負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の中高年は禁断の少女に萌える!「ロリータ」

今なおセンセーショナルな禁断の文学の完全映画化は、映像派エイドリアン・ラインの最高傑作だった!

(評価 84点)

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タブーを打ち破る、初老の中年男と、たおやかな少女との大胆なセックス・シーン!みずみずしくも美しい映像の数々。そして名匠エンニオ・モリコーネの美麗極まりない見事な音楽。めくるめく映像世界に、骨まで酔い痴れること間違いなし!

 かつてたった二度だけ映画化されたロリコンロリータ・コンプレックスの語源となった禁断の文学「ロリータ」。最初の映画化は、異才スタンリー・キューブリックが挑んだ1962年。そして、それから35年後の1997年、再びそのロリータの映像化に挑んだ鬼才がいた。スタイリッシュでファッショナブルな映像世界が持ち味のビジュアリスト、エイドリアン・ラインである。

 しかし、この本作、壊滅的な興行成績と、そのセンセーショナル過ぎる内容から、本国でも半ば黒歴史同然の扱いを受け、日本でも過去に一度ひっそりとDVDがリリースされたまま絶版状態となっている文字通りの禁断の作品だった。

 ところが封印されたはずのそのエイドリアン・ライン版の「ロリータ」が、何とYOUTUBEにフルUPされていることを発見し、念願の遭遇を果すことが出来たのだ。さらに、研ぎ澄まされたその映像世界と、実際に撮影当時17才の少女まで起用し、タブーを全く恐れぬ完全なるロリータの世界の映像化に度肝を抜かれ、本作が紛れもなくエイドリアン・ラインの最高傑作だと確信した次第。

 冒頭、ひた走るハンバート(ジェレミー・アイアンズ)の車からいきなり始まるファースト・シーンが絶妙。何処に行くとも知れず高速で突っ走る車。それを呆然と運転するハンバートの助手席には血まみれのリボルバーのピストル。リズミカルに巧みに切り取られたカットにエンニオ・モリコーネの美しいメロディラインの音楽がセッションする超絶的なまでに美しいシーンにたちまち虜になった。

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 ハンバートの脳裏に去来するのは一人の少女。米国のニューハンプシャーに教職を得てやってきた英国人のハンバートは、たまたま下宿先を物色している最中、衝撃的な出会いを果す。

 下宿屋の未亡人シャルロット(メラニー・グリフィス)の娘ロリータ(ドミニク・スウエィン)である。一目でロリータに心を奪われたハンバートは、たちまちその家に下宿することを決め、その後、ロリータにひたすらのめりこむ。

 中年男が少女に抱く憧憬。とにかくこのロリータをはじめてハンバートが見初めるシーンが出色。芝生に寝そべり、夏の日差しを浴びたスプリンクラーの水滴が、ピッタリと肌に張り付いたその下着を濡らしている。

 本作の成功はまた、実際に撮影当時17才だったロリータ役のドミニク・スウエィンにあったといってもいい。

 まさに小憎らしいという言葉がピッタリ。まるで捉えどころがなく、少女のようなイタズラっぽさと、性悪女のような狡猾さを併せ持つ魔性の二面性、さらにははじけるようにコケティッシュなその魅力。

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 ロリータに振り回されながらも、内面に燃え盛る欲望と理性の葛藤に悶々としつつ、ひたすらロリータの虜と化していくハンバートを、エイドリアン・ラインがビジュアリストとしての面目躍如たる、巧みな切れ味を持つスタイルを駆使して描く本作には、随所に陶然とさせてくれる映像に満ちている。

 夏季キャンプに旅立つロリータを二階から見送っていたら、車から飛び出しけたたましく二階に駆け上がるや、ロリータがハンバートにいきなりキスするハプニングに至るまでのダイナミックでアクティブな映像。とにかく至る所にエイドリアン・ラインならではの研ぎ澄まされた映像が散りばめられた世界が圧巻なのだ。

 綿密に時代考証された映像も美しい。下宿屋の女主人シャルロットが不慮の事故で死んだことをこれ幸いとばかりに、ハンバートはロリータを連れて旅に出る。うらぶれた中年男とたおやかな少女との夢の旅。しかし、旅の途上で出会ったキルティというもう一人の中年男にロリータが心を奪われていることを知るや、ハンバートは嫉妬もあいまって遂に一線を越えてしまう。

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 1962年当時には決して描くことが出来なかった大胆な、中年男と少女とのセンセーショナルなセックス・シーン。スタイリッシュでありながらもなまめかしく大胆なこのシーンには息を呑む。積年の思いを果したハンバートだったが、ロリータは、入院先の病院からいきなり姿を消す。

 そして数年後、ロリータからの便りを手掛かりに再開を果したロリータは、見知らぬ男と所帯を共にし、そのお腹には子供を身ごもっていた。

 自分の脳裏にあった永遠の少女のはずのロリータがいきなり現実味を帯びた成人の女と化し、その上、母性まで帯びてあれほど燃え上がった欲情ももはや過去のもの。砕け散ったかつての幻影を慈しむようにロリータと別離するハンバートのこのシーン。モリコーネの哀調の音楽がここに被るときのエクスタシーといってもいいほどの美しさは鳥肌もの。

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 やがてロリータの本当の妊娠の相手キルティの元に向ったハンバートは、自分のアイドルを汚した真の相手に対峙することになる。全裸でペニスも露わなキルティ役のフランク・ランジェラの奇怪な魅力。そして、怒りが頂点に達したハンバートが手にしたリボルバー銃口が火を吹く。

 エンディングがつまり冒頭の車でひた走るハンバートなのだ。

 時代考証が行き届いたシーンの数々、小さな小物を巧みなアングルで切り取るアクセントカット、そして光と影のバランスも圧巻のキャメラ。そのショットの数々にはエイドリアン・ラインの本作における執念まで感じさせる。

 ここまでポテンシャルの高い作品が、封印同然になったままなのは実に惜しい。

 内容自体は、あまりにもセンセーショナルではあるが、本質のテーマは、永遠の若さを憧憬してやまない妄執にとりつかれた人間とその人生の儚さで、それがこれほどまでに鮮烈に描かれた傑作だったことは予想外の驚きだった。また、これほどまでの傑作をものにしながら、本作の失敗が原因で、その順調なフィルモグラフィに陰りが差してしまったエイドリアン・ラインは無念だったに違いない。

 その無念を噛みしめながらこのロリータの小憎らしいドミニク・スウエィンちゃんの肢体をねっちりと眺めるのもまた一興かもしれませんけどね~