負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬にも明日は来る!「俺たちに明日はない」

不覚にも近年になってようやく目撃した、あのあまりにも有名な負け犬たちの血みどろのハチの巣ダンスは、やっぱり衝撃的だった

(評価 82点)

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セブンティーズのニューシネマニアの負け犬が、何故か見ていなかったニュー・シネマの先駆的な代表作。近年、ようやく目撃したその作品のあまりの素晴らしさには感動しかなかった。

 七不思議の一つ。ニュー・シネマは総ざらいして見ているはずの負け犬が何故か本作だけは見ていなかった。ソフトにしたって、昔から、いくらでも出回っているのに何故だろう?そこで、いそいそと見てみたら、それもそのはず当たり前、今更ながらのこの傑作と出会えた喜びに打ち震えたのだった。

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 ボニーのダナウェイがいきなり出てくる、そのシーンのヴイヴイッドな演出からして只物ではない。通りすがりのクライド(ウォーレン・ベイティ)がボニーの家の前に停めてあったボニーの母親の車をくすねようとしたところを、二階の窓から覗いていたボニーに見つかって、というのが電撃的な二人の運命の出会い。ばつの悪さを隠しつつ、そぞろ歩きをするうちに、すっかり意気投合した二人は、退屈な田舎暮らしにうんざりし、マックスにまで高まっていたボニーのフラストレーションもあいまって、いよいよ歴史に残る極悪行脚の旅に出る。

 1967年、暴力、セックス、芸術、ニュー・シネマ!のキャッチ・フレーズと共に、世界を震撼させた本作のインパクトは微塵も衰えていないどころか、この21世紀の閉塞感を漂わす今だからこそ、その衝撃が新鮮そのものに思える作品だった。

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 電光石火の銀行襲撃を繰り返し、たちまち時の人となる、ボニーとクライド。行きずりのスタンドで、腕利きの整備士モス(マイケル・J・ポラード)を仲間に引き入れ、兄のバック(ジーン・ハックマン)と妻のブランチ(エステル・パーソンズ)も加わって、さらに一行の行動は、過激にワイルドになっていく。何といっても、アカデミー助演女優賞も納得のブランチ役のエステル・パーソンズが出色。クズ同然の一行に加わりながらも、やたらと牧師の娘であることのプライドだけを鼻にかけ、いつもギャーギャーと神経質にわめいて、ボニーとは犬猿の仲で一触即発のトラブル・メーカー。そんな三人と、70年代のバイプレイヤーの顔ともいうべきチビっこマイケル・J・ポラードの存在感とが織り成すアンサンブル。

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 ベイティ、ダナウェイ、ハックマン、それにポラード。おまけにはチョイ役で笑わせてくれるジーン・ワイルダー。この顔ぶれにこのキャメラのルックス。これだけ揃えば、もうセブンティーズのニューシネマニアにはたまらない。それだけではない、最後には伝説のクライマックスが待っている。

 一行の旅にも、暗雲がたちこめはじめ、バックとブランチが銃撃戦の果てに離脱。命からがら逃げ込んだモスの実家で、モスの父親が警察に内通したことから。いよいよボニーとクライドはその最後を迎える。

 二人がハチの巣となる伝説的なバイオレンスシーン。このスタイル、この演出に燃えない人間がいるだろうか。

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 飛び立つ鳥から、警察が全方位する気配を動物的に察知し、一瞬顔を見合わせる二人。その静から一気にマシンガンが火を吹く動に転化するその興奮。マシンガンの弾丸を全身に浴びる二人の弾着の凄まじさ、絶妙なスロー・モーションのインサート、そして全てが止んだ後の無常感に包まれたエンディング。

 デヴィッド・ニュートンロバート・ベントンのコンビによる、史実の綿密なリサーチに基づくこの脚本の映画化に至るまでの紆余曲折は、有名な話。しかし、「イージー・ライダー」をはじめ、伝説となった作品が全てそうであったのも同じこと。

 エログロ・ナンセンスの活力に満ち溢れた70年代を告げる起爆剤ともなったような本作を見ると、改めて体内に活力がみなぎってくるような気すらしてくる。悪党と落ちこぼれがヒーローとして唯一脚光を浴び得たその時代、本作のタイトルは、原題の「ボニーとクライド」では有り得ず、あくまでも「俺たちに明日はない」でなければならなかった。どんなみじめな負け犬にも必ず明日はやって来る。逆説的に世の中のすべての負け犬たちにエールを送る、そのタイトルゆえに本作は伝説となったのだから。