負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

木枯し紋次郎 第一話「川留めの水は濁った」 初回放送日1972年1月1日

思えば70年代というのは負け犬天国だった

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<大雨が降り続く宿場町。ある賭場で50両もの大金をせしめた若者。その若者茂兵衛の後を代貸の佐太郎が追う。佐太郎の子分に襲撃された茂兵衛を救ったのは、賭場にも居合わせた紋次郎だった。しかし、紋次郎は、茂兵衛が実の姉の壺振りのお勝とイカサマで大金をせしめたことを見抜いていた。お勝と合流した茂兵衛に佐太郎の追手が迫る。そして紋次郎はお勝に、死に別れた最愛の姉の面影を見るのだが、お勝と話すうち、佐太郎こそが姉を死に追いやった当人であることが分り・・>

イージー・ライダー」「真夜中のカウボーイ」といったニューシネマで幕を開けた70年代、それは社会の底辺にいる者たちが道半ばで傷つき、さすらい、やがて息絶える慟哭の時代だったのかもしれない。

 そして、そんな時代の息吹が身を切るような北風となって吹きすさぶ1972年1月1日、土曜の午後10時30分。その中途半端な時間帯に、誰もが度肝を抜かれることになる、とあるTV時代劇が誕生する。

 それが「木枯し紋次郎」だった。そのタイトルバックを子供自分に初めて見た時のカッコ良さ、そしてシビレるような感覚は今でも鮮烈に体の中に染みついている。イヤ、今でもオープニングのイントロ(上條恒彦が歌うあの『誰かが風の中で』)を聞くだけで鳥肌をもよおすほどだから、鮮烈を通り越して、ある意味トラウマなのかもしれない。

 このデジタルな時代、こんな番組がTVで放送されていたという事実を知る人もめっきり少なくなってしまったのではなかろうか。

 かくして(何度も繰り返すが)土曜の午後10時30分という時間帯のゆえ、まだほんのガキだった自分は親に泣きついたりなだめたりしながらの闘争の末、運が良い時は、かじりつくように(運が悪い時はオープニングのチョイ見だけで寝床に強制リタイアさせられながら)見ていたものだった。

 その内容自体は、今のTVの明朗快活な世界とはまるで違う、それどころか、それまでの勧善懲悪的な時代劇ともまるで異質な土着的な土の匂いの中、皆が貧しく、貧しさ故に殺し合う陰湿を絵に描いたような世界の中を黙々と紋次郎が歩み続けるといった体のものだった。

 しかし、その空気感がニューシネマの時代感とまるで示し合わせたようにピッタリとマッチ、尚且つ見事に日本国民のハートをも捉え、このボロボロの道中合羽を着た薄汚い紋次郎は、またたくまに30%以上もの高視聴率を叩き出す怪物番組にのし上がる。今思えば冗談のような信じられない話だが、リアルタイムで見た自分がハートを鷲掴みにされたのもまた確かだった。

 とにかく映像のカッコ良さ、そして今でも伝説の、それまでの時代劇のチャンバラなどとはまるで異なる肉弾戦のような格闘シーンのリアリティにシビレまくっていた。

 だが、そもそもこの番組のクオリティーコントロールの最大の功労者は日本映画界屈指の巨匠、市川崑監督だった。崑監督はそれまでの股旅もののジャンルの既成感をブチ壊したくて仕方がなかったのだ。それが一気に爆発したのが本作だった。後に監督は劇場映画「股旅」でも、それを見事に開花させてみせる。

 そして主演の中村敦夫は今でもカリスマの威光のオーラをまとう国民的な俳優となった。UPしたのは伝説ともなったその初回の第一話の画像です。資料によればタイトルバックにほんの一秒だけ映る竹林を紋次郎が駆け抜けるシーンのために、中村敦夫は何か月もの間、竹林に連れて行かれ走らされたとか。信じられるだろうか、このモノ作りにかけるエネルギーを。(実際、番組開始早々、スポンサーの映画会社だった大映が倒産。スタッフの人たちは苦難と逆風の中で製作に打ち込んだ)

 すっかり全てがデジタル化された現在、便利になったことも多い。しかし、確実に失ったものも多い。70年代当時のヒーローたちはマンガにせよ映画にせよTVにせよ、皆、汚かった。でも何の虚飾もないギリギリの存在感をスクリーンやブラウン管から我々に照射してくれていたように思う。その存在感に何の嘘も偽りもなかった。

 そんな泥だらけの野良犬たちに感化され続けた末路が、今の自分かも・・と思えばゾっとしなくもないが、今一度、イヤいつでも心のどこかで振り返って見たくなる時代なんだよなあ・・ちなみに本作、当初の想定では第一話ではなく第二話となるはずだった。ところが如何せん、お正月という、今からすれば常識外れの放送日だったこともあり、またお勝を演ずる小川真由美の明るい演技もあり、急遽、こちらに差し替えられた。

 でも、まあ今から見れば、小川真由美のその化粧がお正月にふさわしいほどにぎやかにケバかったという印象だけなのですが・・