負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんの冷え切ったピザとコーヒーはマズイという件「フレンチコネクション」

もう何十年間もブッ飛ばされ続けるダイナマイトのようなこの作品の凄さは一体何なんだ!

(評価 96点) 

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あの文豪、池波正太郎の名著『食卓の情景』に本作「フレンチコネクション」について言及したくだりがある。あの屈指の名場面。麻薬組織のトップ、シャルニエ(フエルナンド・レイ)に喰らいつくように尾行し続けるポパイ(ジーン・ハックマン)が高級料理店で食事をするシャルニエたちを店の外から監視するシーン。足の指すらちぎれそうな凍てつくアスファルトの冷たさに足を打ち鳴らしながら、自分たちは冷えたピザにパクつき、これも冷たく冷え切ったコーヒーをすすりながら、あたたかそうな店の中でフランス料理をたしなむシャルニエをうらめしそうに見つめるシーン。フリードキンが店の中から巧みなズーミングで店の外の刑事二人をとらえたこのョットを池波正太郎は食通ならではの同氏らしく映画通にはこたえられない、背筋に寒気が走るほど、と形容している。

 この超弩級の作品をリアルタイムで劇場で幸運にも鑑賞した池波正太郎氏と比べ、こちらの初見は、テレビの「ゴールデン洋画劇場」枠での初めての放映の時だった。それ以来、何十年と見続けていても微塵も衰えることのないこの作品の爆発的なその破壊力のスゴさとは一体何なんだろう。

 思えば、言わずと知れた本作の監督ウィリアム・フリードキン。そのキャリアは確かに長いけど、秀作といえる作品は本作を含めほんの数本しかない。そしてその作品の特徴はどれもこれもどこかいびつなことだ。

 本作もアカデミー作品賞には輝いたが改めて見ていつも思うのは本作がお世辞にも良く出来た映画などではないこと。キャラクターが描かれ、ドラマが進行し、クライマックスに導かれてエンディングに至るドラマツルギーなどとはまるで無縁、ぶっきらぼうで、無骨、構造としてはどこか凸凹している。悪く言えば出来損ないで取っ散らかった印象を受ける。

 しかし、そのアンバランスさは、そのフィルモグラフィからうかがい知れるウィリアム・フリードキンの体質そのものなのだ。そして、そのアンバランスさが、この作品では奇跡的に吉と出ただけなのだ。計算でも何でもない、ただ偶発的に生まれ出た。だからこそ経年劣化などしたくてもしようがなかったのではないのだろうか。

 走るポパイとクラウディをどこまでも追いかける手持ちキャメラのショットのパワー。車の解体工場でシャルニエのロールスロイスを完膚なきまでに解体していくポパイの鬼気迫る表情を捉えるキャメラ。すべてを凍てつかせるほどの凶暴なニューヨークの冷え切った冷気を伝えるキャメラ。それら全てによってこちらにストレートに伝わって来るザラついた質感はまさしく本物以外の何物でもない。

 後年、本作のポパイことドイルのモデルになった人物のエディ・イーガンが麻薬課の課長を演じていた人物その人であることをメイキングで知った。そして本作を撮った時の、若きウィリアム・フリードキンの撮影に打ち込むファナティックぶりが狂気の沙汰としかいえないほどの所業だったことも。

 う~ん、やっぱり古今東西の如何なるジャンルの作品であれ、金字塔級の作品が生み出された背景には狂気と正気が紙一重の一線の淵みたいなゾーンが必ずと言っていいほどあるのですよね~これを常人にははかりしれない恐怖の未体験ゾーンというのでしょうかね~♪