負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の大人のためのワンダーランド「007ムーンレイカー」

ただSFブームに乗っかっただけとバカにするなかれ、これはもう大人のためのオモチャ箱!あなたも楽しさ全開のひとときを本作で!

(評価 80点)

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SF一大ムーブメント

 時は1977年、あの「スターウォーズ」がもたらした世界的なSFの一大ブーム。とにかくこのムーブメントに乗り遅れるなかれと、当時、SFなどとは似ても似つかない、ありとあらゆる映画にSFまがいのテイストのスパイスが施されて巷に溢れかえったものだった。

 となればフランチャイズの大御所の007シリーズも黙ってはいない。ちゃっかりその当時、ジェームズ・ボンドが遂に宇宙へ、と大々的にブチ上げて公開されたのが本作。負け犬はと言えば、当時は中学生の生意気盛り、映画雑誌に掲載されていた、「ムーンレイカー」のスペース・ステーションでのバトルのスチル写真から発散される如何にもチープな空気にフンとばかりに鼻で笑って、見向きもしなかった。

 ところが、それから数十年もの年月を経て、何の因果か、急にこの映画が見たくなり、鑑賞するに至った本作。これが意外にも、かつての偏見もなんのその、開巻からエンディングまで、まるでぶちまけられたオモチャ箱をあれよあれよと眺めているかのように時が経ち、気付けばいや~面白かったと感嘆している自分がいたのだった。

 思えば、それなりに良くできたマーチャンダイジングに則った逸品を、ようやく余裕をもって楽しめる年代になったということか、と我ながら改めて思ったりもしたのだった。

 

大人のオモチャ箱

 大人のための立派なワンダーランドと言ってもいい本作、誰もが度肝抜かれる圧巻のスタントのイントロがまずいい。本作公開当時、見向きもしなかった負け犬も、このスタントシーンだけは何かで見て、脳裏にくっきりと刻まれ、克明に覚えていた。飛行機の機内からそのまま放り出されたボンドが、空中を滑空し、先にダイブしていたスカイダイバーのパラシュートを空中で奪還し、パラシュートダイブで窮地を乗り切るこのシーン、数十年ぶりに見てもそのスリルと迫力に微塵の衰えもなく、圧巻そのもの。

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 プロのダイバーが80回以上ものダイビングを繰り返し、その度ごとに撮影した数秒単位のフッテージを巧みに編集したこのシーンをはじめ、お馴染みと言ってもいい水上でのボート・チェイスで、アマゾンの大瀑布にモータボートが吞み込まれる寸前にスカイグライダーで空中に飛翔するシーン、目もくらむロープウェイでの格闘などなど、本シリーズの目玉のひとつである、決死のスタントシーンの数々が次々と繰り出され息つく間もない。

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 それに加えて、フランス、リオ、アマゾンと、シリーズならではのロケーションの展開も見応えたっぷり。更に、再登場の、あの悪役ジョーズ狂言回しになっての、大ヒットした前作で開眼したパロディ・テイストが本作でも、遺憾なく発揮され、随所で笑わせてくれる。そうしたコメディ・リリーフのおかげで、スピード感が衰えることなく。最後の大目玉のスペース・シテーションのくだりまで、とにかく楽しませてくれるのだ。

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 おまけに、これも前作を踏襲し、色っぽいコリンヌ・クレリー他これでもかとばかりにボンドガールが大挙して出てくる。そのボンドガールズのリーダー格がモデル出身で理知的な美貌のロイス・チャイルズというランク付けが出来ているのも嬉しいところ。

 

塩を吹くスペース・シャトル

 本作は、シリーズ初めてフランスのスタジオでの大々的な撮影が行われた。クライマックスのスペース・ステーションは、フランスにおける映画撮影史上、最大なものとなった。

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 全編にわたって、シリーズ専任のケン・アダムズのプロダクション・デザインが冴えわたる本作だが、このスペース・ステーションをはじめ、シャトルの管制コントロール・ルームのモダンなデザインには目を奪われる。やっぱり映画におけるプロダクション・デザインの位置づけは大きいものだと納得した次第。

 目玉のSFXの数々も素晴らしい。特殊効果を担当したデレク・メディングスのアイデアを随所に生かしたギミック感満載の特撮は楽しい限り。特に、シャトルの発射シーンでは、シャトルが吐き出す噴煙を表現するために、何と塩が使われた。シャトル内部に塩を詰めて、単純に噴射口から塩が重力のなすがままに流れ落ちる。それだけで、確かに見事な噴煙に見えるから不思議。円谷英二の特撮で育った世代には、こうしたギミックに満ちた映像は嬉しい限り。総じて本作が、大人のオモチャ箱と称するのもこうした遊び心のおかげというべきでしょう。

 

懐かしき映画看板

 かくしてエンドタイトルのディスコ調のムーンレイカーのテーマを聞きながら、あ~面白かったと大満足できる本作、思えば当時、デカイ本作の映画の看板があちらこちらにあったものだ。その隣に、角川映画の看板が並んでいたりもした。そんな懐かしいノスタルジーに浸れる本作でもあるのです。