負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬も泣いた稲妻男と韋駄天小僧のバラード「サンダーボルト」

ポンコツ・ギャングたちのペーソスに泣ける!セブンティーズの息吹が炸裂するアクション・ロードムービーの傑作!

(評価 80点) 

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伝説のギャングと韋駄天小僧の熱き友情。間の抜けたギャングたちのペーソスにも泣けるロードムービーの傑作。

 あの「ダーティハリー2」の脚本で、イーストウッドに瞠目されたマイケル・チミノが、一躍、自身のオリジナル脚本での監督に大抜擢された見事なデビュー作。

 まずオープニングが素晴らしい。見渡す限りの広大な畑にポツンと建つ教会のロング・ショット。そこに一台の車がゆっくりとやって来る。車から降りた男が見上げた教会の中からは讃美歌が聞こえている。教壇に立ち、説教を信者に訓示しているのは、いかにも胡散臭い成りの牧師。この牧師がイーストウッドなのだ。そして、ふと見ると先程の男が銃を構えている。咄嗟にイーストウッドが飛びのくや、いきなり男はイーストウッド目掛け銃を乱射し始める。慌てて逃げるイーストウッドをどこまでも追う男、そこへ中古車屋で盗んだばかりのファイアーバードをすっ飛ばしてきたライトフット(ジェフ・ブリッジス)がやって来るや、イーストウッドは猛然とその車に飛び乗って走り去る。そのシーンにポール・ウィリアムズが歌うバラード調のイカすテーマ曲が流れ・・。ここまで約10分。ここだけで、まるで一本の映画を見たかのような導入部のシークェンスにマイケル・チミノの才能と感性が見事に凝縮されている。

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 チミノが作りたかったもの。それは、アメリカ映画お得意のギャングものと当時、全盛を極めていたニュー・シネマチックなロードムービーの融和に違いない。

 ひょんなことから旅を続けることになるこの二人。イーストウッドは実は、金庫の壁をキャノン砲で吹き飛ばす手洗い手口で有名な、サンダーボルトの異名を持つ伝説の銀行強盗。そのサンダーボルトがそもそも冒頭で狙われたのも、過去に犯した強盗で得た莫大な金を、ある場所に隠したことで昔の仲間に追われていたから。

 追ってくるのがレッド(ジョージ・ケネディ)とエディ(ジェフリー・ルイス)のポンコツ・コンビのギャングたち。

 ガソリン・スタンドでの中年夫婦との掛け合い、モーテルでの娼婦まがいの女の子たちとのエピソードなど、笑いを交え、サンダーボルトとライトフットが友情を深めていくのを描くのがチミノは実に上手い。たまたまヒッチハイクした男がプッツン気味の田舎男で、何故か車のトランクを開けるとウサギが満載されていたりするシーンには笑える。

 とにかくやたらと手荒で暴力的なレッドをパンチでねじ伏せ、一時休戦に持ち込んだサンダーボルトは、かつての銀行をまた襲撃することを提案する。

 かくして、再びの銀行強盗のヤマに臨むギャングたちだったが、何と言っても必要なのは軍資金、というわけで、このポンコツ・ギャングたちが励むことになるのが、なんとアルバイト!

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 鉄工所の作業員に清掃員、そしてアイスクリーム屋に至るまで。強盗の資金集めに、アルバイトをするギャングたち、こんなにイカして笑えるギャングたちは、本作の後にも先にも見たことがない。とにかく、ブツクサいいながら、アイスクリーム屋の車に乗ってバイトするメンバーの一人、エディの姿は、何はなくとも感涙もの。

 かくして、伝家の宝刀の20mmキャノン砲をめでたく手に入れた一行は、最後の銀行強盗の大舞台に挑むことになる。しかし、こんなポンコツな奴らが、上手く、やりおおせるわけもなく・・。

 という具合に、その顛末は、如何にもなノワール的な破滅的な展開となるが、何とか逃げおおせたサンダーボルトとライトフットたちが辿り着いたのは、かつて金を隠した例の場所、古びた学校だった。

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 そして、迎える本作のエンディングには、紛れもなくセブンティーズのスピリッツが横溢している。あくまでも無様に、そしてみじめに死んでいくライトフットを看取ってやるサンダーボルトの姿には、あの「真夜中のカーボーイ」のラストで、ラッツォを看取るジョーの姿がダブッている。

 ザラついたニュー・シネマの空気感、ギャング・アクション。そして男同士の友情。それらが混然一体として、ちゃんと一つのエンターティメントとして成立している稀有なる傑作だ。

 ロング・ショットの効果的な使い方。巧みなテンポ。そしてキャラクターの描き分けなど、これがデビュー作とは思えないほどの技量の冴えを見せたマイケル・チミノは、この後、監督として「ディア・ハンター」で天国を、そしてタイトルとは裏腹に「天国の門」で、皮肉にも自業自得の地獄を見ることになる。

 イーストウッドの作品群では、比較的目立たないポジションの本作、だからといって見逃しておくには、あまりにも勿体ない傑作なのです。