負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬のスパイにだって当然あっても不思議はない人生の潮時「007ダイヤモンドは永遠に」

 

帰って来たボンドは意外にも老けていた。それでもプログラム・ピクチャーとしては上出来でお気楽に楽しめる拾い物。

(評価 70点)

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ボンド イズ バック!

 二代目ボンド、ジョージ・レーゼンビーの壊滅的なまでの不評を受け、プロデューサーのアルバート・ブロッコリが破格の二百万ドルものギャラ(現在の価値では一千万ドル)を泣く泣く支払い、ようやく復帰したのが本作のショーン・コネリーだった。ただし、当初はブロッコリも当時の映画二本分の製作費にも相当するギャラに恐れをなし、ヒッチコックの「サイコ」のジャネット・リーの恋人役で有名だったジョン・ギャヴィンに三代目のボンド役を打診し、契約寸前のところまで行っていた。ところがユナイテッド・アーティスツ側がコネリーに固辞し、結局、ショーン・コネリーのボンド役へのカム・バックが実現した。

 

作品解説

 冒頭、いきなり和室の障子を突き破り、ボンドに吹っ飛ばされた悪漢が飛び出して来るイントロから幕を開ける本作の特長は、ズバリ、全編にわたるアメリカナイズされたテイスト。時は1971年、黄金のセブンティーズの幕開けにふさわしく、本作は、それまでの英国テイストから、アメリカナイズされたアクション映画へとその作風を一新している。

 監督はお馴染みのガイ・ハミルトンだが、イントロを皮切りにその演出も堅実ながら、すこぶる快調。アメリカンならではの、ラスベガスのネオンをバックにボンドがカラフルに駆け回る一品となっている。それに加えて本作は、それまでよりも更にコミカルな要素が加わり、一層ライトな感覚とアクションが絶妙にマッチした作品になっている。

 お馴染みのプレ・タイトルのシークェンスからも、ギャグ度のアップは一目瞭然。宿敵ブロフェルドにボンドが引導を渡すそのシークェンスでは、ブロフェルドの影武者用のマスクがズラリと居並んでいるという具合。その後の、泥んこ溶液(このドロドロ溶液、撮影に使われたのは実はマッシュドポテト)の中にブロフェルドを葬る後始末も何だか間抜けで、ここだけ見たらパロディ映画?と思う人もいるのではなかろうか。特に後半、地中深くのパイプラインに閉じ込められたボンドがタキシード着たまま、涼しい顔で出てくるシーンはギャグの極み。

 「ゴールドフィンガー」に続くシャーリー・バッシーのパンチの効いたイカスすテーマ曲のその後の本編は、タイトル通りダイヤをめぐるある計画で、ボンドがダイヤを追ってやって来るのがラスベガスの街なのだ。

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 降り注ぐ陽光と、夜のカラフルなネオンサイン。ここで繰り広げられるアクションのそのテイストは、まさにセブンティーズのアクション映画の感覚。研究所に忍び込んだボンドが敵に追われ、月面走行用のバギーに乗って逃走し、砂漠でパトカーとのチェイスを繰り広げるシーンをはじめ、夜のベガスの街でのパトカーとチェイスなど、70年代に胸を躍らせたワイルドなアクション映画の感覚が横溢して、その時代の映画フリークには嬉しい限り。

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 そして、タキシードを着たまま、見上げるばかりのハウスのタワーにエレベータでみるみる上昇し、目もくらむ高所で、宙づりになって最上階のペントハウス潜入する見せ場も交え、クライマックスのシークェンスに突入する構成など、シリーズの定石のツボを踏まえた演出も何となく安心できる。お目当てのボンドガールのジル・セント・ジョンのプレイメイトばりのフェロモン全開の悩殺ぶりもまさにアメリカンといったところ。お目当てのクライマックスは、実際の、海洋の石油精製プラントでのヘリが飛び交い、爆発炎上するスペクタクルの大サービスとくれば、もうエンタメ映画としては出来過ぎと言ってもいいサービスぶり。

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 惜しむらくは、歓呼の中のカム・バックのはずのボンドのショーン・コネリーが、何だかやけに老けたオーラを発散していること。高額のギャラを条件に渋々、出演したせいだけでもないような気がするのはこの負け犬だけか。本作はボンド効果で大ヒットはするが、本作限りでオリジンのこのシリーズからは身を引いたショーン・コネリー、自分なりに潮時というものをわきまえていたのではないでしょうか。

 

トリビア

 ベガスの街での派手なカー・チェイスの最中、パトカーに追われて逃げ込んだボンドの車が突入したのは、前方がビルとビルとの間の隙間が1mほどしかない袋小路。ここでボンドが披露する驚異のテクニックが、車の片側を浮かせて走行するフリップ走行。その態勢のまま車は見事にわずかな隙間に突入していく。ところが、次の隙間、その隙間から車が出てくるカットでは、突入した時とは逆の片側が浮いた状態で出てくる。隙間はおよそ1mだから、隙間を走行中にフリップし直すことは出来ないはず。

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このシーン、実は編集時点で間違いが発覚した。そこで苦肉の策として、運転席でコネリーとジル・セント・ジョンが並んでいるカットを逆向きに傾けるというカットを挿入して、何とか違和感がないように工夫した。しかし、映画を見ると実際、違和感アリアリなのが可笑しい。何にせよ、こうした本物志向の驚異のスタントが、次作の「007死ぬのは奴らだ」のド迫力のモーターボートのスタントに引き継がれ、ボンド映画の代名詞になっていくのは周知の通り。

 

ショウ マスト ゴオ オン!

 本作で目立ったギャグ・テイストは、次作の三代目ボンドのロジャー・ムーアも踏襲。さらにウィットにとんだソフトなスタイルで人気を確立させたのはご存知の通り。一度、確立したフランチャイズの火は絶やさずとばかりに今も続いている007,まさにショウ マスト ゴオ オン!というところでしょうか。

ところで次にボンドになるのは誰なのでしょう?

 

 

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