負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬のベトナム帰りのふくろうの河「ジェイコブズ・ラダー」

たとえば、たった一本だけ映画を持って行ってもいいとしたら、人はどの映画をチョイスするのだろう?

(評価 80点)

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ずっと長年、見たくてたまらない映画があった。でも、劇場映画ではない、たった25分の短編映画(実はオリジナルは三部作の劇場映画だったことを最近になって知った)。一般的な劇場映画ではないということもあって、ソフト化されることもなく、もう見ることは出来ないとあきらめていた。ところが、数年前、例のYouTubeで、まさしくその実物を見つけ、ようやく溜飲を下げることが出来た。

 その映画のタイトルは「ふくろうの河」。あのフランス映画の名作「冒険者たち」を撮ったロベール・アンリコが1961年に撮った作品だ。そもそも、この「ふくろうの河」は,あの有名なTVシリーズのミステリー・ゾーン(トワイライト・ゾーン)の中の1エピソードとして放送されていたらしい、それを雑誌で知って興味を持ち、いつか見たいと思うようになったのだ。

 そして、その思いにいっそう拍車をかけるきっかけとなったのが、「ジェイコブズ・ラダー」の監督エイドリアン・ラインが、その映画の宣伝も兼ねて来日した時のインタビューだった。ラインはその記事の中でこう言っていた、もしも砂漠に一本だけ映画を持って行ってもいいといわれたら、自分は迷わず「ふくろうの河」を選ぶと。

 そもそも、ラインが、長年、ハリウッドでホットなスクリプトとされながら、誰もが及び腰になって手をつけなかったこの映画の脚本の映画化に着手したのも、ブルース・ジョエル・ルービンによるこの脚本が、「ふくろうの河」から着想したものだったからだ。

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 映画はベトナムの戦場から幕を開ける。ジェイコブ(ティム・ロビンス)をはじめとする兵士たちが軽口を叩きながらくつろいでいる。その直後、爆発音とともに、一転、修羅場のような戦闘となる。地獄絵図の混乱の中、ジェイコブは何者かに銃剣で腹部を刺され、ハッと我に返ると、そこはニューヨークの地下鉄の中だった・・。

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劇場で見た時、まず冒頭の、ビジュアリストのレインがそのテクニックを渾身注ぎ込んだようなこのシーンの映像の迫力に圧倒された。その圧倒は、それ以降も次々に繰り出される、リアリスティックな質感のキャメラによる、幻想とも現実ともつかないようなシーンの数々によって途切れることなく続く。

映像派エイドリアン・ラインの卓抜した才能を随所に堪能できるこの映像こそ、本作の最大の見所なのだ。

そもそも脚本のキー・イメージともなった地下鉄のシーンが出色。地下鉄の坑道が地獄へと続いている。それが脚本家のブルース・ジョエル・ルービンが本作のコンセプトとして抱いたイメージだった。それに「ふくろうの河」、聖書のヤコブが主人公のジェイコブの名前となって、「ジェイコブズ・ラダー」となった。

エイドリアン・ラインはその脚本を最初に読んだ時のイメージをこう語っていた。「まるでジェットコースターに乗せられているようで、何処に連れて行かれるか分からなかった」。エイドリアン・ライン独特の映像が連続する本作は、まさにそのジェットコースター・ライドのような感覚が味わえる。

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物語は、着地点が見えないまま、ベトナムの戦時下で軍が開発した化学兵器ゾンビ・ガスの人体実験が関わっていることが浮上し、ジェイコブは軍の機密にまで関わることに。だが、ベクトルがめまぐるしく錯綜する話を最後に誘うのが、事故死したジェイコブの息子ゲイブ(マコーレ・カルキン)なのだ。

「ふくろうの河」がそもそもアンブロ-ズ・ビアスの「アウル・クリーク橋の一事件」の映画化であることを知っていたら、映画のオチはある意味、見なくても誰でも分る、現に自分も映画を見る前からそれは分かっていた。

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しかし、それでも、絶え間なくラインが繰り出す、エネルギッシュなその映像の数々には心底、魅了された。そして。今に至るまで何十年にもわたってそのDVDが手放せず、事あるごとに繰返し見続けている。

幻想ホラーでもあり、サスペンスでもあり、ミステリーでもあり、アクションの要素もあってというマルチ・ジャンルの本作。「危険な情事」でドル箱スター監督になったエイドリアン・ラインの渾身の企画でもあったこの映画は見事に大コケし、エイティーズを象徴する監督でもあったラインが凋落する曰く付きの作品にもなってしまったわけだけど、映画における映像の力を知らしめてくれるようなこのビジュアル・インパクトは決して色褪せることなく今後も輝き続けるに違いない。