負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の背筋も凍るちゃぶ台返し・・じゃなかった・・どんでん返し!「悪魔のような女」

ラストに待ち受ける衝撃!誰もが大好き、負け犬も三度の飯よりも大大大好きなどんでん返し!たとえ結末を知っていてもサプライズが味わえる、どんでん返しの正統派ともいうべき傑作サスペンス

(評価 77点)

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どんでん返しの解剖学

 人は何故、どんでん返しに驚いてしまうのか?そして、どんでん返しのサプライズに見舞われた時、人はどうして、一瞬、我を忘れて、性的リビドーにも似た陶酔を覚えてしまうのか?きっと、それは、実に常識的なタイムラインで突き進んでいた自分の意識というものが、予期せぬインパクトで粉々に破壊されたのに、ふと思い返せば、粉々になったはずのその断片が、理屈というもので実はきっちりとつながっている、という内面世界に、しばし入り込んでしまうからではなかろうか。とどのつまりは、それが、どんでん返しにおける伏線の回収というやつに違いない。

 映画、とりわけサスペンスものに類するジャンルの映画において、このどんでん返しにしてやられる、という体験ほど、願ったり叶ったりのものはない。中には、どんでん返しがただの客寄せパンダのような謳い文句だけで、見た途端、ちゃぶ台返ししたくなるような、噴飯ものの、どんでん返しが、あるけれど、本作のどんでん返しは、正真正銘の正統派、誰もが安心してサプライズの妙味に浸れる映画史上のどんでん返しオールタイム・ベストには必ず名を連ねるどんでん返しのクラシックな良作だ。

 

どんでん返しのパラダイム

 そんな本作は、今なお、サスペンス映画の金字塔として燦然とその名を映画史に轟かせている大傑作「恐怖の報酬」のアンリ・ジョルジュ・クルーゾーが、知性派、ボアローナルスジャックの原作を得て監督した、サスペンス・スリラーの逸品だ、

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 そもそも、その映画におけるどんでん返しが、良質だと、認知し得る条件は厳格だ。まずは何よりもそのプロットがシンプルであること。ただ、やみくもに見ている人間を驚かせたくて、無理やりプロットを複雑に、こんがらかせている映画は、もうそれだけで失格だ。

 次に、そのプロットに呼応して、登場する人物の人数が限定されていること。登場人物がやたらと多いというだけで、たとえその映画にどんでん返しなるものが用意されていたとしても、それがすなわち、良質のどんでん返しだとは言い難い。

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 その点、本作の場合、登場人物は、小学校の校長ミシェル(ポール・ムーリス)とその妻クリスティーナ(ヴェラ・クルーゾー)、そしてミシェルの愛人ニコール(シモーヌ・シニョレ)のたったの三人だけ。

 クリスティーナを差し置いて、ミシェルとニコールは、資産家のクリスティーナが病弱なのをいいことに、半ば公然と不倫を続けている。しかし、ニコールも横暴なミシェルに嫌気が差していて、ニコールはクリスティーナと共謀し、ミシェルの殺害を持ち掛ける。

 女同士が結託しての夫殺しという、きわめてシンプルなプロット構造とこのキャラクターからどんな化学反応が起きるかは、後のお楽しみ。

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どんでん返しの作法

 しかしながら、どんでん返しを正しくたしなむためには、それなりの作法がある。まず、どんでん返しに過度な期待をしないこと。それこそ、襟を正し、その映画にどんでん返しなぞ存在しないような無心の境地で、映画と対峙する。

 映画についてのたまうものは、やたらとその映画を褒めたがるもの。それを真に受けて、どんなどんでん返しが待ち受けているかとワクワク期待しながらその時を迎え、落胆しては、天を仰いだ人も多いはず。たとえ、その映画が傑作だとブログなどで褒めちぎられていても、信じてはならない。ひとえに、どんでん返しをめぐっては、その映画を語るものと、そのコメントを聞いて、くだんの映画に興味を持ち、手に取って見ようとする鑑賞者の間で、一種の丁々発止の騙し合いともいえる関係があることをお忘れなく。

 とりわけ、本作はクラシックゆえに、それなりに割り引いてご鑑賞のほどを(笑)

 

どんでん返しのヒストリア

 誰もが大好きどんでん返し。映画好きなら、必然的にどんでん返しのマイベストなるものを胸に秘めているもの。かくいう負け犬もと言いたいところだけど、思い返せば、意外と少ないことに思い当たる。

 たとえばもっとも有名なのはあのコン・ゲーム映画の傑作「スティング」、更にはヒチコックのあの「サイコ」。少し新しいところで、「ユージュアル・サスペクツ」、それにフィンチャー出世作「セブン」といったところか。最近ではロビイストにスポットを当てた政治サスペンス「女神の見えざる手」が、なかなか見事などんでん返しの粋を味合わせてくれた。

 各人各様、こだわりがあるはずのどんでん返しマイベスト。あなたのマイベストは如何なものでしょう~