは自分の胸の中に紋次郎がずっとこれからも住み続けるはずだという確信だった。