負け犬的映画偏愛録

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負け犬は宙ぶらりん「アイガーサンクション」

名匠もたまには下手を打つ!ガラの悪い007が登山するだけの変てこりんなスパイ映画

(評価 60点)

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スパイ映画か山岳映画か?カテゴライズしずらいのが一番の難点か。

 難攻不落のアイガー北壁で、裏切り者を抹殺せよ!登山の名手の諜報員が非情なミッションに挑む!と書けばいかにも面白そうには聞こえるが、名匠イーストウッドのフィルモグラフィでも凡作と言ってもいい残念作。

 出だしは、ロンドン。一人の諜報員が殺害されてマイクロフィルムが盗まれる。すると場面は大学に変わって、そこで美術史の教鞭を取っているのがヘムロックのイーストウッド

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 そう、今回のイーストウッドはインディジョーンズばりの大学教授の顔を持つ諜報員なのだ、というわけでイントロから本作はまさにスパイ映画。

 本作の原作の覆面作家として名高かったトレヴェニアンは、本職が大学の先生。多彩な作風を使い分けた作家だけあって、本作もスパイもののセルフパロディのような一面を持っている。だから、ヘムロックにミッションを下すボスのドラゴンも、まるで007のプロフェルドそのもののルックスをしている。

 ところが、本作は、スパイ映画にあってしかるべきアクションやテンポが物足らない。そもそも主役のスパイのヘムロックはリタイアを決め込んでいる。だから、まるで仕事に乗り気がないという設定で、ボスのドラゴンに対しても、ダーティハリーばりにやたらとガラが悪いのだ。

 そこでドラゴンは、ヘムロックが趣味で収集している世界の名画の鑑定書をエサに何とか口説き落としてヘムロックをその気にさせる。

 本作の目玉は、ご存知の通り、絶壁のアイガー踏破なのは、分かっている。しかし、その肝心のクライマックスは128分のランニングタイムのうち、20分ほど。本作は、その目玉の山岳シーンになるまでが、やたらと長い。

 ヘムロックは、堅物のイーストウッドには似合わず、ボンド同様、結構な女好き。序盤の大学で教える教え子の女の子から、飛行機では黒人のスチュワーデスのお姉ちゃんから、何から色々寄って来る。映画はと言えば、そんなお姉ちゃんとのシーンがやたらと続く。

 中盤、何故か目指す裏切り者のスパイが、登山が趣味で、アイガー登頂のパーティに紛れていることを知り、ヘムロックが、トレーニングを開始し、登山を目指すというのも、いくら原作がそうなっているとはいえ、展開の必然性が希薄なのは確か。

 しかし、お待ちかねの山岳シーンは、釘付けものの凄みがある。スタンドインではない、イーストウッド本人が、絶壁に実際、アタックしているショットの数々には確かに驚嘆する。だが、折角の迫真の登山シーンなのに、そもそも話の展開として必然性に乏しいからスリルやサスペンスに乏しいのは否めない。

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 ラスト、登頂を断念し、決死の下山を試みるシーンでパーティ全員が滑落死し、イーストウッドのヘムロックだけが一人、目もくらむ断崖で宙づりになる。このシーンは、子供の頃、TVで見た時から、今に至るまで脳裏にはこびりついている。

 しかし、総体的にいえば本作、何だかマッチョなイーストウッドが自分の登山シーンを見せたいがためだけに作ったような印象が拭えない。

 結局、映画そのものも宙ぶらりんの映画というべきか。

 実際、本作にテクニカル顧問として参画した登山家が、撮影中、事故死している。エンド・クレジットを、目をこらして見ていたけれど、メモリアルなコメントもなかったようで、ショー・ビジネスの世界とはかくも非情なものなのですね~