負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の果たしてそいつはバカか天才か!そして、そいつはやっぱり天才だった!天才監督誕生秘話!「その男凶暴につき」

天才は予期せぬところからやって来る。言わずと知れた北野武の衝撃のデビュー作、天才はただ歩くだけで世界を震撼させた。

(評価 72点)

 

天才はただ歩く

 ただテクテクとひたすら歩く男。それを望遠で捉えるキャメラ。そうやって男がただ歩いては、その道中で暴力をはたらき、それが済むと、また歩く。その単純な繰り返し。しかし、そんな映画はそれまで無かった。

 もともと、深作欣二が監督するはずだった「灼熱」というタイトルの映画に、出演するだけの筈だった北野武が、監督までする羽目になったのも、ほんの偶然だった。

 そして、この負け犬が今でも克明に憶えていることがある。とある芸能ニュースで流れていた本作の制作発表の記者会見の一コマだ。その席上で、初監督にあたっての意気込みを問われた北野武は居並ぶインタビュアーたちに向って、何気に、いつもの口調でこう述べたのだ。

 「出来上がった作品を見た人から、こいつはバカかって言われるか、それとも天才だって言われるか、そのどっちかだよ」

 このコメントからひと月も経たないうちに、あらゆるマスコミのメディアに踊り出したのが、「天才」の二文字だった。そして、その称賛の嵐が、やがて日本という小さな島国に収まりきらず、世界にまであふれ出していったのは周知の通り。

 

おとぎの国の暴力のバラード

 本作の脚本は野沢尚。野沢が手掛けた邦画アクション映画の体裁そのままのオーソドックスな脚本を、この新たなる天才は破壊してみせる。破壊に使ったその道具こそが、後のキタノ映画のトレードマークとなる独特の間だ。

 冒頭の不穏な浮浪者狩りのイントロからその奇妙な間は炸裂している。浮浪者狩りのリーダー格の少年の家を俯瞰で捉えた何気ないショット。画面のフレームにテクテクと歩いてくる男が入って来る、そしてそのまま男は玄関口に。ドアが開き、家人に警察だと告げる、そして男はそのままズカズカと二階に上がっていき、ドアを開けた少年の顔をいきなり殴る。日常と暴力とが共存している奇妙な世界。このシーンが放つ強力なインパクトはまさにそれだ。

 その後の、タケシが歩く姿を延々と横移動に捉えるトラッキングショットも実に印象的。そして、署内のデスクに落ち着き手持ち無沙汰にするタケシの演技を始め、全編にわたる何とも言えないタケシの存在感の素人っぽさまでもが不思議な魅力になっているのが本作の魅力でもある。

 ただ、本作が俗っぽいのは否めない。序盤の暴力と暴力を介在するかのようにタケシがテクテクと歩く奇妙な世界観のユニークさが、後半になるほど平板なVシネマそのもののスタイルに落ち着いていく。そして、ありふれた世界になることに抗うかのようにタケシは主役である刑事があっさり殺されるというツイストで、何とか抵抗を試みる。

 本作公開時のキネマ旬報のインタビューで、好きな映画は?と問われたタケシは、あのフリードキンのあだ花といってもいい傑作「LA大捜査線/狼たちの街」と明言していた。そして、その作品をタケシは臆面もなく、後半からエンディングにかけてそっくりパクッているところが何とも初々しい。

 Vシネマ丸出しの俗っぽさ、そして好きな映画をそのままパクる無邪気さ。天才のデビュー作はやっぱり今見ても楽しさに満ちている。

英国スパイがオリエンタルなアジアン・テイストに思い切りベクトルを振ったらA級にあるまじきB級テイストになったけど、それが案外美味だったりした件 「007黄金銃を持つ男」

負け犬の今夜のディナーはディープでキッチュなアジアの料理。黄金の年1974年のメモリアル的なボンド・シリーズの異色作にしてチープなテイストが魅力の佳作

(評価 70点)

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1974年のメモワール

 1974年といえば、この負け犬には決して忘れられない年。そう、この負け犬が、あの「燃えよドラゴン」と遭遇した年。そして世界にドラゴン旋風が吹き荒れていた年。マーチャンダイジングの戦略には一つの定石がある。そう、流行に乗り遅れるな!というわけで、英国ブランドのはずのボンド・シリーズが、前作「死ぬのは奴らだ」で成功したアメリカナイズの路線をさらにパワーアップさせて、今度はそのドラゴン・ブームにまでちゃっかり便乗したかのようなチープ路線に転じたのが本作。

 本作、確かに公開時には、タイトルにもなっている黄金銃の分解図などが色々な雑誌の誌面に踊りつつも、あからさまなブームの便乗も災いしたのか、評判も悪かった。この負け犬も初見の際には、失敗作としてそのまま記憶の底に封印したままになっていたほどだった。

 しかし、ふと思い立って見返してみたら、不出来どころか、チープなテイストが逆に魅力の、上出来とは言えないけど、エンタメとしては充分に及第点の作品であったことに気付いて心地よく驚いた次第。

 

007ブランドのB級バカ映画

 謎の殺し屋スカラマンガ。そのスカラマンガがボンドの首を100万ドルの報酬と引き換えに狙っている。それを知らされたボンドは一路、タイのバンコクへ、というわけで、いつもなら世界的規模の陰謀のはずのプロットが、うんとスモールスケールになっていることからも本作がいささか安っぽいのは自ずとわかる。

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 その後の展開も定石通り、ボンドガールのグッドナイト(ブリット・エクランド)と落ちあい、スカラマンガの行方を追ううち、スカラマンガの愛人アンドレア(モード・アダムズ)からスカラマンガの居所を聞き出すうち、アンドレアが殺され、グッドナイトがスカラマンガに囚われてしまう。そしてボンドはスカラマンガのアジトの島へと・・と、何から何までいつもの幕の内弁当。それがチープとくればただの凡作と言われても仕方ない。

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 しかし、それでも本作が隅には置けないのは、やっぱり、うまく流行に便乗した色鮮やかなオリエンタルなテイストが魅力的だから。バンコクの街並みやマーケット、いつものボート・チェイスのバックグラウンドもタイの水上生活の風景だから逆に実に新鮮。

 露骨にドラゴンを意識した、ボンドが似合いもしない空手着を着ての下手糞なアクションの末に、裸足で逃げ回るシーンもご愛敬。おまけにクライマックスのスカラマンガとの対決シーンも「燃えよドラゴン」から拝借した鏡を使ったショウダウンとくれば、パクリを通り越して、今見たら案外楽しい。ボンドガールのブリット・エクランドとモード・アダムズも、どちらもゴージャスで申し分ない。本作で狂言回しとなるのが、小人の悪役ニック・ナック。このキャラクターが最後までコメディ・リリーフとして機能して本作を引き立てるのに一役買っている。

 とまあ、総じてみれば、オリエンタル・ムード満載のオモチャ箱として楽しめる本作だが、難点は、やっぱり見せ場に乏しいことか。最大にして唯一の見せ場が、公開時にも盛んに宣伝された車が一回転ひねりして川を飛び越えるあの伝説的な超絶ジャンプだけではちとサビしい。

 それでもリリが歌う本作のテーマ曲が、あのハリウッドのパニック映画にオカルト映画、それにとどめのドラゴン・ブームに燃え盛っていた極私的黄金の1974年のむせ返るノスタルジーを感じさせてくれるほどにイカすので良しとしましょう~というところですかね~

負け犬も肌の色を超えたリスペクトに涙「夜の大捜査線」

南部の夜の熱気、トップアクターたちのベストパフォーマンス、鮮烈なキャメラ、そしてクインシー・ジョーンズの音楽、来たる黄金の70年代の到来を告げる傑作!

(評価 78点)

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イン・ザ・ヒート・オブ・ザ・ナイト

 夜の帳が降りてもうだるような熱気が渦巻くミシシッピーのとある田舎町。夜行列車から降り立つ一人の男、その頃、いつものように、グラマーな十代の女の子の裸体を覗き見しながらパトロールしていた地元の警官サム(ウォーレン・オーツ)が発見したのは、一人の男の他殺体だった。

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 こんなイントロから始まる犯罪サスペンスに巧みに人種問題を絡ませた傑作は、後に数々のアカデミー賞にも輝いたのも頷ける、未だに色褪せない魅力を放ち続けている。

 その立役者は何と言っても主役の二人、黒人ながら、殺人課トップの切れ者都会派刑事ヴァージル・ティップスを演じたシドニー・ポワチエ。そして、南部の差別意識を隠そうともしないレッドネックな地元の警察署の署長のギレスピーを演じたロッド・スタイガー。どちらもオスカー男優のこの二人の名演に尽きる。

 だが、決してそれだけではない、名ライター、スターリング・シリファントのシナリオはもとより、昔、本作が日曜洋画劇場で放送された時、司会のあの淀川長治が絶賛していた、木立の中を突っ切り、橋を逃げる容疑者を望遠で捉えた鮮烈なキャメラ・ワーク。そして、ソウルフルなパンチが心地いいクインシー・ジョーンズのゴキゲンな主題歌と、すべての要素がバランス良く緊密なアンサンブルを奏でる、その後の黄金の70年代のアメリカ映画の台頭を予感させるにふさわしい傑作だ。

 

白と黒のバラード

 警官モノといえば本質的にバディものの体裁を備えた映画が多いが、本作におけるバディにあたるヴァージルとギレスピーは、人種という越えがたい壁で遮断された、天敵と呼んでも差し支えないほどの近親憎悪的に相容れない二人だ。ずばり、犯罪ものとしては地味な本作を、ラストまで決して途切れることなく牽引するものこそ、この二人が徹底していがみ合うテンションなのだ。

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 リベラルな刑事を演ずるシドニー・ポワチエが俄然として素晴らしいのは勿論だが、田舎の横柄な警官の、あるある感を実にリアルに描出したロッド・スタイガーの存在感が実に見事。そのキャリアを通じて黒人系俳優のメンターであり続けたシドニー・ポワチエが輝いて見えるのも、ひとえにこのロッド・スタイガーの名演あってこそ。

 名シーンは数あれど、特に素晴らしいのが、ヴァージルが物的証拠から、殺害現場が第一発見時の路上ではなく、町はずれの空き地であることを立証してみせた後、ギレスピーがヴァージルを自宅に招いて、一緒に酒を飲んでいる途中、ギレスピーが思わず独り身の寂しさを吐露してしまった後、急に憐れみなんか欲しくないと元の敵愾心を剥き出しにしてしまうロッド・スタイガーのセンシビティ溢れる絶品の演技。

 冒頭の殺人事件の真相をめぐり、二転三転する事件の捜査に対するヴァージルのプロフェッショナルな姿勢に、遂に感服したギレスピーが、最後の駅での別れの際、あくまでも不器用に、それでも心の底からヴァージルに、「元気でな」と声をかけるシーンは、何度見てもズンと胸に応えるものがある。この映画史にも残る名シーンは、プロフェッショナリズムというものが人種の壁を越えてみせた瞬間と言える。

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 エンターティメントと鋭い切れ味の社会性、その二つのバランスを巧みに操り黄金の70年代を築き上げたアメリカ映画の息吹が1967年製作の本作には確かに感じられる。

 映画は、名優が作るもの、改めてそう感じさせくれる傑作ですよね~

負け犬の拾い物には福が来る一粒で二度おいしいサスペンス「LAST EMBRACE(最後の抱擁)」

ヒッチコック映画そのままの既視感とデ・パルマ映画そのままの既視感も合体したら実に乙なもの、バーゲンセールのようなお得感満載の日本未公開の上出来サスペンス!

(評価 70点)

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お宝映画発掘隊

 こと映画ハンティングに関しては、本当に幸福な時代になったもの。日本未公開のお宝的な拾い物が居ながらにして発掘出来るのだから。というわけで、毎度お馴染みYoutubeでハントした日本未公開映画の本作。

あの「羊たちの沈黙」で名高いジョナサン・デミが1979年に監督した本作は、職人監督としてTV、映画に多数その名を連ねてきたデミが、器用な多才ぶりを存分に発揮して、まるでヒッチコックデ・パルマの映画をそのまま見ている気分にさせてくれる、かなりお得気分満載のサスペンス映画だ。

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ヒッチコックデ・パルマの絶妙なブレンド

 本作の主演はロイ・シャイダー。70年代末といえばパニックからアクション、サスペンスまで八面六臂で活躍していた時代。本作でロイ・シャイダーが演じるのはハリーという諜報機関員。

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 冒頭、いきなり乱射事件に遭遇し、妻を失ったハリーが、その後、出会ったエリーという女性と深い関係になるうち、ユダヤの慣習にまつわる連続殺人に自分が巻き込まれていることを悟るという本作は、そのテイストからビジュアルまでヒッチコックそのまま。しかし、決して物真似に成り下がることなく、ヒッチコックファンも、更には負け犬のようなデ・パルマの大ファンまで楽しませてくれる、その巧みな作りには感心することしきり。

 これは、見ている間中、このシーンはあの「めまい」のシーン、これはデ・パルマの「愛のメモリー」のあのシーンと頭の中で次々とリフレインされるのが心地よかったりするちょっと新鮮な感覚だった。

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 その上、クライマックスはこれまたヒッチコックの「めまい」や「北北西に進路を取れ」といった作品群をそのまま見ているかのようなナイアガラの滝で、名所観光気分も味わえるオマケ付きとくれば。もう文句はない。

 足早に展開するプロットをあれよあれよと見ていくうちに、たちまち時間が過ぎていく本作。見終わって思ったのは、これが日本未公開とは何と勿体ないことよ、だった。でも、そんな作品と、Youtubeで、それもタダで鑑賞できるのだから、つくづく有難いものだと、ここはひとまず深々とネット社会の恩恵に感謝というべきなのでしょうね~

負け犬の狂気のスナイパーは大群衆に燃える「パニックインスタジアム」

サスペンスとパニック映画、どちらの醍醐味も存分に味わえるマルチジャンルなエンタメ良品(評価 72点)

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 開巻、たちまち響く一発の銃声。スナイパーがスコープ越しに捉えたのは、連れ立って自転車でツーリングする一組の夫婦だった。そのまま倒れこみ、血に染まった夫を見て悲鳴を上げる妻を横目に、冷徹にライフルを解体するスナイパーをキャメラは一人称の主観ショットで捉え続ける。そして、次にスナイパーが向かったのは、チャンピオンシップを見るため続々と観衆が集まりつつある、爆発寸前の熱気を孕んだ、アメリカンフットボールのスタジアムだった!

 如何にもサイコパスなスナイパーの行動を黙々と捉えるサスペンス調のイントロから、スタジアムにフレームインするや一転して、キャラクターが入れ代わり立ち代わり描かれるグランドホテル形式になり、その中の一人にあのチャールトン・ヘストンが登場とくれば、これはもう立派なパニック大作、というわけで、サスペンスの醍醐味とパニック映画の醍醐味がどちらも存分に味わえる本作。

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 今ではマルチジャンル・ムービーというのは珍しくもなくなったが、1977年公開の本作は、そのマルチジャンル・ムービーの先駆的作品と言えようか。それに加えて本作は、映画やTVでもお馴染みの警察組織の狙撃部隊のSWATに初めてスポットが当てられた作品としても有名。

 とにかく本作は、この負け犬も大好きな社会派サスペンスの傑作「ある戦慄」でも出色だった監督のラリー・ピアースならではのドライでクールなタッチから、終盤に至って一気に、ハリウッド大作パニック映画本来の見せ場たる怒涛のクライマックスへと打って変わるそのメリハリの転調が最大の魅力。

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 そして、本作におけるパニックのトリガーとは、ずばり大群衆。スタジアムのメモリアルの高台に身を潜め、警察陣の一行が、時限爆弾を見守るが如く、リモートで監視していたスナイパーが、試合の後半の2分間のタイムアウトに、いよいよ超満員の大観衆に向って、無差別射撃を開始。その瞬間、堰を切ったように群れを成して右往左往して狂ったように超満員の観衆が逃げ回る怒涛のモブシーンは、ただ圧巻としか言いようがないほど凄まじい。何度見ても、よくぞこれだけの数、そして本気モードで逃げ惑うエキストラをかき集めたものだと感心する。

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 ヘストン演ずる警部のホリーとSWATのクリス(ジョン・カサベテス)の決死の突入で、ようやく仕留めた犯人が結局、動機も明かされぬまま絶命する無常観に、社会派ならではの監督ラリー・ピアースのタッチが冴える・・・と思っていたら、実は本作、本国米国でTV放映の際には、この射撃の犯行自体が、スタジアムの近辺で行われていた美術品強奪犯人たちが計画した陽動作戦だったことが明かされる1時間ものシーンが追加された特別バージョンで放送されたというから驚く。

 本編通じて犯人の行動は常に犯人の主観ショットで描かれる、だから犯人はサイコパスで、犯行自体、無差別犯罪だと誰もが思う、だとすればこの展開は、一種のどんでん返しだと言えなくもない。そちらのTV版も怖いもの見たさでいつか見たいものですよね~

負け犬もラストに驚愕した逆転の監禁飼育の恐怖「ロザリー残酷な美少女」

美少女が男を監禁飼育する!その果てに待ち受ける衝撃の結末とは!?70年代B級タイトホラーの拾い物の傑作

(評価 70点)

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懐かしの「ゴールデン洋画劇場」

 その昔、といっても大昔だが、あの「ゴールデン洋画劇場」で、「未公開映画傑作選」なるラインナップを立て続けに放送するという、まるでB級映画マニア向けに特別にアンテナを振ったかのようなイベント企画をプランニングしてくれたことがあった。

 何週間かにわたって放送され、ジャンルとしては必然的にホラーのカラーとなるその作品群で、ひときわ抜きんでていたのが本作「ロザリー残酷な美少女」だったのだ。

 社用でLAに向かう一人のセールスマンが、一人の少女のヒッチハイカーを拾ったことから悪夢が始まるという本作の見所は、何と言ってもショッキングなそのラスト。もう何十年も前になるというのに、負け犬も、この衝撃的なラストカットだけは記憶の淵にくっきりと残っていた。

 もともと未公開映画、ゴールデンタイムとはいえ企画モノでスポット的に放送されただけの作品とあって、本作の衝撃は、記憶の澱に残りつつも作品そのものは忘却してしまっていた。しかし、ひょんなことから本作のことを思い出し、IMDBで原題を探り当て、例によってYoutubeで検索してみたら、何とヒットし、ほんとうに、何十年ぶりかの再見を果たした次第。今は、こんな形で映画と再会できるから、スゴい時代になったものだよなと、しみじみ思いつつ、見た本作は、セブンティーズ・テイスト満載の、記憶に違わぬ快作だった。そして、あのラストカットの衝撃を再び味わうことが出来て、ある種の感慨すらあったのだ。

 

パクリの帝王

 かつて大ベストセラー作家としてその名を轟かせたスティーヴン・キング。ベストセラー作家とはいいつつ、パクリばかりやっていたこの三文作家の代表作とされる「ミザリー」。実はその「ミザリー」、キングが本作「ロザリー残酷な美少女」をそのまま臆面もなくパクッて書いた作品なのだ。パクリであることは誰が見ても一目瞭然、それ以前にタイトルを聞いただけで誰でも分かる。

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 ただし、キングがパクリたくなるのも良く分かる。それほどまでに、本作「ロザリー残酷な美少女」は、一人の少女が、成人の男を監禁し、飼育するという異常なプロットを、きっちりと巧みにワン・シチュエーションに落とし込んでタイトなスタイルで描き切っている傑作だからだ。

 荒れ地にポツンと立った掘っ立て小屋。ネイティブの少女ロザリー(ボニー・ベデリア)が歌を口ずさみながら穴を掘っている、ロザリーは死んだばかりの父親を埋葬しているのだ。こんな出だしから本作は始まる。そして、道すがらセールスマンのバージルの車にヒッチハイカーとして乗り込んだロザリーは、そのまま自分の小屋にバージルを誘い込む。

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 たった一人で住むロザリーに同情したバージルは、しばし、ロザリーと時を共にするが、ロザリーはいきなり斧を掴むと、その斧を振り下ろし、バージルの足の骨を折る。「たった一人で暮らしたくなかったの・・」かくして、バージルとロザリーの砂漠での二人きりの奇妙な生活が始まる。

 本作はこのプロットの通り、登場人物は、ロザリーとバージル、そしていかれたヒッピー風のバイカー、フライのたった三人だけ。舞台劇と言ってもいい、スモール・スケールの本作だが、凡百のホラー映画などより、抜きん出て抜群に面白いのは、この負け犬のホラーのマイベストにもランクインしているあの傑作「悪魔の追跡」を撮った監督ジャック・スターレットの職人芸に負うところが大きい。

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 更には、ネイティブの少女として、幼いながらも危険極まりない異様なエキセントリックさを備えたロザリーを演ずるボニー・ベデリアの魅力に尽きる。このボニー・ベデリアの少女の幼さと、大人の女のエロさを備えたビキニ姿は、最大の見所というべきか。

 足を折られ、寝たきりと化したバージルと暮らす二人の生活に、金目当てのバイカーのフライがハイエナのように介入した時、二人だけのパラダイスは破綻する。そして、くだんの衝撃のラストが待ち受ける。

 本作でロザリーを演じたボニー・ベデリアは、後にあの「ダイハード」のマクレーンの奥さんホリーとして世界中にその顔が知られるようになる。後の面影の片鱗が垣間見える、ボニー・ベデリアのコケティッシュさも魅力の一つといえるでしょう。

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 こんなにエロ可愛い女の子になら、たとえ足をへし折られても監禁されてみたいと思う負け犬は、立派なマゾヒストかもしれませんね~

負け犬の親子で落ちるロンドン橋「キャット・アンド・マウス」

70年代TVムービーの隠れた傑作!お宝映画発掘隊が発掘した良作には新たな発見も、それはカーク・ダグラスマイケル・ダグラスの意外な接点だった

(評価 68点)

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ビバ!セブンティーズTVムービー

 「キャット・アンド・マウス」?何それ?そんな映画あったっけ?それもそのはず本作は、本国米国でしかオンエアされていない貴重なTVムービー。そして、70年代に山のように量産されたTVムービーのハイクォリティをそのまま証明するかのような傑作TVムービーだ。

 主演はカーク・ダグラス。あのマイケル・ダグラスのお父さんといった方が、分かりやすいか。本作は、そのカーク・ダグラスが社会のシステムから見放されたドン底の落伍者ジョージに扮し、完全に社会から排斥された疎外感から一線を踏み越えていく一人の男を演じたサスペンスの隠れた傑作なのだ。

 

悲しきジョーカー

 元、高校教師のジョージ(カーク・ダグラス)は、学校では生徒たちからマウスィ(ネズ公)とニックネーム呼ばわりされ言い返すこともしなかった卑屈な小心者の男。妻のローラ(ジーン・セバーグ)とも離縁され、今はカナダにいて、新しく見つけた恋人との結婚を間近に控えたローラと、今も愛着捨てがたいローラの連れ子の息子に執着し続けている。

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 ある日、持ち家と私財全てを売り払ったジョージは、カナダにいるローラの元へと旅立つ。しかし、ジョージを拒絶するローラに対し、ストーカーまがいの行為を繰り返すうち、ジョージはいよいよ一線を越えてしまい・・。

 社会の落伍者に完全に成り下がった一人の男が一線を踏み越え、社会に復讐する。今で言えばジョーカーといったところだが、あちらは所詮、コミックブックのキャラクターでしかなかったのに対し、こちらのジョージの現実的な造型には、言いようのないリアリティがある。そのジョージがただ妻のもとへと向かっていくという、単純な構造の中で、異様なテンションが高まっていくカーク・ダグラスの絶妙なキャラクター造型の妙が秀逸だ。

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 加えて、舞台となるカナダでのオールロケーションによる効果、更にはやはりあのカナダ産ホラーとしても有名な「暗闇にベルが鳴る」にも使われたカナダの都市伝説を、クライマックスに巧みに取り入れて、真っ暗闇での、ジョージとローラとの、ヒッチコック顔負けの、決死のかくれんぼのサスペンス演出にも感嘆することしきり。ひとえに70年代TVムービーのクォリティの高さを改めて思い知らされた次第。

 

フォーリングダウンとの共通項

 落ちこぼれた一人の中年男が、元妻の元へとトボトボと向かう。そして、その道中で、一線を踏み越えた男が社会の脅威になっていく。このプロット、どこかで聞いたことがないでしょうか?

 そう、本作カーク・ダグラスの息子マイケル・ダグラスの代表作と言ってもいい、ハイパーテンション・ムービーの傑作「フォーリングダウン」。本作を見ていて、気付いたのがその事。そして、みているうちに、それはまさに確信に変わった。

 ロンドン橋、フォーリングダウン~♪ 劇中でロバート・デュバル扮する刑事のブレンダガストが口ずさむ唱が印象的なくだんの「フォーリングダウン」。何よりもキャラクターのルックスがそっくりそのまま。どこから見ても実直なサラリーマン、そして顔には、いかにもダサい黒ブチメガネ。それどころか、後半にいたっては、そのメガネにヒビが入り、そのメガネをそのままかけて行動しているところまで、本作におけるジョージは「フォーリングダウン」でマイケル・ダグラスが演じたディフェンスにそっくりなのだ。

 おそらくマイケル・ダグラスは「フォーリングダウン」でのディフェンスの役作りに、父親の本作のジョージのキャラクターをそっくりコピーしたに違いない。

 親子ゆえ、顔も形も設定も何から何までそっくりで、そのままそっくりコピーしたかのようなキャラクター。なにか親子の因縁すらも感じさせてくれるTVムービーの良作でした~

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上は本作のジョージに扮したカーク・ダグラス。下が「フォーリングダウン」の息子のマイケル・ダグラス。あまりにも良く似ていませんか?

 

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