負け犬的映画偏愛録

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負け犬のオーイェーイ!どいつもこいつもぶち殺せ!この物件はあたいのもの!これぞ究極の事故物件スプラッター「ドリーム・ホーム」

地獄の結束バンド!香港から飛来した、とんでもない事故物件ならぬ事故映画。可憐なヒロインが事故物件にすべく繰り広げる直視不能、それでいて社会性とちょっぴり知的な残虐ホラー!

(評価 70点)

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 マイホームの購入をお考えでしょうか?それでは香港の海を一望できるタワー・マンションはいかがでしょう?今がお買い時です・・・というわけで、事故物件型血祭りスプラッターとでもいうべき本作。

 午後23:00、一人の女が香港のタワー・マンション、ビクトリアNO1にやって来る。そのままずかずかと守衛室に入り込んだ女は、そこにいた夜警の男の首にいきなり結束バンドをかけるとロックする。たちまち窒息する男。もがき苦しむ男を冷徹に見下ろす女。そして苦しさに耐えかねた男は必死でそばにあったカッター・ナイフをつかむと結束バンドの間に切っ先をねじ込み結束バンドを断ち切ろうとする。しかし、無情にもカッターの刃は、首の皮膚を切り刻むばかり、いよいよ男は苦しさのあまりカッターの刃を深々と切り込みバンドを切ろうとした瞬間、傷ついた首の動脈から鮮血が噴き出してこと切れる・・・正視に耐えかねるこんな壮絶なシーンからいきなり始まる本作(この結束バンドの使用方法は決してマネしてはいけません!)。

 驚くなかれ、この後、本作は、90分にわたって、この夜警の男を皮切りに、その冒頭の女が、マンションの住人たちを片っ端から残虐無比な方法で殺戮していくシーンに終始する。それでは本作はただノー天気な、スプラッターホラーなのか?答えはノー。本作で、凄絶な殺戮シーンにインサートされるのが、この女チェン(ジェシー・ホー)の日常生活や過去の生い立ち。そう、本作は、時系列に進行するグロテスクな残虐シーンの合間にシャッフルされる、そうしたシーンで、女が何故、その犯行に至ったか、そして最後にその驚きの動機が明かされるという、ちょっとそこらの凡百なエログロホラーとは一味も二味も違ったインテリジェンス・ホラーとでもいうべき作品なのだ。

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 こんなユニークなホラーを作ったのは、香港気鋭のパン・ホーチョン。監督のパンが本作の製作に至ったのも、新聞で何気に目にした三面記事だった。冒頭、テロップが出る通り、本作は香港で実際に起きた実話を元にしている。

 夜警の無残な死体を尻目にチェンが次に向かったのは、臨月間近のとある妊婦の部屋。チェンはその女をいきなり開いたドアで跳ね飛ばし、手足をこれまた結束バンドでロックすると、そのまま首からビニール袋を被せ、掃除機のノズルを突っ込み、スィッチを入れる。たちまち床の上で七転八倒して苦しみ始める妊婦。キャメラはその姿を俯瞰で冷徹に見つめる。

 いたるところで結束バンドが活躍する、百均ホラーといってもいい本作は、この後、チェンが無軌道な若者の部屋に侵入するところから、いよいよ裂けた腹から腸ものたくる地獄の修羅場と化していく。

 だが、そもそも、その女チェンの日常とは、自ら不動産の電話勧誘に毎日いそしむ平凡なOLなのだ。思い出すのは幼き日々、中国返還を目前に。スラム同然の蟻塚のような集合住宅で暮らすチェンのたった一つの夢は、海を一望できる瀟洒なマンションで暮らすことだった。しかし、母親は病気で倒れ、父親も病に侵され、そのたった一つの夢が無慈悲な現実によって蝕まれていく。

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 パン監督は、時系列に進む血みどろスプラッターと、こうしたチェンの日常のディテールと、過去の回想をカットバックして描くことで、たった一つの夢にすがって生きるしかないチェンのキャラクターを徐々に浮き彫りにしていく。この構成は実にユニーク。

 お世辞にも本作はスタイリッシュとは言い難い、それでも、まるでミニチュアを見ているかのような街の姿を切り取るキャメラもあいまって、まるで手作りのクラフトワークのような素朴なパワーは十分なほど伝わってくる。

 ただ体目的だけの妻子ある不倫のふがない恋人にも見放され鬱屈とした日々を送るチェンにもようやく夢に手が届く瞬間が訪れる。海が一望できる理想の物件、憧れのタワー・マンション、ビクトリアNO1が、ぎりぎりのローンを背負えば何とか手に入る手頃な価格になったのだ、しかし、不治の病の父親は保険契約の不備で保険金が下りず、追いつめられるチェン。その時、父親が急な発作に見舞われ喘ぎだす。いつものように酸素吸入器をあてがおうとしたチェンの手がピタリと止まる。

 皮肉な顛末で手に入った父親の生命保険の保険金を頭金に、チェンの夢の実現がようやくかなうと思われた時、いきなり家主が目当ての物件の価格を吊り上げてしまう。さて、そこでチェンはどうしたか?それが本作の狂気の沙汰の動機となっていく。

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 事故物件というのは最近の孤独死の風潮ともあいまってよく聞く言葉となった。ある意味、誰からも疎まれるネガティブなその事故物件を、逆利用してやれ、というやけっぱちともいえるこのヒロインの行動は、確かに狂ってはいるが、ある意味、理にかなっている。現に本作ではイントロで、狂った香港の街に生きるには、それ以上にイカれるしかないとのテロップも出てくる。それに元々、バブルというもの自体、常軌を逸した狂気の沙汰なのだから。

 ひたすら血みどろになって夢の実現に邁進し、ヒロインがビクトリアNO1の上層階から見渡した風景はどう見えたのだろう?そのエンディングは、狂騒のバブルに右往左往する香港社会への見事なサタイヤになっている。

 三面記事を題材に、ちょっとした逆転の発想で事故物件ホラーとでもいうべきタイトな作品を作ってしまったパン・ホーチョン監督はなかなか見事。発想次第で、こんなユニークなテイストの作品が出来てしまうホラーというサブカルをこの負け犬がこよなく愛するのもこんな作品に出会えるからかもしれないといえば、ちょっと褒めすぎか。

 いずれにせよこの事故物件、直視不能なほど血なまぐさくはあるが今がお買い得。負け犬同様サブカルチックなホラーを愛する方は、見逃す手はないですぜ。